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スプリントのiPhone取り扱いは、ほんとうに「リスキーな賭け」か - Asymco

2011.10.05

Updated by on October 5, 2011, 19:12 pm JST

Wall Street Journal(WSJ)が米国時間3日に、スプリント・ネクステル(以下、スプリント)がiPhoneの取り扱いで大きな賭けに出たと報じた。この記事は、スプリントが今後4年間に合わせて3050万台のiPhone購入をアップルに確約したとの情報にもとづいたものであった。

この記事を書いたWSJ記者らは、今年4-6月期のiPhoneのASP(Average Sales Price:アップルから通信事業者などへの平均販売単価)実績である約650ドルをもとに計算し、スプリントがアップルにコミットする金額が総額200億ドル前後になるとしている。スプリントへの卸値については、この650ドルという単価が適用される可能性ももちろんあるが、しかし必ずしもそれが正しいとは限らない。アップルによる値引きも十分あり得るし、同社が受け取るASPには周辺機器の金額も含まれているからだ。

この推定金額の当否以上に重要なのは、この取引がスプリントにとってほんとうに「博打(ばくち)」なのかどうかという点だろう。この件に関する報道を見ていると、スプリントが膨大な数のiPhoneを売りさばけると踏んで、全社の存亡を賭した一発勝負に出た、といった印象を受ける。そこで自然と湧いてくるのは、「3100万台のiPhoneを売りさばくのは、実際どれほどたいへんなことなのか」と疑問だろう。

この答え探しにあたって、まず注目すべきは、両社の契約期間が4年という点。また、この間に販売台数が直線的に増えることは考えにくく、むしろ年を追うごとに加速すると仮定したほうが妥当だろう。ここでは1年目が400万台、2年目が600万台、3年目が900万台、そして4年目が1200万台になると見積もってみる。そこで次に検討するのは「これだけの台数をスプリントが売り切れるか」という点。

この点を知る手がかりとしては、米国でiPhoneをすでに扱っている他の携帯通信事業者の販売実績データが使える。私の手元には、7月にまとめた世界の通信事業者ごとのiPhone販売数を示すデータがあるが、下のグラフはそれを元につくったもの(棒線は、緑がAT&T、橙がベライゾン、青が米国以外のキャリアの合計をそれぞれ示している)

201110051841.png
 [通信事業者別のiPhone販売台数の推移/縦軸の単位は1000台]

次にみるのは、iPhoneを取り扱っている携帯通信事業者ごとの加入者数と、それに対するiPhone販売台数の比率。下のグラフは米2社の加入者数と年間販売台数を比べたもので、ベライゾンについては過去6ヶ月の実績を年換算に直してある。

201110051842.png
 [棒グラフは、青がそれぞれの加入者数、緑がiPhone年間販売台数(単位は100万)]

このグラフをみると、加入者数に対するiPhone年間販売台数の比率はベライゾンで約10%、それに対してAT&Tでは約17%となっていることがわかる。そして、このことから両社の中間値を13.6%に仮定してみる。

この13.6%という数字をスプリントの現在の加入者数5100万にかけると、年間約700万台という値が求められる。別の見方をすると、スプリントが4年間で3100万台のiPhoneを販売するには、年間の販売台数がこの中間値をわずかに上回る割合で推移すればいいということになる。それを示したのが下のグラフである。

201110051843.png

この試算で明らかになったのは、スプリントがこれからやろうとしている「博打」の正体が、実は「ベライゾンやAT&Tと同程度の割合で、iPhoneを販売することができるかどうか」というものである、ということ。

みなさんは、これをどれほどリスキーなことと思われるだろうか。

スプリントがアップルとまとめた取引の内容は、iPhoneの人気の高さについて知られている事柄や、過去数年間に米国の消費者が示してきた(新規)購入ならびにアップグレードのパターンを考えると、ほぼ妥当なものに思われる。

AT&Tやベライゾンの場合と同様に、スプリントでも(iPhoneの)販売台数は時間の経過とともに増加していく。またAT&Tの例が示すとおり、iPhoneユーザーは定着率が高く、しかも定期的に端末の買い換えを行う。AndroidやBlackberry(スマート)との競合具合は、ベライゾンの例から推測できる。さらに、アップルへの仕入れ代金が前払いである一方、加入者からの売上は契約期間全体を通じて回収されるという点は、スプリントでも他の2社でも変わらない。また顧客の流出を食い止めるのにインセンティブを使うことになるという点も他の2社と変わらないだろう。

スプリントにとって最もリスキーなことがあったとすれば、それはiPhoneの取り扱いに関してまったく何もしないというものだったはずだ。そして、そうした選択肢を選んだ場合にどうなっていたか、その結果はT-モバイル(USA)の今後の業績から知ることができるだろう。

(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋)

【原文】
Sprint's gamble

【参照情報】
iPhone 3000万台超購入を確約 - スプリントが200億ドルを賭けた一発逆転の大勝負(WSJ報道)
Inside Sprint's Bet on iPhone - WSJ

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