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スマートフォン活用のメリットは「認証」 ヘルスケアシステムの中で増すモバイルの重要性

2011.11.25

Updated by Asako Itagaki on November 25, 2011, 12:01 pm UTC

モバイルヘルスソリューションはヘルスケアソリューションの一要素であり、その全体像を理解するためには、医療機関まで含めた医療情報のIT化の動向についてまず知る必要がある。

医療情報システムの標準化に精力的に取り組んでいるのが、2002年に設立されたコンティニュア・ヘルス・アライアンスである。インテル、クアルコムをはじめとするチップメーカー、オムロン、エー・アンド・ディなどのセンサーメーカーの他、デバイスメーカー、システムインテグレーター、医療機関、保険会社など、モバイルヘルスにかかわる主要プレイヤーが参画しており、その策定するガイドラインはデファクトスタンダードとなりつつある。

ヘルスケアシステムの現状と、標準化の動向について、コンティニュア・ヘルス・アライアンス日本地域委員会代表 インテル株式会社 イノベーション事業本部 デジタルヘルス事業部 事業部長の田上信介氏に聞いた。

キーワードは「つながるヘルスケア」

まず最初に、医療とヘルスケアを取り巻く状況について振り返っておこう。現在、全世界では、8億6000万人が慢性疾患を患っており、日常生活の中で健康状態を注意深く管理しなくてはいけない状況にある。その数は今でも増え続けており、やがては全世界の死亡原因の4分の3を占めるようになるとも予想される。特に日本は、世界でも有数の長寿国となり、高齢化がすすんでいるにもかかわらず、病院のベッド数は減少しつつある。同時に都市部への偏在が進んでおり、特に地方部で病床の不足が著しい。

▼病床の種類別にみた病院病床数の年次推移(出典:厚生労働省・平成21年(2009年)医療施設(動態)調査・病院報告の概況)
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高齢化がすすみ、ケアをしなくてはいけない人の数が増えているにもかかわらず、ケアをできる人が減っていることによる医療費の高騰が問題になりつつある。この問題を解決するための新たなソリューションが求められている。

もう一つ、重要な視点が、慢性疾患患者のケアコストとQOL(Quality of Life)の関係だ。ケアの形には入院治療、コミュニティケア、在宅ケアなどがあり、コストが低いほどQOLは高いという関係がある。逆に言えば、QOLの高いケアを実現すれば、ケアコストは低下していく。

▼ケア・サービスの連携と医療・健康データ共有の重要性(図版提供:コンティニュア・ヘルス・アライアンス)※画像をクリックして拡大
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増大する慢性疾患患者のニーズに応え、かつコストを軽減するために、コンティニュア・ヘルス・アライアンスが提唱するのが「つながるヘルスケアシステム」である。「IT技術の導入により、家庭、病院、クリニック、訪問介護・看護、検査システムなど、関係機関でのデータのやりとりと共有を進めること、そしてそのための標準化を進めていくのがコンティニュア・ヘルス・アライアンスのミッション」と、田上氏は語る。在宅ケアの比重が高まるということは、モバイルの重要性が増すということだ。

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クラウドを利用した情報共有に向け議論が加速

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コンティニュア・ヘルス・アライアンス日本地域委員会代表
インテル株式会社 イノベーション事業本部 デジタルヘルス事業部 事業部長
田上 信介氏

データの共有というと簡単そうだが、現実はそうなっていない。「例えば、なにかの都合で病院を変わると、全く同じ検査を再度しなくてはいけないのが現状です。これでは非効率だし、おかしいでしょう?」(田上氏)今でこそ一部の地域で「地域医療連携」として医療機関間でデータを共有している事例があるが、これまで情報を共有する仕組みはなかったのだ。

クラウドの活用にしても、これまではクラウド上にデータを置くことそのものが問題視されていた。外部にデータを置くことに対するセキュリティ上の懸念、「情報を共有するといっても誰と何をシェアするのか」という疑問、そして電子カルテベンダーの立場からすれば、他社のシステムと情報を共有する必然性がないという、システムを売る側の論理から来る理由もあった。

だが、東日本大震災を契機に、方向性は変わってきている。被災地では紙のカルテが失われたのはもちろん、サーバー上に保管していた電子カルテも、サーバーが被災することで失われてしまった。そのため、情報はクラウド上に置くべきであるという議論がさかんになっている。以前からデータを使う立場の医師の側は、特に若手を中心に、ITを活用したデータ共有には前向きだった。その流れが震災をきっかけに、加速しているといえるだろう。

訪問介護・看護のデータも、現状では多くは紙ベースでやりとりされている。電子化するだけでも効率は上がるはずだが、紙文化が根強くなかなか進んでいない。スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末の普及によりITリテラシーの問題は徐々に解消しつつあるが、現場のIT化を促進していくためには、使いやすいシステムを提供していく必要がある。

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重要なのはデータ形式とアクセス手順の標準化

データをクラウド上に置く機運は高まりつつあるが、データを上げただけでは「つながるヘルスケア」は実現できない。データ形式が共通化されていること、異なるシステムから標準の手順でデータにアクセスできることが必要になる。

そして、実際に標準化したデータが使われるためには、「データ交換の必然性」すなわち「つなぐ理由」が課題となる。つなぐ理由があれば、ビジネスモデルが確立でき、データベース化が促進され、つながるヘルスケアの実現へとつながっていく。

▼つながるヘルスケアシステム実現に必要なインフラ整備領域と課題(図版提供:コンティニュア・ヘルス・アライアンス)※画像をクリックして拡大
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コンティニュア・ヘルス・アライアンスが手がけているのは、最初の段階となる「データの共通化」である。医療用データフォーマットの標準としてはIEEE 11073シリーズが既に策定されているので、これを元にしてグレーな部分を明文化し、実際に共通フォーマットとして使えるデータのガイドラインを作成する。

対象となる領域は、健康管理、生活習慣病をはじめとする慢性疾患管理、自立生活補助の「ヘルスとウェルネス」の領域であり、カバーするシステムは、ホームオートメーションシステムから体重計、血圧計まで幅広い。これらの「センサー」を、PCやスマートフォン、あるいはセットトップボックスなどの「ゲートウェイ」を経由して、インターネット経由で医療機関やデータ管理サービスなどの「サービス」に接続する。

データのフォーマットが統一されることで、例えばA社のセンサーを使ったシステムが、センサーをB社のものに入れ替えても動作する。サービスを開発する時には、コンティニュアガイドラインに準拠して実装すれば、下位のセンサーやゲートウェイは何でも動くので、開発リソースの節約にもなるし、エンドユーザーのベネフィットにもつながる。

センサーとPCなどのゲートウェイの間のデータの転送には、Zigbee、Bluetooth、USB、Wi-Fi、NFCなど、既にある規格を使い、ゲートウェイ経由でインターネットに接続し、サービス層にデータを引き渡す。電子カルテのフォーマットについては、医療情報交換のための標準規約であるHL7(Health Level Seven)に則ることを推奨している。

▼インターフェイスとスタンダード(図版提供:コンティニュア・ヘルス・アライアンス)※画像をクリックして拡大
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常に家庭で使用するセンサーのデータを蓄積することで、健康な時、病気にったとき、入院したとき、退院したとき、そして再度通院するとき、と、個人の一生分のヘルスデータが年齢と合わせて記録される。

現在この領域で提供されているサービスの多くは、センサーのメーカーが、ゲートウェイとサービスを合わせて提供しているが、これを、レイヤー毎に水平に分業して提供できるようにすることで、新たなビジネスが展開できる。「データの形式を標準化することで、100万人、1000万人のデータを統計処理できるようになる。このようなデータベースは今まで無いはずなので、あらたなビジネス領域になるのではないでしょうか」(田上氏)コンティニュア・ヘルス・アライアンスの参加企業も、成長分野であるヘルスケアを、次世代ビジネス領域とみて参画しているのだ。

現在、コンティニュア認証機器は40数種類あり、その半数近くが日本製である。「日本メーカーが強いのは、元々IEEE11073は日本で考案された標準をベースにしており、なおかつ日本のセンサーメーカーのシェアは世界市場でも高いからです。コンティニュア・ヘルス・アライアンスの活動にも、日本のメーカーはとても協力的で、積極的に参加しています」(田上氏)

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健康情報の本人管理を原則にしたどこでもMY病院構想

国も、医療情報システムを「つなげる」ことを意識している。経済産業省(IT戦略本部)では、医療情報化促進事業の一環として、どこでもMY病院構想(自己医療・健康情報活用サービス)の実現に向けた実証事業を進めており、現在、10のプロジェクトが進められているが、この事業の公募時の募集要項に、コンティニュアガイドラインが採択されている。

「自分の健康情報は自分のもの」という考え方の元、従来は医療機関ごとに持っているカルテの情報、薬の履歴、健康診断情報や、自分で測定する体重や血圧などの健康関連情報を、本人が一元管理して活用する。データは必要に応じて、本人が医療機関などに提示することで、適切な医療の提供を求められる。

▼どこでもMY病院構想の概要(図版提供:コンティニュア・ヘルス・アライアンス)※画像をクリックして拡大
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事業の目的は、国がインフラを作ることではなく、民間が参入しやすい環境を整えるためのルール作りである。ロードマップでは第1期として医療機関が持つ情報、第2期として個人で測定する体重、血圧、食事などのバイタル情報を提供できる仕組みを目指す。2013年に、調剤情報(お薬手帳)と、診療明細書の発行を行うとしている。

東日本大震災では、処方箋やカルテが失われてしまったため被災者の薬歴が本人にも正確に分からず、避難所の医師が的確に患者の治療や投薬を行えなかったという問題がクローズアップされた。標準化されたデータが電子化された状態でクラウド上に置いてあれば、異なるシステムからでも引き出して有用に活用できたはずである。どこでもMY病院構想が実現すれば、こうした課題にも対応できると期待される。

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わずか3週間で稼働した被災地医療支援システム

コンティニュアガイドラインによるデータ標準化のメリットが活かされたのが、津波で甚大な被害を受けた南三陸町を支援する、自治医大循環器内科の苅尾七臣教授らを中心に実施した「D-CAPプロジェクト」である。被災者の避難生活が長期化するにつれ、ストレスにより慢性疾患を悪化させ、最悪の場合は死に至るようなことが起こる。防止するためには、医療支援を急性期のものから疾病管理中心へとシフトさせなくてはいけないが、現地の医師や医療スタッフでは忙しすぎてきめ細かなケアが難しいことから、遠隔地からの被災者のバイタル情報管理と、現地医療スタッフへのアドバイスを行うためのシステムを構築した。

D-CAPシステムでは個人別に発行したICカードを使って認証を行い、避難所に設置した血圧計や家庭の血圧計で測定した値を記録する。避難所で測定したデータは3G回線により直接、家庭で記録したデータは診療所から、それぞれ自治医大のサーバーに送信する。データの分析は自治医大で行い、数値に問題のある患者を発見したら現地の診療所にフィードバックする。その情報を元に現地では診療にあたれるので、医師の労力が軽減できる。

▼D-CAPシステムの概要(図版提供:コンティニュア・ヘルス・アライアンス)※画像をクリックして拡大
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システム構築には、センサーはエー・アンド・ディー、デバイスはパナソニック、認証はトッパンホームズなど、複数の企業がそれぞれの得意分野で協力した。それぞれの構成要素がコンティニュアガイドラインに準拠していたので、企画立案からわずか3週間程度でシステムは稼働した。

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医療機関向けから一般向けヘルスケアまで広がるガイドライン

コンティニュアガイドラインにのっとったシステムの事例としては、ASPベースの訪問看護支援システムをコンティニュア対応し、モバイル端末を通して家庭用計測機器のデータを正確に入力したり、ペーパレス化を図っている事例(セントケア・ホールディング株式会社「看護のアイちゃん」)、検診施設向けシステムをコンティニュアガイドラインに対応することで、検査データ入力の省力化と、モバイル対応による巡回検診への対応を行っている事例(株式会社エム・オー・エム・テクノロジー「総合検診システム」)などが既にある。

また、2011年10月に開催されたCEATEC JAPAN 2011会場で、コンティニュア・ヘルス・アライアンスとしてブースを出展し、ゲートウェイサーバーや、ソリューションの展示を行った。医療機関向けシステム、自治体向けシステムやデバイス類と並んで、コンシューマー向けのエンド・トゥー・エンドなサービスとして展示されていたのが、「goo からだログ」である。パソコンをコンティニュア対応ゲートサーバーとして使用し、(非対応機種の場合はUSBドングルを使用)、コンティニュア対応センサーの数値を読み取ってクラウド上で管理する。

▼goo からだログの概要(図版提供:コンティニュア・ヘルス・アライアンス)※画像をクリックして拡大
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Android4.0にコンティニュアガイドライン採用でモバイル対応が進む

今後の見通しとして田上氏は、「クラウド化」「サービスとデータベースの分離」「スマートフォンの活用」を挙げる。データはクラウド上に保管することが主流になり、それに伴い、データベースの利活用自体がビジネスとして成立するようになるだろう。預かったデータを解析するエンジン提供をビジネスとして準備中の会社も既にある。

スマートフォン活用のメリットは「認証」である。ヘルスケア情報はいわば究極の個人情報であり、登録・閲覧には細心の注意が必要になる。「スマートフォンであれば、端末そのものが個人のものであり、ゲートウェイと認証を兼ねることができる。データはどこにあってもいいが、認証とデータ処理を端末内で完結できることは大きい」と田上氏はそのメリットを語る。

スマートフォンに対応することで、屋外にある機器で測定したデータも一元管理することが可能になる。例えばフィットネスクラブで測定したデータや、旅先の温泉で測定した体重も、スマートフォンで取り込んで、日常記録しているデータと一緒に管理できる。

CEATECでは、トラックドライバーの健康管理にスマートフォンで毎日入力した血圧や睡眠状況のデータを蓄積し、運行管理画面に一覧表示することで乗車前チェックを精緻化し、トラブルの兆候を未然につかむシステムが展示されていた。

▼トラックドライバー健康管理システムの概要(図版提供:コンティニュア・ヘルス・アライアンス)※画像をクリックして拡大
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また、田上氏は、タブレットなどの大型のモバイル端末は、患者情報登録のためのインターフェイスと、「誰がどこにいるか分かる」訪問看護・介護システムのインフラとして活用されていくと予想する。「病院が減って、家庭やかかりつけ医の役割が増大している。ケアする人が出かけていくなら、端末も一緒に動けるモバイルを提供する必要がある」(田上氏)。

最新OSであるAndroid4.0には、コンティニュアガイドラインに則った基本骨格が実装されているとのことだ。スマートフォンをゲートウェイデバイスとしたモバイルヘルスケア市場の成長は今後加速すると予想される。

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。