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破壊的イノベーションとはなにか、どうすればその力を活用できるか[1] - Asymco

2012.03.13

Updated by on March 13, 2012, 20:57 pm JST

ビジネスに関する「破壊的イノベーション」("business disruption")とわれわれが呼んでいる現象は、もっと別の名前で呼ばれるほうがよいのかもしれない。この呼び名はある産業の分野で生じる混乱ぶりや(それまでの流れの)断絶ぶりをよく示すものだが、現象自体にはもっと多くのものが含まれている。

この「破壊的イノベーション」の定義について私がよく用いるのは、「ある業界において、支配的な既存勢力から不利な立場の新規参入者へと富の移転が生じること」というもの。これは簡潔で、経済的価値の点を強調した便利な定義である。またこの定義であれば(当事者の)勢いの盛衰や特別なことが起きたことをそれとなく伝えることもできる。

しかしながら、この定義では抜け落ちてしまうニュアンスや無視されてしまう矛盾点もある。次に挙げるのはそうしたものの一部である。

  1. 破壊的イノベーションが生じるとたしかに富の移転が起こるが、その際、富(の総量)が変化しないというわけではない。ある業界が破壊的イノベーションを経験したことによって、以前よりも規模を拡大させたり、生産性や影響力を高めるといった例もめずらしくない。破壊的イノベーションは通常、実質的な成長を生み出す。
  2. 破壊的イノベーションは、実はとてもありふれた現象でもある。実際、それが起こらなかった分野はほとんどない。極端な言い方をすれば、ある業界で破壊的イノベーションが起こらないというは、その業界全体が危機に瀕していることを示す兆候といえる。
  3. 破壊的イノベーションはとてもありふれているため、常に生じているものとみなすことができる。また、そうした変化が周期的に起こっていると考えることもできるが、ただしそれが起こる周期はますます短くなっている。
  4. 破壊的イノベーションという言葉からは苦痛や破壊など否定的なイメージが思い浮かぶが、しかしこれは経済を健康的な状態に保つために必要なものである。
  5. 破壊的イノベーションの研究が進み、その特徴が示されたのは比較的最近のことだが、そのパターンは歴史上のどんな時代でも見られたものである。

破壊的イノベーションがもたらす結果あるいはその副作用については、これまでにいくつかの例を示してきたが、ここでもう一度、私がもっとも馴染みのある例を使いながら、その意味を考えてみたい。次に示すAMP(Asymco Mobile Performance)インデックスのチャートは、携帯電話端末メーカー各社の成功の度合いを測るために考えたもの。縦軸の数字(%)は4つのシェアーー携帯電話端末のシェア、スマートフォンのシェア、売上シェア、営業利益シェアの4つを合計した平均値である。

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このチャートからは各社の盛衰の様子がはっきり読み取れる。たとえば、モトローラ(Motorola)とソニーエリクソン(Sony-Ericsson)はかつて、10年以上にわたって携帯電話端末市場で相当なシェアを握っていたものの、最近では別の企業に買収合併されてしまった。LGもまたこの2社と同じ運命をたどることになるかもしれない。さらに、2000年代はじめの10年間に最も成功を収めていたノキア(Nokia)は現在ひどい苦境に陥っており、同社の時価総額は簿価すれすれの水準にある。いっぽう、スマートフォン分野の先駆者であるRIM(Research In Motion)は時価総額が簿価を下回っており、またHTCでも上位争いに踏みとどまる方法を模索している状態だ。

こうしたメーカーごとの盛衰とは別に、市場全体が価値の点でも数量の点でも大きく成長していることを理解しておく必要がある。携帯電話端末の購入に費やされる金額はこれまででもっとも多くなっており、利益の総額も増加している。スマートフォン・ブームが起こっていることは否定しようもない。最新モデルを求めて人々が行列をつくり、製品の供給が追いつかず、またそんな話題がメディアで採り上げられる・・・そうした現象が世界中いたるところで起こっている。

また、他社の起こした破壊的イノベーションの影響で、現在は苦境に立たされるノキアが、かつては起こす側に立っていたことも忘れてはならない。1990年代には、まずモトローラが、そしてエリクソンが市場を支配していた。ノキアは比較的後発だったが、いくつかの点で他社よりも優れた製品を投入したことで成功を収めた(テキストメッセージ機能の使いやすさなど)。また同社の非対称な戦略もこの成功につながった。つまりロジスティクスの活用と製品ポートフォリオのアプローチで秀でたことで、規模の拡大と利幅の維持を両立させていた。ノキアはビジネスプロセスにイノベーションを持ち込んだが、その結果競合他社では部品の手配がつかなくなり、また同社が強力な流通網を築くことも可能になった。さらに同社はソフトウェア(開発)に資金を投じることもでき、そのことが数年の間、同社にしかないセールスポイントにもなっていた。

さらに過去に遡れば、携帯電話機市場で何度か破壊的イノベーションが起こっていたこともわかる。アナログ波からデジタル波への変化はそうした例のひとつである。アナログ時代に成功していたメーカー(主にモトローラ:同社は端末のほかにインフラ関連機器の供給も手がけていた)は、グローバルなデジタル(波)の規格が根付いた時に、脇に追いやられた。その後、2G(GSM)が優勢になりつつあった時代にはソフトウェアとハードウェアの両方を提供していた欧州のベンダー各社が支配的だった。また、日本の「iモード」のような統合型イノベーションが一時的に小さなブームになった例もあるが、その後に生じた標準化の流れやいわゆる「ガラパゴス症候群」のせいで立ち消えになってしまった。

また、そもそも携帯電話自体が固定電話に対する破壊的イノベーションであったことも忘れてはならない。固定回線から携帯通信網への移行、携帯電話のアナログからデジタルへの移行、そして最近のフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行はいずれも破壊的イノベーションであり、そうした変化の状況では、既存の勢力が力を落とすいっぽうで、それに代わって新たな一群の企業が市場を牽引するようになる。

さらにこうした変化が生じる周期が短くなっている点にも注意を払うべきである。前掲のチャートは過去5年間の変化を示したものだが、それに比べると、たとえばアナログからデジタルへの移行にはもっと長い時間がかかっていた。アナログ方式の携帯電話は登場から10年経った時点でもまだ市場を支配していた。また、固定電話から携帯電話への移行には何十年もかかっている(一部の地域では現在もなおこの移行プロセスが続いている)。この入れ替わりのスピードはとても遅く、なかには固定回線の普及段階をすっ飛ばして、いきなり携帯電話が普及した国もある。

ソフトウェアが重要な部分を占める端末と、そしてクラウドベースの分散型コンピューティングが台頭してきたことで、さまざまな変化のスピードはさらに早まることになろう。ユーザーベースは地球全体の人口とほぼ等しいところまで拡大しているものの、端末の入れ替えスピードを考えると、人々が使うツール類やサービス類の変化は、需要側よりもむしろ供給側での制約を受けていると思われる。サプライベースのイノベーションもしくは「新しい製造(方法)」はおそらく、これから10年にわたって競合各社の支配力を決定する非対称性となるだろう。

アップルがiOS(端末の提供)を通じて世界に押しつけた、携帯電話端末分野での破壊的イノベーションは、同社の時価総額を世界一にまで押し上げた。同社の時価総額はテクノロジー分野の競合他社だけでなく、全業種のどの企業よりも高くなっている。そんなアップルを例外的な存在とし、経済全体の姿を反映しているわけではないという人もいる。彼らの言い分は、経済の現状を本当に理解するには、そのなかからアップルの存在を差し引いてみる必要があるというもの。しかし、そんな考えこそまさに間違っていると私は感じる。アップルは、iPhoneとiOSのエコシステムを通じて、いまの時代を定義している。マイクロソフトはかつて「知識(集約型)労働者」の創出を通じた生産性向上の時代を定義していた。また1950年代には、GMが移動(手段)とブランドについての考え方を再定義した。1960年代から70年代にかけては、IBMがオートメーションによるビジネスプロセスの効率(化)を再定義した。これらの企業はいずれもその時代における例外的存在ではなかった。こうした企業こそがその時代を動かしていた。これらの企業はその時代の成長の原動力だった。こうした支配的企業から他の企業はオペレーションを学び、同時代の管理者は管理の方法を学んでいた。アップルはいま、そうした時代を定義する企業の立ち場にいる。

今日アップルについて学ぶ企業は、同社がいかにルールを書き換えたかを理解することから恩恵に手にすることだろう。今日では例外的存在が基準となっている。例外こそがルールである。まさに時代が変化したのだ。

最後に。歴史的な観点から破壊的イノベーションについて考えてみる。私は以前、電信の歴史についてのエッセイを書いた。一世紀も前に起こった破壊的イノベーションについて、それをどう解釈できるかを示す寓話として書いたものだ。いま私がしたいのは、こうした一連の歴史的な出来事を手がかりに、各国の指導者層が破壊的イノベーションの力を採り入れた、その能力の違いによって、それぞれの国の命運がどう決せられたかを示すことである。

規制当局の関係者や政策立案者、政治的指導者層にとって、成長やその成長の限界を示す実例(の研究)、統合型のアプローチかそれともモジュラー型のアプローチかについての議論、さらにバリューチェーンの進化といった話題は、いずれも使い途のある話だと思う

4月13日にアムステルダムで開催するAsymconfで、この話題に関する対話が始まる。みなさんとお目にかかれるのを楽しみにしている。

(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋 / 原文公開日:3月12日)

原文
What is disruption and how can it be harnessed?[1]

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