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CTIA2012レポート(3)音楽、ゲーム、ペイメント、それぞれの「地に足のつきかた」

2012.05.10

Updated by Michi Kaifu on May 10, 2012, 22:04 pm JST

盛りだくさんの初日が終わり、二日目の今日は、基調講演のラインアップはやや軽量級で、参加者の出足も今ひとつ。この傾向は毎年のことで、二日目はどちらかと言うと、展示を主に見る人が多いようだ。私は、今日もキーノートとワークショップ中心で、展示はまだざっとしか見ていない。

1.CTIAにおける音楽

どういう理由かはわからないが、CTIAで「エンタメ系」というと、音楽関係のサービスやテーマが取り上げられることが歴史的に多い印象がある。2000年代前半のお祭り騒ぎの頃は、毎回のように二日目の軽量キーノートにヒップホップ・アーティストが出てきて公演し、全く浮いていて場違い感を出しまくっていた記憶がある。

しばらくそういった演出は影を潜めていたが、今年は昨日のキーノートの前に、ニューオーリンズ出身のジャズ・ミュージシャン、トロイ・アンドリューズ(別名Trombone Shorty)のバンドの小粋な演奏で幕を開けた。CTIAの音楽の演出も、ようやく地に足がついてきたようだ。

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キーノートには、初日にインターネットラジオのパンドラ(Pandora)、二日目の今日は音楽ストリーミング・サービスのスポティファイ(Spotify)が出てきた。どちらも、日本ではサービスを提供していない。

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パンドラは、自分で好きな音楽を集めた局を作れるパーソナル・インターネットラジオで、アメリカだけでサービス提供している(詳細は私のブログ記事参照)。スポティファイは欧州で大人気を博し、昨年アメリカに上陸した、オンデマンド・ストリーミング・サービスだ。

両者は、米国の法律上では別のカテゴリーに属し、著作権の扱いが異なる。前者は「ラジオ」なので、オンデマンドで曲を指定できず、機能的に種々の制約がある代わりに、個別楽曲の事前許諾が必要ない「強制許諾」方式なので、何でも流すことができる。(ただし米国の法律に合わせてあるので、他の国ではサービスができない。)一方、後者はユーザーが聴きたい曲を個別に指定できるオンデマンド方式で、その代わりラジオのような「強制許諾」でないため、個別楽曲についてレーベルと交渉して契約をしなければいけない。このため、パンドラではビートルズが聴けるが、スポティファイでは聴けない。パンドラでは局を指定すれば勝手にパンドラ側が楽曲を選んで流すのに対し、スポティファイでは、ユーザーが自分でプレイリストを作る、というインターフェースの違いもある。

いずれも、ビジネスモデルは「広告」「フリーミアム」「アフィリエイト(ユーザーがそれぞれのサイト経由で楽曲をiTunesなどで買った場合)」の組み合わせである。

昨日のパンドラの講演では、ジョー・ケネディCEOが「インターネット・ラジオとしてのパンドラの性質の中でモバイルは非常に重要である」とし、さらに「ラジオとしての性格から、米国では自動車の中での利用がもう一つの普及のポイントである」と説明した。
確かに、2007年にモバイル端末に対応してからパンドラは一気に知名度を上げ、また最近のモバイル周辺で盛り上がっている「自動車へのネットサービス搭載」の際には、どこも必ずパンドラが最初のパートナーとしてがっちり組み込まれており、自動車との統合によるさらなる拡大を目指しているようだ。

▼ミニ・クーパーのダッシュボードに組み込まれたパンドラ・アプリ(Pandora:ジョー・ケネディ氏)
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一方、今日のスポティファイ創業者ダニエル・エクCEOの講演では、同じようにモバイルは重要ながら、戦略としては「プラットフォーム」を強調。フェースブックのAPIを使ったインテグレーションが人気となっているのに加え、スポティファイ自身がプラットフォームとなって、個別の開発者やアーティストが「スポティファイ・アプリ」を作ったり、自分のウェブサイトに組み込んだりできる。

▼スウェーデンでは、スポティファイの売上が伸び、海賊版が減少した(Spotify:ダニエル・エク氏)
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モバイル音楽は、引き続きアップルを中心とする楽曲ダウンロードが軸となっているが、その周辺サービスとしてのストリーミング・サービスは、ナップスター時代から多くの失敗を積み重ねた後、ようやくこの二大勢力が地に足のついたサービスとして定着しつつある。

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2.ゲームとペイメント

 このところ米国ではモバイルゲームが盛り上がっており、特に昨年以来「社会現象」ともいえるアングリーバードの流行は「ポケモン」ブームを彷彿とさせる。(参考記事:「アングリーバード」現象に沸く米モバイルゲーム業界(日経ビジネスオンライン)

モバイルゲームの流行は、米国ではなかなかやりたくても障害が多かった「アイテム課金」がようやく普及してきて、ゲーム業界にお金が回りだしていることも後押ししている。このため、さぞかし「ゲーム」周辺のワークショップや展示、それにまつわる「アイテム課金」の話などが目白押しだろうと期待してきたのだが、そうではなかったので拍子抜けしてしまった。

どうも、従来型の携帯世界のCTIAの人々は、「エンタメ」といえば権利者とガリガリ交渉してきっちりお金をまわす、映画会社やレコード会社の枠組みのやり方に親和性が高いようだ。昨年のバルセロナで見たような、スマートフォン・アプリの軽い上位レイヤーの世界は不得意なのか、わざと展示会から排除しているのか、よくわからない。

ゲーム業界代表としては、エレクトロニック・アーツ(EA)のジョン・リチティエロCEOが、「ゲームコンソール・IPTV・モバイルなどは互いに競合するプラットフォームではなく、我々の戦略は同じタイトルを多端末でシームレスにプレイできるようにすること」といった話をした。確かに、モバイルゲームでも、大手EAのシェアは大きく、同氏曰く「ベンチャーのスマートフォン・アプリのピュアプレイであるアングリーバードは例外中の例外」なのだそうだ。まぁそうなのだろうが、私はどちらかと言えば、アングリーバードの話を聞きたかった。

▼多種の端末でプレイできるゲームの戦略を説明(EA:ジョン・リチティエロ氏)
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また、ペイメントとしては、初日にMaster、二日目はVISAという、クレジットカードの2大企業が出てきたが、どちらかというと新興国でのモバイル・ペイメントの話が中心で、米国でのNFCの紹介もあったが、米国での現在のモバイル・ペイメントの問題を解決するような話ではなく、これはあまり地に足のついた感じがしなかった。

さていよいよ明日は最終日。キーノートもワークショップもなく、おそらく人が少なくなると思われるので、ゆっくり展示を見ようと思う。

【CTIA2012 公式サイト】
International CTIA WIRELESS® 2012

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海部美知(かいふ・みち)

ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
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