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東北経済の種を蒔く 仙台市の中小企業・スタートアップ支援の取り組み

2018.06.29

Updated by Takeo Inoue on 6月 29, 2018, 13:44 pm JST

東北地方において最大の都市である仙台市。都市と自然が調和する中枢都市として繁栄し、人口も宮城県の約半分の108万人にも上る。特徴的な点は、教育機関が多くあり、20~29歳までの若年人口が44万人もいることだろう。第三次産業が大きな割合を占める同市は、近県からも多くの客が訪れる商業都市であり、多様化する消費者のニーズに対応する一大商圏として発展してきた。仙台市 経済局 産業政策部 産業振興課の白岩靖史氏に、東日本大震災後の経済状況や、経済活性化を担う産業振興への取り組みについて訊いた。

▼仙台市 経済局 産業政策部 産業振興課 課長 白岩靖史氏
仙台市経済局産業政策部振興課 白岩靖史氏

東北大学の技術を地場中小企業へ 産官学連携で地域経済の競争力を

東日本大震災では、仙台塩釜港や仙台空港などで大きな被害を受けたが、「震災復興計画」の取り組みにより、いち早く機能を回復した。現在、仙台塩釜港はコンテナ貨物の取扱量も過去最高を記録し、仙台空港もアジアへの定期就航が増便するなど、順調な回復を見せている。そんな同市は、平成25年度から平成29年度にかけて「仙台経済デザイン」により、地域産業の振興に取り組んできた。

仙台経済の新たな成長モデルとして同市が打ち出したのは、「中小企業を中心とした産業の基礎体力強化による成長」「イノベーションによる成長」「まちづくりを活かした成長と、東北の成長による仙台経済の成長維持」の3本柱である。

このうち、中小企業の育成は同市における重点項目として、地域経済の中核を担うエンジンとなっている。また、ビジネスフィールドとして、企業立地も進んでおり、日本アイ・ビー・エム、エリクソン・ジャパン、楽天、メルカリ、ブイキューブなど、著名なIT企業が仙台市に拠点を構えるようになった。

こういった背景もあり、仙台市では企業ニーズをサポートする複数の施策を打ち出している。その1つが仙台市と東北大学IIS研究センターを軸とし、マシンインテリジェンス技術とクラウドを融合した広域連携型のIoTを推進する「せんだいIoT推進ラボ」の取り組みだろう。

これは電気・情報系、6分野・約80の研究室を持つ東北大学との産学官連携により、製造業、農業、水産業、食品加工業などにおける地域課題を解決し、その適用領域の開拓と実証を推進する機関だ。構成メンバーの取り組みとして、これまで「高度センサ技術による農水産物の自動選別、時間短縮化」「高速自動品質検査・人間の作業の代替」など、多くの実証実験を行ってきた。

仙台市経済局の白岩氏は、「宮城県は日本で最も漁業が盛んな地域のひとつですが、震災以降は水産加工業の人手不足が深刻になっています。そこで喫緊の課題への対応として、高付加価値化、省力化などを結びつけたソリューションを提供しています。たとえば、従来まで熟練の漁業者でなければ難しかったタラの雌雄判別の作業を、超音波エコーによる画像診断の簡易装置によって実現しました」と説明する。

▼東北大学と東杜シーテックなどが共同で開発したタラの雌雄判別診断装置「BXシリーズ」。超音波エコー画像を撮り、AIで内部を判別。非破壊で衛生的。プローブと判別器が一体。防水仕様(IPX7)。
タラの雌雄判別診断装置「BXシリーズ」

この装置は前出のIIS研究センターがコーディネートし、東北大学西條芳文教授、青木孝文教授や、地元ソフトウエア企業の東杜シーテックなどが共同で開発したものだ。このような差し迫った課題に対し、仙台市は大学と地場企業が持つ技術をつないで育成する施策を打っている。現在ほかにも面白い取り組みがいくつも進んでいるという。

ユニークな自社プロダクトを持つ地元スタートアップは助成金で支援する

IIS研究センターとは直接関連していないが、地元のトライポッドワークスも、仙台を代表する地元企業のひとつだ。同社はセキュリティ製品やドローンを中心に事業を展開しているが、IoT系ソリューションとして、トラックのタイヤの空気圧をリアルタイムで常時監視するシステム「BLUE-Sensor」を開発し、いま注目を浴びている。物流業者は多くのトラックを抱えているが、その点検は大変だ。タイヤの空気が1つでも減っていると、大きな事故を引き起こしかねない。そこで考えられたアイデアがBLUE-Sensorなのだ。

「このシステムの便利な点は、タイヤキャップの交換だけでセンサーを簡単に装着できることです。Bluetoothでデータを飛ばし、タイヤに異常が発生すると、ドライバーのスマートフォンにアラートを投げたり、管理者に通知します。面白いのは多くのデータが蓄積されること。道路状況と空気圧の相関など、データに対して付加価値を生み出せます。地方のIT企業であっても、アイデアとスピード感があれば、データビジネスを展開して戦える可能性を秘めています」(白岩氏)。

このようなユニークな企業に対して、仙台市は市の助成金で直接的な支援をしたり、各種イベントでのプロモーションなどの間接的な支援を行いながら、応援をしているところだ。助成金に関しては、IoT、ドローン、そのほかのモノづくりに関して、地元企業による自社商品の開発を後押しする施策になっているという。

たとえば、助成金の活用による成功事例に、画期的な次世代3Dサウンドスピーカー「OVO」を企画・開発したスタートアップのJDSoundが挙げられる。

▼画期的な次世代3Dサウンドスピーカー「OVO」。この製品のプロトタイプの金型に仙台市の助成金が活用されたという。
次世代3Dサウンドスピーカー「OVO」

同社は、経済産業省の「地域未来牽引企業」にも選定された企業だ。このOVOという製品は、無線ではなく、USBバスパワーでモバイルと接続するが、映画館レベルの臨場感を大音量で再現できる製品だ。

実は先ごろクラウドファウンディングが終了し、約7500名の支援により1億円弱の資金調達にも成功した。製造については、かつてソニーのウォークマンなどの受託生産していた石巻のヤグチ電子工業が担当することになっている。

「このプロジェクトでは、仙台市の助成金によって、プロトタイプの金型を製作していただきました。こういう費用は一度失敗すると回収できません。我々は応援団として、中小企業が新たなチャレンジをするにあたり、助成金を使って、思い切った一歩を踏み出していただきたいと考えているのです」(白岩氏)。

OVOは、すべてのパーツ類を宮城県内の企業で固めた「Made in TOHOKU」の製品だ。海外には生産委託を一切せず、製品の品質面を保証している。そういう点でも地場産業を育てたいという熱意が伝わってくる。今後はクラウドファンディングだけでなく、一般販売の展開も期待されている楽しみな製品だ。

4年間で400件の新規事業を立ち上げた仙台市起業支援センター「アシ☆スタ」の実績

仙台市では、冒頭に少し紹介した「仙台経済ステップアッププラン」の数値目標の1つとして「新規開業日本一」を掲げてきた。この4年間で、その成果も出ているという。

「震災後には、東北地方の復興に貢献したいという多くの企業や人々が集まりました。こういった協力者に復興後も地域にとどまっていただき、事業を立ち上げてほしいと願っています。そこで創業支援を行う市の外郭団体である仙台市産業振興事業団に起業支援センターとして“アシ☆スタ”を平成26年1月に開業しました」(白岩氏)。

▼仙台起業支援センター「アシ☆スタ」。この4年間で400件もの新規事業の立ち上げに成功したというから凄い。
仙台起業支援センター「アシ☆スタ」

このアシ☆スタは「明日のスターをつくる!」という意味が込められているという。アシ☆スタを開業してから累計で400件もの事業を立ち上げた実績がある。事業を興したい有志の勉強会から始まり、実際にスタートアップに必要な知識や、その準備、コスト管理、会計、資金調達など、開業に至るまでのノウハウを持つ専門家をそろえたという。

「実は400件の起業のなかで、女性の起業家が4割も占めるのも特徴です。仙台市が国家戦略特区の指定を受け、女性活躍の敷居が低くなったことも理由の1つだと思います」(白岩氏)。

また仙台市だけでなく、隣接地域からの相談も多いという。仙台市は、東北6県から働く場を求めて、多くの人々がやって来る。そこで経済を牽引するような起業家を東北全域から発掘し、仙台で短期間でビジネスプランを練り上げ、事業をスタートさせる「TOHOKU ACCELERATOR 2017」というプログラムも実施したそうだ。

「本プログラムでは、昨年120件の応募があり、そこから15件の事業を選んで、メンターリングなどを実施しました。アシ☆スタはゼロから始めたい人向けですが、こちらのほうは事業を始めている企業も含めて、さらなる成長を目指す取り組みです。彼らが将来の仙台・東北における産業の主要プレイヤーになってくれることを期待しています」(白岩氏)。

仙台市は、東北地方のなかで一大都市であるが、自らの商圏だけの支援だけでなく、各地域から幅広く人材を募って育成していくことで、東北全体の成長にも貢献したいと考えているという。

「仙台市の活力となる若い世代のみなさんは、東北全体からやって来ています。できれば仙台エリアにずっと居てほしいという気持ちもありますが、これは我々だけの話ではありません。東北全体の経済を支えていくためにも、彼らが各都市の産業の担い手として育ってほしいと考えています」(白岩氏)。

東北随一の大都市としての仙台市は、各都市のハブとなり、起業家を育てながら新規事業を創出し、経済をドライブするという重要な役割を担っているのだ。白岩氏の言葉には、そんな矜持が秘められているようだった。

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井上 猛雄 (いのうえ・たけお)

東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。