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モバイルヘルス2011報告(中編):医療現場におけるスレートPC・iPadの利用状況

2011.09.01

Updated by Yuko Nonoshita on September 1, 2011, 16:00 pm JST

8月27日に東京品川のコクヨホールにて、ITヘルスケア学会「移動体通信端末の医療応用に関する分科会」主宰で開催された開催されたシンポジウム『モバイルヘルス2011』を3回に分けてご紹介する。今回はその中編として「医療現場におけるスレートPC・iPadの利用状況」をお送りする。

医療業務のバックアップなどで活用が進むスレートPC

医療現場ではモバイル端末の活用が進んでいるが、中でもタブレットおよびスレート端末は、画面の大きさや操作性の良さ、端末そのものの高機能化が進んでいることから、パソコンや電子手帳に比べると医療現場でも導入がスムーズに進んでいるという。市場は大きくiOSのiPad、Androidのスレートパッド、WindowsのスレートPCと分かれており、医療現場でもそれぞれの特性にあったシステム開発が進められている。

▼マイクロソフトは企業全体で医療ITの支援に力を入れている
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マイクロソフト社では2007年にビル・ゲイツ会長が医療分野に力を入れると発表しており、自分で血圧や体重を測ってクラウドで一元管理するコネクテッドヘルスプラットフォームなどの開発を進めている。今年最初にリリースしたスレートPCは他社のモバイル端末に比べるとエンタープライズ寄りであることから、医療や看護の業務系での利用を目指すとしている。国内メーカーとしてWindowsが動くスレートPCを発売したオンキョーでも医療分野には注目しており、防塵・防水・対落下衝撃仕様のTough Slate PCのような、過酷な使用環境にも対応できる端末があることを紹介した。

▼日本初のスレートPCを発売したオンキョーではヘビーデューティー仕様の端末も開発している
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会場ではスレートPCを用いたシステムとして、Azureを用いたクラウドベースの訪問介護用記録システムの構築事例が紹介された。訪問先のリストをクリックすると地図や個人の情報などが照会でき、帳票ペースで記録が必要な様々な書類をブラウザで操作可能にするというもの。訪問先でカメラを起動して動画像による記録もできる。入力はチェックボックスだけで簡素化され、将来的には音声入力などにも対応する予定だが、とにかく現場で作業を終えられることがシステム構築のポイントになるとしている。

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iPadを導入した見える化で救急医療の現場の改善に成功

▼佐賀県では県内に約60台ある全ての救急車でiPadを導入している
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今年登場したばかりのスレートPCに対し、昨年5月から発売されているiPadは現場採用事例が多数報告された、もともとAppleが医療分野に力を入れてきたことや、デジタル端末に不慣れでも使いやすい点が、現場で歓迎されているようだ。佐賀県では県内に60数台ある救急車すべてにiPadを配布したところ、適切な搬送ができるようになるなどの効果を上げている。救急医療は搬送時間と生存率が密接に関わっており、患者のたらい回しが問題になってから、全国の救急車には搬送先の情報をリアルタイムに確認することを目的とした救急情報システムが導入されている。しかし、既存システムは搬送先を情報を管理するセンターに電話で確認せねばならず、病院側もデータの入力などに手間がかかる上にメリットがないためなかなか情報が更新されず、どこでもほとんど使いものにならない状態にあった。状況改善のため佐賀県が予算をつけた時に、佐賀大学医学部の救命救急センター長として赴任した阪本雄一郎教授が、電話を使わずに搬送先が確認できるようiPadの導入と、それに合わせたシステムの改善を行ったところ状況は一変したという。

▼佐賀医大病院が行った被災地の医療支援活動でもiPadが使われた
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ポイントは画面が大きく揺れる車内でも操作しやすいiPadを選んだことで、導入を提案する会議で猛反対されるかと思いきや、ものの5分で了解されたという。システムも24時間入力がない病院はグレーで表示されたり、受入れの状況によって表示が上位に来るなど工夫したところ、情報の更新率がまたたく間に上がり、リアルタイムの受入れ情報がわかるようにもなった。さらに大きなポイントは、搬送した後に患者が助かったかどうかという情報を入れるようにしたこと。受入れ件数は少ないが救命率が高い病院は評価が上がる。それらの情報を県のウェブサイトなどで公開し、見える化を進めたところ、さらにシステムを利用する医療機関が増えたのだ。合わせてその他の医療情報の公開も進めた結果、県ではこの10年で2倍に増えていた搬送件数が、わずかながら下がりはじめているという。

阪元氏は災害医療を支援するチームのDMATにも所属しており、東日本大震災では発災翌日には要請を受けて被災地で医療活動を行っている。現場は衛星電話しか使えず、情報は佐賀県や大学だけが頼りだった。こうしたことからも医療情報が扱える状況は大事だと改めて実感し、災害医療でも使えるICTの開発や、それらを普段から使えるようにしておくことが大切だとコメントしている。特に救急医療の現場は人手不足が続いており、対策は行われているものの解消には10年ぐらいかかると見られている。そうした状況を補うためにもICT化は不可欠で、iPadのような魅力ある端末で現場への関心を高めるのも一つの手段になるだろうとしている。

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iPadを使って診察から手術までトータルにナビゲート

最先端の現場でもモバイル端末の活用が進んでいる。世界で初めてiPadを使った外科手術を行ったことで、世界からも注目されている神戸大学大学院医学研究科の杉本真樹氏は、iPadをカーナビのように使って手術が行える「OsiriX Mobile」というシステムの開発を開発している。

▼杉本真樹氏が着用している白衣はポケットにiPadをすっぽり入れても着崩れないようデザインされている
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ジュネーブ大学の医師が開発した医用画像の閲覧や編集を行うオープンソースシステムをベースにしており、それをさらにiPhoneやiPod touchといたモバイル端末でも使えるようにしている。手術前の診断から治療まで、どこにいても利用できるので時間を有効に使った診療が行える。2008年にiPhoneの導入から利用しはじめたが、去年にiPadが発売された直後から端末を数台購入し、研究や症例体験のイーラーニング、そして手術現場へも活用の場を拡げている。

iPadは360度どの角度でも画像が見やすく、普段は手術を手伝うだけの看護師も医療画像を気軽に見られるようになったことで、現場へのモチベーションが上がっている。フラットでソフトーキーボードなので院内感染も防ぎやすく、何よりも楽しみながら学習できるので、現場で受入れられやすいようだ。杉本氏の取り組みを紹介する動画はYouTubeに公開されているが、医療業界という専門性の高い内容にも関わらず2万ビュー以上視聴されている。

さらに杉本氏はより正確な手術を行うために医療画像データを元に、立体プリンターを使って生体質感造形と呼ばれるリアルな臓器の模型を作成し、実際に手で触って手術の事前準備に取り組めるようにするなどの試みを行っている。模型は患者に直接見てもらえるため手術への理解度を上がり、インフォームドコンセントの質が高められるなどの効果もある。既存の遠隔医療や手術に比べ、iPadを使ったシステムは安価で、バーチャルリアリティからアクチュアリティの連携も容易に可能で、今後は、現場や証拠に使ったり、生涯教育や学校教育、裁判員裁判の証拠資料として使われる可能性もあるとしている。

他にも杉本氏は、どこでもiPadが持ち歩けるよう、ポケットに収納できる白衣をデザインしたり、コンビニのおにぎりのような袋に入れて手術室に持ち込める滅菌パック「iMedicoat」の開発なども手がけている。普段から使い慣れていること、いつでもどこでも制約なしで使えるようにすることが、医療現場でのモバイル活用には必要ともコメントしている。

▼iPad専用の滅菌パック「i-Medicoat」は手術室でも使えるよう独自に開発されたもので、コンビニおにぎりの包装と似た工夫がされている
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モバイルの普及が医療情報の活用と共有を加速化する

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科で小児・周産期地域医療学講座の教授を務める宮坂尚幸氏によると、特に産婦人科は人手不足で、分娩と婦人科の診療で院内でいる場所が離れていることがあるので、どこにいてもデータを見られるモバイルシステムは大変便利だという。iPadはどこでも持ち歩けて動画像データも扱いやすいので、専門家のアドバイスを受けたり、医師が車に乗って現場に向かうドクターカーで活用したりしている。現時点ではまだ画質が低い、電送容量が少ないなどの課題はあるが、将来的には院内カメラとつなげて赤ちゃんの状態をモニタリングをしたり、ビデオ電話機能を使って治療方法について話し合うカンファレンスにどこからでも参加できるようにしたり、様々な場所での活用が可能であり、実用化に向けた実験も進められているようだ。

▼医療データを扱う以外にモバイル端末を監視カメラと連携して患者の様態をモニタリングする技術の開発などが進められている
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日本イーメディカル株式会社と株式会社メディアコンテンツファクトリーでは、患者に医療情報をわかりやすく伝えるためiPadで利用できる医療コンテンツを構築している。日本イーメディカル代表取締役の高橋啓文氏は、院長を務める須崎医療クリニックで主に生活習慣病に関する知識を動画などで解説。現時点で自覚症状がない人達が治療を積極的に行うよう支援している。糖尿病や骨粗しょう症などクリニックで診療頻度の高い疾患向けからコンテンツを作りはじめ、現在約2000点になっているそうだ。同クリニックの診療室はほぼデジタル化が進み、通常は大きなディスプレイを使ってインフォームドコンセントを行っているので、iPadを待ち時間に渡して、自分で勉強してもらうようにしようとしている。

▼インフォームドコンセントの現場では動画像を使ったわかりやすい説明が不可欠になりつつある
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いずれの事例でも、今後モバイル端末が普及すれば、医療情報の提供や共有は積極的に行いたいとしており、そうしたニーズに向けたシステムの開発はこれからますます加速化されそうだ。

【関連URL】
モバイルヘルスシンポジウム

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。