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「4G/LTE版iPhone」の可能性をおさらいしてみる(編集担当メモ)

2011.08.19

Updated by WirelessWire News編集部 on August 19, 2011, 17:00 pm JST

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(cc) Image by bfishadow

「LTE対応のiPhone」に関する話題が今週ーー米国時間15日あたりからまたウェブを賑わせているようだ。きっかけは、BGRやEngadgetといった有名ガジェットサイトが「米通信キャリアではすでにLTE対応iPhoneの実験が進んでいる」という話題を、iOSに含まれたコードの写真付きで採り上げたことで、これに「AT&Tやベライゾン・ワイヤレス(Verizon Wireless:以下、ベライゾン)が、一部のAppleStore店舗にLTE装置を設置している」といった話を被せてきたのに、アップルやスマートフォン関連の話題を扱う他のブログなどが一斉に飛びついた、という格好だ。

一例をあげると、9to5Macは「Verizon LTE is also being installed in Apple Stores」という記事のなかで、これらの話題に触れた上で、アップルのティム・クック(Tim Cook)COOが以前の決算発表のなかで、iPhoneのLTE対応について訊ねられた際、「LTEチップはまだ技術が成熟した段階にはなく、それを無理して組み込もうとすると、設計上で妥協しなくてはならない点が多くなる」との理由から、LTE対応iPhoneの投入がしばらく先になりそうな可能性を示していたことに対し、簡単にいうと「ああは言っていたけれど、もうLTEチップを組み込んだテスト機(少なくとも、ベライゾン向けのもの)ができているではないか」と記していたりする。

もちろん、まだテストの最中にある製品がほんの数ヶ月後に発売になる可能性は高くはなく、過去のiPhoneの例をみても、その点についておおよその察しはつく(CDMA版投入に向け、相当の時間をかけて準備を進めていたベライゾン、など)。またアップルという会社の性格からすれば、バッテリーまわりなどまで相当煮詰めてからでないと、新製品は出したがらないだろう。

そうしたこともあり、5月半ばに出した記事(「アップル、次期iPhoneで対応通信キャリア拡大/LTE対応は先送りの可能性 - 米証券アナリスト予想」)にある見方がいまでも有効と私は考えているが、以下ではそういう前提で「では、どんな条件が整えば、日本でもLTE版iPhoneが出回るようになるのか」等を考える際に、「押さえておくべき点」として思いつく事柄をいくつか挙げてみる。

厄介さが残る「4G」周波数帯とLTEの2つの方式

まず、LTEには2つの方式 ---「FDD LTEとTD-LTEというのがある」というのは読者のみなさんもこれまでにどこかで見聞きしたことがあるだろう。現在普及している3Gでも「W-CDMA」(日本ではNTTドコモやソフトバンクモバイルのネットワークで採用されている)と「CDMA2000」(KDDIの採用するもの)の2つがあるが、それと同じようにLTEでも2つの異なる方式がある。それぞれの技術的な詳細はここでは省くとして、ユーザーにとって問題となるのは、この違いがあるために「端末メーカー側が、それぞれに対応する部品を組み込んだ製品を用意しなければならない」というところ。

ちなみに、ベライゾンが今年2月から扱いはじめたいわゆる「CDMA版iPhone」は後者(CDMA200)の方式に対応するものだが、その投入は先行したAT&T版から遅れること約3年半。この遅れの原因の大半は技術的というよりもむしろ商売上のものと見られるが、いずれにしても余計な手間が生じることに変わりはない。

そうして、いま「すでにLTE版iPhoneの実験をしている」という未確認情報が流れているベライゾンやAT&Tでは、FDD LTEを採用している。これは日本ではまだiPhone取り扱い実績のないNTTドコモの「Xi」につかわれているのと同じもの。いっぽう、国内でいまなおiPhoneの独占取り扱いを続けているソフトバンクモバイル(正確には、子会社のワイヤレスシティプランニング)がウィルコムから引き継ぐ次世代XGPについては、孫社長が今年2月にバルセロナで開催された「LTE TDD/FDD International Summit」で「TD-LTEと100%互換性がある」と発言している。同社はこのサミットで設立が発表された「Global TD-LTE Initiative」(GTI)という団体の発足メンバーであり、中国最大手のチャイナ・モバイル(China Mobile)や英ボーダフォン(Vodafone)、インドのバーティ・エアテル(Bharti Airtel)などと共にTD-LTEを採用することが決定していると言ってよい。

つまり、アップルが米国で実験中といわれるiPhoneは、そのなかに両方の方式に1個で対応するチップ、もしくはそれぞれに対応するチップを2つ組み込んでいたりしないかぎり、たとえ製品化されても日本で出ることはまずない、と考えられる。

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さらに、これに輪をかけて厄介に思えるのが、LTE網に利用する周波数帯の違い。詳しいことは「第四次世界周波数バトルを斬る」の記事中にある図解を参考にしていただきたいが、最近では「同じ方式のLTEに対応しているはずの端末でも、対応する通信事業者が利用する周波数の違いのせいで、互換性がない場合がある」という話がでてきている。

たとえば、PCmag.comに7月半ばに掲載された記事("Verizon LTE Phones Probably Incompatible With AT&T")には、「ベライゾンとAT&Tとは、いずれもFDD方式を採用し、同じ700MHz帯を使うと言っているが、使用する周波数帯が違うため、ローミングできるかわからない」と記されている。(具体的には、ベライゾンがメインで使うのは746-787MHzであるのに対し、AT&Tでは主に704-746MHzを利用するという)。またLTE用には、この700MHz以外に、800、850、900、1500、1700、1800、1900、2000、2100、2300、2600MHzと、実にさまざまな帯域が割り当てられることになっているため、上記のベライゾンとAT&Tのような食い違いが残れば、事はがますます面倒になるとも考えられる。

「TD-LTEの旗振り役」チャイナ・モバイルの状況

これまでの説明で、「このままいくと、どうやら日本ではLTE対応のiPhoneが出るとしても、TD-LTEというやつのほうになりそうだ」という感じが掴めたかと思う。そこで次は、この方式を開発した「旗振り役」で、すでに6億人を超える加入者をもつ世界最大の携帯電話会社、チャイナ・モバイル(China Mobile)について触れてみる。

熱心なアップルファンなら、6月下旬に「北京にあるチャイナ・モバイル本社のロビーで、ティム・クックCOOの姿が目撃された」というニュースをどこかで目にしたかもしれない。(たとえば、Tim Cook spotted at China Mobile's headquarters - TUAW)

このTUAWの記事中にもある通り、「チャイナ・モバイルとアップルの間で、LTE対応のiPhoneについての話し合いが進められている」という話題は、以前から何度も登場しているもの。さらに、アップルが直近の決算発表(今年4-6月期)のなかで、中国圏(中国本土、香港、台湾)の市場がすでに同社にとって米国に次ぐ2番目に大きな商圏になっていることを明らかにし、さらに今後もっとも成長が期待できる市場としてこのマーケットを捉えているということがさまざまな媒体で伝えられていた。ちなみに4-6月期の同社の地域別売上は、日本が15億1000万ドルであったのに対し、中国が38億ドルだった(また、少し前に話題になった例の「偽アップルストア」が複数できるほど、アップルの中国でのブランド力は強いという見方もできる)。

そういう中国で、しかも現在モバイル・ブロードバンド(ただし、いまのところは3G)の普及に火が付いたところ・・・とくれば、アップルに限らず、どこのスマートフォン・メーカーでも身を乗り出さずにはいられないだろう。

アップルは、加入者数で第2位のチャイナ・ユニコム(China Unicom)を通じてGSM/WCDMA版iPhoneをすでに販売し、また今年中には第3位のチャイナ・テレコム(China Telecom)にもCDMA2000版のiPhoneを提供する可能性が高いといわれるているが、それでも数の点で圧倒的に勝るチャイナ・モバイルの加入者をなんとかiPhoneユーザーに・・・という思惑が、一連の「TD-LTE版iPhone開発」の噂の背景にあると思われる。

チャイナ・モバイルにしても、他社にユーザーを奪われるのを指をくわえて見逃したくはないはずだが、ただし同社には中国のフラッグシップ・キャリアとして、「自国で開発した3G規格であるTD-SCDMAを普及させる」という使命が政府から課せられている。そして同社は、いまのところ世界的な普及には失敗したこの規格に対応するスマートフォン端末をつくるメーカーが少ない、という重荷を背負わされている。

もっとも、中国政府とチャイナ・モバイルは、このTD-SCDMAに関して得た教訓を活かし、TD-LTEについては前述のGTIを立ち上げるなど、いまのところうまく各国関係各社に根回しをしてきている。そのため、端末メーカー側でも「機が熟せば、いつでも」ということになるのだろうが、しかし今度はその「機が熟す」のが具体的にいつになるのか、という問題が出てくる。

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このあたりについてのチャイナ・モバイル側の思惑や状況については、7月のはじめに人民日報(英語版)やWSJ.comなどで立て続けに報じられていたが、それらによると、TD-LTE網をうまく立ち上げたいとの想いは中国政府とチャイナ・モバイルとに共通するものの、同政府としては「健全な市場の育成」といった観点から、チャイナ・モバイルの独走を許すことにも抵抗があるため、結局TD-LTE網を全国展開する時期について「2014年をメドに」といった考えしか明らかにしておらず、その影響からチャイナ・モバイルでも具体的なスケジュールを立てにくい状況にあるという。実際には、TD-LTEに関する技術力を示す目的でデモ用設備が北京などにはすでに設けられているものの、本格的な実証実験について、いまのところ「来年以降に開始」となっているにすぎない。

そこで、アップルとしてはチャイナ・モバイル向けに「TD-LTE対応のiPhoneをつくっても採算が合う」と確信できる時期が来るまで待つか、それとも「TD-SCDMA版iPhone」をわざわざ開発するか、という選択を迫られることになる。もっとも、下位2社を相手にするだけでも「それなりのノビシロは期待できる」と腹を決めれば、この難しい判断を避けて通ることも可能と考えられるが。

なお、昨晩から今朝方にかけて、英語圏向けの複数のブログなどでは、チャイナ・モバイル会長が「TD-SCDMA版iPhone」に関して、アップルのスティーブ・ジョブズCEOと話をしている事実を明かしたとの話題も採り上げられている。

話を整理すると、「今後何か大きな変化がなければ日本に入ってくるLTE版iPhoneはTD-LTE対応のものになる可能性が高い」、そして「端末メーカーとしては、規模の経済効果が働く中国市場 -- とくにTD-LTEを推すチャイナ・モバイルの状況を見ながら準備を進めたい」「その中国市場でのTD-LTE網展開のペースは、政治的な思惑に大きく左右されるものとなる確率が高い」となるだろう。

ただし、今週はじめにグーグル(Google)がモトローラ(Motorola)の買収を発表した例からもわかる通り、いまのスマートフォン関連市場では「何か大きな変化」がいつ起こっても不思議はない、という捉え方もあるかもしれないが。

iPhoneユーザーとしては、まだ契約者がそれほど多くないベライゾンのLTE網で「実測で下り13Mbps超のスピードが出ている」といった話を目にすると、思わずそうした高速回線で「使ってみたい!」といった妄想が膨らんでしまうが、ここはしばらくの間じっくりと構えることにしたほうが得策かも知れない。

【参照情報 】
Verizon LTE Phones Probably Incompatible With AT&T - PCMag.com
EXCLUSIVES:Exclusive:4G LTE iPhone currently in carrier testing - BGR
Verizon LTE is also being installed in Apple Stores - 9to5Mac
Apple testing 4G LTE-capable iOS Device with carriers? - 9to5Mac
Why is LTE equipment being installed in an Apple Store? - Engadget
Apple supports China Mobile's TD-LTE tech -report - Reuters
China Mobile ambitious to lead 4G tech - China Daily
Cell Shackles Crumble - WSJ.com
Verizon LTE Worth a Look as Possible DSL Replacement - GigaOM
Long Term Evolution - Wikipedia
W-CDMA - Wikipedia
アップル、次期iPhoneで対応通信キャリア拡大/LTE対応は先送りの可能性 - 米証券アナリスト予想
第四次世界周波数バトルを斬る
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チャイナ・モバイル会長:「アップルのスティーブ・ジョブズCEOと、TD-SCDMA版iPhoneについて協議」

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