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「テレビを家庭の大画面スマートフォンに」──通信事業者のスマートテレビ構想

2011.09.26

Updated by Naohisa Iwamoto on September 26, 2011, 15:00 pm UTC

──まず、テレビとネットの関係は、現在どのような状況にあるのか。

2011年7月に東北3県を除いた地上デジタル放送への切り替えが終了し、一段落したところだ。この1〜2年でひと通りのテレビの買い替えが一気に進んだことになり、家電メーカーは新しい商材を求めている。その1つが、スマートテレビやコネクテッドTVなどと呼ばれる、インターネット接続機能を高めたテレビだろう。「テレビをインターネットにどんどんつなぎましょう」と、ユーザーを啓蒙している段階にある。

▼KDDI メディア・CATV推進本部の家中 仁課長。映像関連のサービスの企画に携わっている。
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一方、KDDIには光回線を使ったネット接続サービスで利用できるIPTVサービスの「au ひかりTV」がある。テレビにつなぐSTB(セットトップボックス)を使って提供するテレビサービスである。またKDDIは、約78%出資するジャパンケーブルネット(JCN)や約30%出資するジュピターテレコム(J:COM)のようにケーブルテレビ会社とも関連がある。ケーブルテレビもSTBを使ってサービスを提供している。これらの形態ではSTBをネット対応にすれば、テレビはそのままでネットの利用が可能になる。光回線やケーブルテレビを利用しているユーザーに、新しい付加価値を提供できるというわけだ。

──テレビでネットのサービスが使えることのユーザーメリットは。

家の中で一番存在感がある電気製品が「テレビ」だろう。家ではまずテレビのスイッチを入れる人も多い。例えばショッピングをするにしても、ケータイよりもテレビの方が利用の障壁が低いと考えている。特にスマートフォンになると、タッチパネルでの操作に拒否反応を示す人がいる。テレビならば多くの人が操作に慣れていることが最大のメリットだろう。

インターネットにつないでYouTubeの動画コンテンツを見られるテレビが増えている。今までは放送で流れていたコンテンツも、ネットを経由して見られるようになってきた。こうなると、このコンテンツはテレビで見るもので、こういったコンテンツはパソコンでしか見られない、といった区別がなくなっていくだろう。

──テレビのネット接続で、どんな利用法が考えられるのか。

ケータイで使えるサービスやコンテンツが、テレビでも使えるようになることでインパクトが生じると考えている。これがパソコンやタブレット端末では、ケータイと大きな違いはない。家庭のテレビだからこそのインパクトだ。例えば、YouTubeの動画コンテンツ視聴やGoogleの検索がテレビで簡単に使えるようになる。そんなグローバルなコンテンツでなくて、もっとローカルなコンテンツも"ネット"にはある。

スマートテレビの時代には、「出前のチラシ」はなくなるのではないかと考えている。寿司や蕎麦、ピザなどの出前のチラシは、家庭のどこかに「いつか使うかも」と取ってあることが多い。しかし、いざ必要になったときには出てこない。テレビがネットに接続して手軽にコンテンツを閲覧できるようになれば、出前の情報はテレビで手軽に確認できる。出前に限らず、土日に開いている病院が知りたいなど、困ったことがあったらテレビで情報を探すスタイルが一般化する可能性がある。コンテンツ提供者側も、テレビ用に別のフォーマットでコンテンツを作るのではなく、Web用のコンテンツを流用できるのでオペレーションコストを下げられる。

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──KDDIの具体的なアプローチは?

KDDI研究所では2010年にスマートテレビにつながるいくつかの技術開発を発表している。AndroidをOSに採用したSTBの試作や、その上で稼働するアプリケーションなどである。STBのOSにAndroidを採用したのは、スマートフォンと同じプラットフォームを使うことでさまざまなスマートフォン向けのアプリケーションをSTBでも使えるようにするため。電話機で使われている機能のうち、どんな機能がテレビに映し出して使うと便利なのかを検討している。AndroidをOSにしたSTBは、ある意味では固定式で大画面を備えたスマートフォンと考えてもいい。スマートフォンが備えるWeb検索や閲覧、動画コンテンツの再生、さまざまなアプリによる情報提供やエンターテイメントを、テレビでも利用できるというわけだ。

▼2010年10月に開催されたCEATECでは、「Android搭載ハイブリッドSTB」を展示してデモを行った。テレビ(STB)とAndroidスマートフォンで再生位置情報を同期し、同じコンテンツの続きを視聴できることを示した。
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基本的には、スマートフォン向けのアプリのうち、テレビで使う機能としてはどのようなものが求められるかを検討している。テレビでネット接続するユーザー層は、スマートフォンを使いこなすユーザー層とは異なる可能性もある。スマートフォンを使いこなせない人にも、スマートフォンが提供している機能やサービス、コンテンツをテレビという画面で提供したい。そのためには、どんなユーザーインタフェースが適しているのかといったことも研究課題となる。

──テレビのリモコンは必ずしもネット利用に適していないのではないか。ユーザーインタフェースはどう考えている?

ユーザーインタフェースが一番の問題と認識している。例えば、QWERTY配列のキーボードを備えたテレビのリモコンというのも考えられるが、テレビの一般的なユーザーは"引いてしまう"だろう。かといって、現状の12キーと4方向キーのリモコンがいいとは言えない。どんなユーザーインタフェースがいいのか、大きな検討課題だ。

危険なのは、"なんでもテレビで使えるようにする"ことに考えがとらわれることだろう。テレビがネット接続する機能を備えたからと言って、パソコンやネットでできること全てをテレビに載せる必要はない。Webのコンテンツは活用したいとしても、パソコンと同じようなユーザーインタフェースのブラウザーを使うのは違うかもしれないと思っている。

利用者の属性によっても、求められる機能は違うし、ユーザーインタフェースも異なる。テレビの延長線で使いたい年配の利用者と、手元にスマートフォンを持ちながらテレビを見ている若者では使い方も求めるものも違う。スマートフォンがあるなら、検索はスマートフォンで実行して、その結果の動画やコンテンツをテレビで見るといった使い分けも可能だろう。

──マルチスクリーン化が進み、動画コンテンツをネット経由で使うようになると、ネットワークのトラフィック耐性が気にかかる。

まず、固定のインターネット回線は現状では問題ないと考えている。CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)の技術も進歩しているし、アクセス回線は光回線ならばGbpsのオーダーで提供している。トラフィック需要が伸びたら、対応するようにネットワークを増強すればいいと考えている。

一方で、ワイヤレスネットワークのトラフィックは、固定回線にオフロードすることが急務だ。現状でもWi-Fiへのオフロードを進めているし、今後はさらに方策を考えなければならない。ただし、国内では有料動画のサービスが米国などに比べると立ち上がっていないのも事実。現状ではまだ有料動画コンテンツによってトラフィックに大きな影響が出ているとは言えない。SNSのゲームによるトラフィックの方がトラフィックに影響を与えているほどだ。

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──スマートテレビ普及への課題は。

繰り返しになるが、一番大きい課題は、テレビの操作性をどうするかだろう。使いやすいユーザーインタフェースが作れないと、使ってもらえないものになってしまう。リモコンの操作性などを含めて検討していかなければならない。

もう1つはテレビにインターネットの回線をどうやってつなぐかだ。家庭ではテレビとパソコンの置き場所は異なり、インターネットの回線をテレビに引き込むのが難しいケースも多い。無線LANが普及してきたと言っても、テレビ側に無線LANの子機を接続する手間とスキルが必要になる。

実は、スマートテレビがうまく広がるには、法制度面や技術的な課題よりも、家庭の中のテレビをどうやってネット接続して使いやすく操作できるようにするかといった根本的な部分の障壁が大きい。スマートテレビに適したコンテンツや、ネットワーク技術の開発と同時に、こうした「テレビ」というハードウエアが持つ根本的な問題解決を進めていきたい。

家中 仁(いえなか・ひとし)氏
1993年入社。2011年4月より現職。携帯電話からFTTH・CATVに至るKDDIグループの映像サービス企画・戦略立案を担当。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。