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モバイルプロセッサの成否がスマホの命運を握る

2012.03.02

Updated by Kenji Tsuda on March 2, 2012, 04:04 am JST

モバイルプロセッサを巡る競争が一段と激化している。MWC2012では、プロセッサメーカーはスマートフォンメーカーと一連托生であることがよく見えた。その逆も然りである。

今、最も勢いのあるTegra-3とSnapdragon

2011年11月に米ファブレス半導体のnVidiaが従来のTegra-2 の5倍程度性能を上げ、消費電力をさらに減らしたTegra-3を発表したが、今回のMWCにTegra-3をモバイルプロセッサに使ったスマートフォンやタブレットを一斉に展示した(図1)。

▼図1:Tegra-3を使ったスマホたち 左から富士通、K-Touch、LG、ZTE
MWC2012-tsuda-1-1.jpg

QualcommのSnapdragonモバイルプロセッサは最近最も勢いのあるプロセッサのひとつであり、QualcommはTexas Instruments(TI)のモバイルプロセッサOMAPを片隅に追いやってきた。最近、Qualcommが注力しているプロセッサは28nmの最先端プロセスで作ったSnapdragon S4である。

これまで、Snapdragonに押されて、業績にも影響を及ぼすようになったTIは、満を持して最高級CPUコアのARM Cortex-A15をデュアルコアで搭載したOMAP-5を今回出してきた。

モバイルプロセッサと並んで、スマホやタブレットの通信機能を左右するベースバンドチップの新製品も発表された。NTTドコモがNEC、パナソニックモバイル通信、富士通と提携し、2GのGSMと3GのW-CDMA、3G+のHSPA+方式、さらにFD-LTEとTD-LTEまでも集積したシングルチップのベースバンドプロセッサを開発、展示した。

モバイルプロセッサとしてQualcommのSnapdragonやTIのOMAPにはプロセッサ機能だけではなく、ベースバンド機能も集積している。この結果、BOMが下がり、コスト競争力が増す。

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ベースバンドチップを巡る競争とよく似たモバイルプロセッサの競争

実はモバイルプロセッサを巡る競争はベースバンドチップを巡る競争と極めてよく似ている。かつて中国の携帯電話市場で圧倒的な存在感を打ち出していたMotorolaがNokiaやSamsungに取って代わられるようになると、Motorolaにベースバンドチップを出していたFreescale Semiconductorの業績が悪くなった。この後、Nokiaのベースバンドチップを勝ち取ったTIはNokiaと共に成長したが、Nokia の業績が悪くなるとTIの業績も悪くなった。今、ここに伸してきているのはQualcommであり、それを必死に追いかけるnVidiaだ。

ベースバンドチップは、高周波に音声やデータを載せて送受信するために信号を変調したり、元の信号を取り出すために復調したりする半導体チップである。変復調過程において、フーリエ変換することが多いためDSP(関和演算専門のデジタルシグナルプロセッサ)を使ってデジタル変復調することが多い。TIはDSPを1990年代から力を入れてきた。通信機能を主としていた従来の2Gや3Gなどの携帯電話ではTIの存在感は圧倒的だった。しかもTIはDSPだけではなく、マイコン(マイクロコントローラ)も持っているため、モバイルプロセッサ+ベースバンドチップのシングルチップ化も可能だった。この強力なTIを追いかけてきたのがQualcommだった。

携帯電話で大成功を収めたNokiaはスマホで大きく出遅れた。エコシステムを構築し普及が著しいAndroidを使わず、携帯電話用のSymbianと独自OSをいまだに使っている。しかし、Nokia がこのまま収まっているはずはない。マイクロソフトとタイアップしてWindows Phoneを推進している。OSに強いMicrosoftと新興国に強いNokia がWindows Phoneをどこまで伸ばせるか、が実はQualcommの業績にも影響を及ぼす。というのは、Windows PhoneにもSnapdragonが使われているからだ。

全く息を抜けないような激しい競争が繰り広げられているスマホやタブレットのモバイルプロセッサ市場で、彗星のように現れたのがnVidiaである。これまでパソコン用のグラフィックスチップに強いnVidiaが携帯電話にグラフィックスを載せるとなると低消費電力技術を導入しなければならない。これまで培ってきたグラフィックスチップをモバイルプロセッサのグラフィックス回路に組み込み、プロセッサの高速化と、周波数ゲーティングと電圧ゲーティングという低消費電力技術を導入し、Tegra-2でMotorola MobilityのXoomに搭載し、注目を集めた。しかしベースバンドチップは外部から購入した。

ベースバンドチップを持っていなかったnVidiaは、英国のソフトウエア無線(SDR:software defined radio)のファブレス企業であったIcera社を昨年、買収、ベースバンドチップを手に入れた。nVidiaは、このIceraの成果を今回のMWCで発表した。Icera社のSDRを駆使したベースバンドチップは、LTEやHSPA、W-CDMAなどの機能を実現してもチップ面積が増えない。65nmプロセスではQualcommの半分しかないと言われていた。今、Qualcommを脅かす存在になりうるのは、nVidia であるといっても過言ではない。

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スマホに求められる「低消費電力」実現の鍵となるモバイルプロセッサ

今回、MWCで発表されたモバイルプロセサのいくつかを簡単に紹介しよう。勢いのあるnVidiaは今回、中国ZTEのMinosa XにIcera450とTegra-2を搭載したスマホを発表した。Iceraチップの搭載はこれが初めてだが、Tegra-3を搭載したスマホはHTCのOne X、富士通、などがある。いずれのスマホメーカーもTegra-3の特長である、クワッド(4個)コアと低消費電力のコア1つが性能のカギを握っていると紹介した。

Qualcommのチップ、Snapdragonはマルチコアを独立に動かすことのできる非対称のコアを搭載したことで、低消費電力化を達成したもの。CPUコアの動作周波数をスマホやタブレットの動作に応じて周波数を変えることができる。このため、ウェッブブラウジング、ビデオ動作、グラフィックス表示といった様々な動作を行っている場合に、周波数を落としても差し支えない動作のCPUコアの動作周波数を下げることができる。この結果、消費電力を上げずに済む。

▼図2:TIのOMAP-5(※画像をクリックして拡大)
MWC2012-tsuda-1-2.jpg

今回のモバイルプロセッサで最も新しいのがTIのOMAP-5だ。アドレシングを40ビットに拡張したCortex-A15 MP coreを2個集積しただけではなく、Imagination Technologiesのマルチコアの3次元グラフィックス回路POWERVR SGX-544 MPxも搭載した。今回の展示会ではこのチップを搭載した携帯機器には全く触れなかったが、いずれ発表があろう。

 
文・津田 建二(国際技術ジャーナリスト兼セミコンポータル編集長)

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津田建二(つだ・けんじ)

現在、英文・和文のフリー国際技術ジャーナリスト兼セミコンポータル編集長兼newsandchips.com編集長。半導体・エレクトロニクス産業を30年以上取材。日経マグロウヒル(現日経BP社)時代からの少ない現役生き残り。Reed Business Informationでは米国の編集者らとの太いパイプを築き、欧米アジアの編集記者との付き合いは長い。著書「メガトレンド半導体 2014-2023」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」など。