今年初めにフランスでスタートした「フリー」（Free）というブランドの携帯通信サービスがある。このサービスが巻き起こした騒動についての情報を目にすることが、このところ増えている。

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フリーで新たにモバイルサービスを仕掛けたのは、ザビエル・ニール（Xavier Niel）氏という起業家が率いるイリアド（Iliad）。同社は1999年から「フリー」ブランドで定額制のブロードバンド接続サービス--VoIPやIPTVも含む、いわゆる「トリプルプレイ」を提供し、月30ユーロという低価格が受けて昨年末まで約500万人の加入者を獲得。またこの影響から、それまで従量課金制を続けてきたフランステレコムなどの競合各社では実質的な料金引き下げを余儀なくされたと、昨年12月にニール氏を取材したGigaOMのオム・マリックは記している。

4月初めにBusinessweekが掲載した記事には、このフリーのモバイルサービスが、月額20ユーロで通話、メッセージ、データ通信とも使い放題という低料金を武器にすでに推定200万人の加入者を獲得。また、この影響から携帯端末大手3社--フランステレコムの「オレンジ」（Orange）、ビベンディ（Vivendi）の「SFR」、それにボイグ・テレコム（Bouygues Télécom）がそれぞれ値下げに踏み切ったことなどから、各社の収支が悪化し、最大で1万人程度の人員削減に追い込まれるとの予測が政府関係当局から出されてもいるという。

とくに、昨年ボーダフォン（Vodafone）からSFR持ち株を取得して完全子会社化したばかりのビベンディでは5億7000万ユーロもの利益減少予測が出ており、経営トップの交代に発展。ボイグ・テレコムでも2013年までに3億ユーロのコスト削減計画を発表しているという。

フランステレコムは2月の決算発表時に、フリーの影響について、同サービス開始からの約1ヶ月間に記録した加入者減少数は20万1000人と説明していたが、これについてGigaOMでは、「100万人以上の既存加入者減少を、83万7000人の新規契約者が相殺した結果」として、加入者全体でも約2700万人しかいないオレンジにとってフリーの影響は少なくないと指摘していた。

フリーが低価格のサービス（もっとも低料金のメニューは、月2ユーロで60分の無料通話付というものという）を提供できる理由について、GigaOMのオム・マリックは、フリーがかつてバブル崩壊後に安値で買い集めたダークファーバー網、そにに500万人の加入者に配布したセットトップ・ボックスの2つを挙げている。とくに後者については、すでにWi-Fiアクセスポイントの機能を含み、他のフリー・ユーザーもこれを共有できるようになっている。また新しい機種にはフェムトセルを内蔵するため、同社では1万5000箇所のマクロセル（基地局）で済ますことができそうだという。

いまのところ、フリーのサービスをめぐっては主に2つの点が議論の的になっているようだ。その1つは、サービス開始にあたって同社とローミング契約を結んだフランステレコムに対する同業者からの非難。もうひとつは、同社のサービスが時につながりにくくなったり、メールやメッセージの遅配が生じるというユーザーからの苦情。ただし、「これだけ安いならしかたがない。オレンジと契約していた時には月に100ユーロもかかっていたのが、いまでは20ユーロになったのだから、月に1、2度のバグはガマンする」というユーザーの声がBusinessweekでは紹介されてもいる。

なお、イリアド（フリー）のニール氏は、米モバイル決済サービス、スクウェア（Square）に個人で出資もしており、そうした関係もあってか、これからの携帯電話会社は「ID（身元証明）サービスや決済サービスから利益を上げるようにするべき」との考えで、「いまだに音声通話やショートメッセージに料金を払うのはおかしい」と述べたとGigaOMは記している。

【参照情報】
・free
・Vivendi caught unaware by telecoms rival - FT
・Free's Low Rates Rattle French Telecom Industry - Businessweek
・French telecoms battle heats up - FT
・Orange customers flee to Free Mobile's new ultra-cheap plans - GigaOM
・How France's Free will reinvent mobile - GigaOM
・Follow-Up: How France's "Free" Cell Phones Really Did Disrupt The Industry - FastCompany