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携帯事業者が健康ビジネスに参入する理由とは? 「docomo Healthcare」が目指すところ

2011.12.27

Updated by Naohisa Iwamoto on December 27, 2011, 16:00 pm JST

2011年12月1日、NTTドコモは健康分野のサービス「docomo Healthcare」(ドコモ ヘルスケア)の提供を開始した。通信事業者が健康分野でサービスを展開する意義はどこにあるのか、モバイルとヘルスケアが融合することでユーザーはどのようなメリットを享受できるのか。NTTドコモが考えるモバイルヘルスの世界を読み解く。

健康・医療データを「1カ所で安全に預かる」

NTTドコモで健康分野のサービスの立ち上げに関わっているのは、「フロンティアサービス部」というセクションだ。ここは、NTTドコモが新規ビジネスを企画・開発する部署。2015年ビジョンで「モバイルを核とする総合サービス企業」を目指すNTTドコモの、今後の新しい姿を具現化する立役者と言える。

▼NTTドコモのフロンティアサービス部で健康・医療分野を担当する堀 清敬さん
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健康・医療分野を担当するNTTドコモ フロンティアサービス部 医療事業推進担当部長の堀 清敬さんはこう語る。「フロンティアサービス部は、モバイルを軸にしつつも、今までの事業にこだわらないスタンスで新しいサービスを考える部署です。その中で、通信事業者が健康・医療の分野でどのような新しいビジネスを展開できるかを検討してきました」。

その最大の目的は、個人の健康をいい状態に保つことだと言う。2011年3月11日に発生した東日本大震災で、医療事業に関連した問題の発見につながった。「現状では、健康や医療に関するデータが1つの場所に集まっていないのです。東日本大震災で、自分の薬が流されて、さらに病院や薬局まで被災してしまう事態が発生しました。カルテも処方箋もなくなって、自分の健康状態や必要な薬すらわからなくなってしまったのです。情報の分断が、自分自身の健康を維持する上で悪影響を及ぼしている1つの例です。これは医療の非効率にもつながっていると思います」(堀さん)。

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通信事業者のサービスとして、医療や健康に関する情報を1カ所に集める仕組みを提供し、ユーザーは例えば携帯電話などからいつでも見られるようにできたら。こうした状況がサービス企画の原動力になっていると言う。「健康や医療に関するデータを安全に預かるといったドコモらしいサービスを提供できないかと考えたのです」(堀さん)。

▼「docomo Healthcare」が提供する「マイカルテ」機能で、体重や血圧など健康に関するデータを蓄積する
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堀さんは、こうしたサービスは社会的な使命感を帯びて提供すべきと言う。医療や健康データを預かっているサービスが赤字で、すぐにビジネスから撤退するようではダメだと言うのだ。社会的な使命があるということは、長期にわたって継続する必要があること。ビジネスとして成立し、継続できるスキームが必要になる。

docomo Healthcareは、健康や医療に関するデータを「お預かり」するサービスを具現化するものになる。簡単にデータを蓄積できたり、利用しているうちに自然にデータが溜まったりしているようなサービスを目指す。ビジネスモデルとしては「将来的には利用者からサービス利用料をいただけるようなサービスにしていきたいと考えています。一方、健康・医療情報のプラットフォームとしてコンテンツプロバイダーの方々に利用してもらい、プラットフォーム利用料をいただくモデルも考えています」(堀さん)。エンドユーザーとプラットフォーム利用者の両面をにらみながら、ビジネスを動かし始めたところだ。

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健康データの記録や情報入手からスタート

サービスが始まったばかりのdocomo Healthcare。実際に、複数のサービスが提供されている。サービスは大きく2つの属性にわかれる。健康状態をチェックしたり情報を預かったりするdocomo Healthcareの「基本コンテンツ」と、健康・医療分野のパートナーと連携した「おすすめプログラム」である。

基本コンテンツには、体重や血圧のデータ、飲酒や睡眠時間などの生活情報を記録できる「マイカルテ」、簡単な設問に答えるだけで気になる健康状態をチェックできる「セルフチェック」、処方された薬の服用歴を記録する「お薬手帳」、病院や病気、薬の情報を調べられる「病院・病気・お薬検索」──を用意する。特に、この中のマイカルテは、健康や医療の情報が分断されていることに対するドコモの答えの第一歩と言える。この基本コンテンツは無料で提供する。

パートナーと連携した「おすすめプログラム」には、サービス開始当初は2つのプログラムを用意した。1つは「VPD(ワクチンで防げる病気)を知って、子どもを守ろう。」の会と提携した「予防接種スケジューラーアプリ」だ。乳幼児の予防接種は、種類が数ある上に、複数回の接種が必要なものも多い。接種可能なワクチンや接種状況をアプリで一覧できるようにした。「予防接種は小さい子どもを持つお母さんにとって、管理がとても大変なものです。兄弟姉妹がいたらなおさらです。そこで、お母さんをサポートするアプリを作りました」(堀さん)。無料で利用できるアプリだ。

▼「巻くだけダイエット MOBILE」では、動画なども使って書籍とは異なるコンテンツの提供の仕方を試みる
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もう1つは幻冬舎をパートナーとした「巻くだけダイエット MOBILE」。累計200万部を超えるベストセラー書籍のモバイル版である。「動画で巻き方やエクササイズの仕方を見られるなど、書籍とは違った使い方ができます」(堀さん)。こちらは月額210円の有料サービスだ。

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医療-ICT連携を広く模索

NTTドコモは、今回のdocomo Healthcareでいきなり健康・医療分野に参入したわけではない。例えば、これまでにも東京大学医学部附属病院(東大病院)とモバイル情報機器を活用した医療情報環境の構築に関する共同研究を2009年9月から4年間にわたって行っている。「医療現場でモバイルやICTがどう活用できるかを研究しています。糖尿病患者さんはこれまで血糖値や食べ物を手帳に書いて、かかりつけ医に見せていました。こうしたものを電子化することで有効性や安全性・効率性の高い治療につなげたいのです」(堀さん)。

「MD+」と呼ぶ医療従事者向けの情報サービスも2010年4月から提供している。こちらでは著名な医師の講演などをコンテンツとして提供している。そうした医師からも、NTTドコモのサービス構想に対してアドバイスをもらえるように人脈を形成しているのだ。

こうした取り組みで、医療関係者とのパイプが作られていることがNTTドコモの強みになっていそうだ。現場で何が要求されているのか、医療の世界でどのように物事を進めるべきかなどを、現場の医師から直接学べるわけだ。それにより、ICT側からのひとりよがりにならずにサービスを企画、構築できる。堀さんは「予防接種スケジューラーアプリのパートナーであるVPDの会との連携など、医療関係者とのパイプがあったからこその素晴らしい出会いがありました」と振り返る。

NTTドコモは12月に入ってから、健康・医療分野で矢継ぎ早に施策を発表している。オムロンヘルスケアとの新会社設立を前提とした業務・資本提携の検討、慈恵医科大学との共同研究などである。総合サービス企業への足取りは確実に進んでいるようだ。

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キャリアフリー、7割がスマホ

そして、docomo Healthcareのサービスとしての特徴は、ここに極まる。堀さんは「このサービスは、ドコモのユーザーに限るといった閉じたものではありません。キャリアフリーで提供しています」と胸を張る。

「ドコモのユーザーだけが健康になれる、というサービスはどうかと思うのです。皆さんが健康になれるサービスが求められていると考えています」と堀さん。たとえば、予防接種スケジューラーアプリでは、ドコモには製品がないiPhone向けのアプリも提供する予定があるという。さらに、携帯電話への執着もない。有線のブロードバンド回線につながったパソコンから、健康・医療データを蓄積するサービスを利用するといった形態も視野に入る。そこにはドコモクローズドという印象はまったくない。

実際にdocomo Healthcareのサービスが始まって、取材時点で2週間が経過していた。その幸先を尋ねると、「プロモーションはまったくしていないのに、利用者が着実に増えています。フェイスブックやツイッターで広まっている印象があります」(堀さん)。NTTドコモのユーザーではない登録者も確実に含まれていると言う。

そして、「思ったよりスマートフォンのユーザーが多いのです」と堀さんは言う。会員登録があった端末の比率である。それは、3割、5割?と思って尋ねたところ、なんと約7割という返事が戻ってきた。スマートフォンを利用している人に、健康に意識の高い人が多く含まれているようだ。また、現行のサービスでは、予防接種スケジューラーアプリはAndroid端末向けに限定して提供されている。このアプリを利用する若いお母さん世代にすでにスマートフォンが浸透していることの一つの現れとも考えられる。

▼Android端末向けのアプリとして提供している「予防接種スケジューラーアプリ」。今後はiPhoneへの対応も進める
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堀さんは、docomo Healthcareにこれからも付加価値の高いサービスを追加していきたいと言う。いたずらにメニュー数を増やすのではなく、例えば女性のライフスタイルに即して、予防接種から育児支援、健康なお弁当、ダイエットといったサービスへと展開していくような考え方だ。使っていくうちに蓄積したデータを活用し、パートナー企業とのコラボレーションによる広がりをもって、健康な生活を送れるサービスを作り上げる。そうした意気込みを強く感じた。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。