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「革命的なユーザー・インターフェイス」(RUI)がもたらすもの - Asymco

2011.11.21

Updated by on November 21, 2011, 15:45 pm JST

ほんの数年前、2000年代なかば頃の世界の携帯電話端末市場は、いくつかの端末メーカーがしのぎを削る状況にあった -- 具体的にはノキア(Nokia)、サムスン(Samsung)、LG電子、モトローラ(Motorola)、そしてソニー・エリクソン(Sony Ericsson)の5社が覇権を争っていた。これらの先行組("incumbents")は、スマートフォンやフィーチャーフォン、ベーシックな携帯電話機など、さまざまな製品を取り揃えていた。またネットワーク通信機器も手掛け、顧客である携帯通信事業者と深く付き合うメーカーも多かった。

そのいっぽう、スマートフォンだけを提供する新規参入組("Entrants")もいた。これらの企業はちょっと風変わりな連中だった。HTCは当時「ODM」(Original Design Manufacturer)として名の通った会社だった -- 同社のような委託製造メーカーでは自社で設計・生産した製品に顧客のブランドを付して販売していた。HTCは、携帯通信事業者や一部の大手PCメーカー向けに、携帯電話やPDAをつくっていた。また同社はこの頃、「HTC」という自社ブランドを付した製品の販売も始めていた。RIMでもこの頃には、ポケベルから進化した電子メール用端末に、音声通話機能を追加した製品を販売していた。しかしRIMの製品は携帯電話としてはそれほど優れていたわけではなかった。通話機能があまりにお粗末だったので、ユーザーのなかにはBlackBerryのほかに通話用の電話機を持ち歩く人も多くいた。また、パーム(Palm)ではさまざまな機能を盛り込んだ「Treo」という製品を出していたが、実際に売り文句通りに使えるものは多くはなかった。

2007年に入ると、業界の様相を一変させるある出来事が起こった。この時何が起こりつつあったかを皆がほんとうに理解したのは数年後のことだったが、いったんそれがわかった時には、この出来事がもたらした変化があまりに大きく、その影響を被ったいくつもの大企業が経営的に窮地に追い込まれていることに気付いたのだった。その影響の大きさを示したのが下の図である。

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[端末メーカー別の利益の推移(営業利益ベース)/単位は10億ドル]

先行メーカー各社が互いにしのぎを削りあっていた業界の状況はほんの数年で様変わりし、複数のモバイルOSプラットフォームが争う状況になっていた。この状況下では、先行組の各社がハードウェア・インテグレータの役回りに追い込まれ、儲けをどんどん減らしていった。その結果、たとえばモトローラはある検索サービス企業に吸収された。ソニー・エリクソンもいま、ある家電メーカーに吸収されようとしている。ノキアは会社の存続に関わるような危機を経験し、自前のOSプラットフォームを捨てさえした。LGの携帯端末部門をめぐっては、他社による買収の噂が絶えない。サムスンの携帯端末事業は繁盛しているものの、それでもソフトウェア・サプライヤー(であるグーグル)の動向に左右される立ち場にある。そうして、新規参入組のスマートフォン・メーカーでさえ、窮地に立たされ始めたところもある。RIMは、新規参入組の中ではもっとも古株だが、同社の株価はいま簿価を下回り、2004年時点と同程度の水準まで後退している。パームはすでに消滅した。この変化を示したのが下の3つのグラフで、上から順番に携帯電話端末の販売台数、売上金額、営業利益の金額の推移をそれぞれ示している。(訳者注:一番下の横軸に"Q12012"とあるのは間違いで正しくは"Q12011"だろう)

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[端末メーカー各社のランキング推移/上から販売台数、売上高、営業利益(2007年Q2〜2011年Q1)]

いったいどうしてこれほどの変化が起こったのか -- 強力で頭もいいと思われていた大企業各社がなぜそんな変化が起こるのを許してしまったのだろうか。

その理由は、携帯通信端末の役割の変化にある --つまり、携帯端末の主な使われ方が、音声通話からモバイル・コンピューティングへと移行したが、この変化にともない、競争のベースが「人と人とをつなぐ」ことから「人とデータをつなぐ」ことに移り、そして先行組は、典型的な破壊的イノベーションの罠にはまることになった。そう聞いて、個々の(企業の)経営者や幹部の責任だという人も多くいるかもしれない。たぶんその通りかも知れないが、しかし複数の企業がまるで示し合わせたようかのようにこの罠にはまったのはなぜなのか。

破壊的イノベーションが生じているのを目にすると、人は自然とその原因を探りたくなる。まるで、ある大きな魔法のような力("force")や特定の出来事が原因となって、そうした破壊的な変化が起こったとでもいうように・・・たとえば、旧約聖書にでてくるダビデがゴリアテを打ち負かす話で、ダビデが使った投石器(ぱちんこ)のようなものがあるかのように、その原因を見つけ出したくなる。

この「主たる原因」についての私の仮説は次のようなものだ -- ある新たな入力方法が登場し、それがもたらした破壊的な変化の影響により、先行組から新規参入組への利益のシフトが生じた・・・。下記の図はこの考えを示したものである。

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スティーブ・ジョブズ氏は2007年のiPhone発表時に、「革命的なユーザー・インターフェイス」(Revolutionary User Interface:"RUI")として図中の3つの入力方法を示した -- Macにおけるマウス、iPodのクリック(=スクロール)ホィール、そしてiPhoneのマルチ・タッチの3つである。この3つの入力方法はいずれも新たなイノベーションだけでは終わらなかった。それぞれが新しいプラットフォームと新しいビジネスモデルの創出につながった。3つの新しい投石機のせいで、一群の歴史上有名な企業がそれぞれの犠牲者になった。Macではメインフレームやミニコンピュータのメーカーが、iPodでは巨大な家電メーカーが、そしてiPhoneでは携帯電話会社が、それぞれ犠牲者となったのだった。

ダビデが使った投石機もそうだったが、こうした新しいテクノロジーは、それ自体は強力なものではない。こうした技術が予想もつかないほど不吉な存在に変わるかどうかは、その使われ方によるところが大きい。たとえば、タッチ式の液晶画面は、テーブルの表面ではなく、携帯端末に組み込まれたからこそ、破壊的なイノベーションとなった。さらに、高速な携帯通信網と、強力だが省電力のマイクロプロセッサーがこれに組み合わされたことで、スマートフォンはひとつの力を持つ存在("force")に変わった。

こうした変化も今や歴史上の出来事となっている。iPhoneの登場以降に、スマートフォンがもたらしたさまざまな結果や、そこから生じた数々の反響はいまだに感じられているところで、その評価もまだ済んではいない。だが、次に来るシフト(地殻変動)に注意を集中させるのが、賢明な金の使い方だ。上掲のグラフのなかで示したような時間の枠組みから、「革命的なユーザー・インターフェイス」(RUI)の登場周期が短くなっていることは明らかである。マルチタッチという入力方法が登場してからすでに5年が経とうとしている。次の「RUI」となる技術はすでに世の中に存在するのだろうか。(iPhone 4Sに搭載された)「Siri」はそうした次に来る「RUI」なのだろうか。

次のRUIとなるものには、いくつかの特徴がある。その一部を書き出してみると:

  • それはまだ「じゅうぶん使い物になる」というレベルにない。
  • それにがっかりさせられた頭のいい人たちが大勢いる。
  • それは競争相手が見くびるようなものである。
  • それを動かすには、従来からあるような高価なスマートフォンは必要ない。それはユーザーの課題を解決するのに、2つの計算処理能力--端末内蔵されたプロセッサとクラウド・コンピューティングを利用するからだ。
  • ひと言でいうと、それは非対称的(asymmetric)である。

Siriがもたらす破壊的イノベーションについての私の仮説は、その登場・普及で競争の場は、個別のデバイス・プラットフォームから、ブロードバンド接続とインフラ的な計算処理能力に依拠した「複合型」のスーパー・プラットフォームへシフトする、というものである。

十分なデータを集め、そこにみられるパターンを観察することで明晰な見通しが得られるが、こうしてみるとIT業界をめぐる状況は再び大きく変わろうとしているかのように見える。

(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋)

【原文】
Revolutionary User Interfaces

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