これまでスマートフォン市場でハイエンドのユーザーを主なターゲットにしていたアップル（Apple）が、ここにきてプリペイド式でサービスを提供する通信事業者との取り組みを本格化させ始めたようだ。

Wall Street Journal（WSJ）が米国時間5日に伝えたところによると、スプリント・ネクステル（Sprint Nextel：以下、スプリント）が「バージンモバイル」（Virgin Mobile）ブランドで展開する自社MVNOサービスのプリペイド加入者にも、まもなくiPhoneを提供する見通しだという。

プリペイド事業者によるiPhoneの取り扱いについては先週、米リープ・ワイヤレス（Leap Wireless：以下、リープ）が傘下の「クリケット」ユーザーへの提供を発表していたばかり。WSJによると、スプリントでは今週中にもこのプリペイド・プランを発表し、早ければ7月1日からiPhoneを発売することになりそうだという。

スプリントは昨年秋に開始したiPhoneの販売を前に、4年間で155億ドル相当のiPhone購入をアップルにコミットしたと伝えられ、大きな話題を呼んでいた。バージンモバイル経由で販売されるiPhoneも、この時コミットした数量のなかに含まれるとみられている。

スプリントでは、今年第1四半期に長期契約者が19万2000人減少したいっぽう、プリペイド加入者の増加数は48万9000人に上ったという。

アップルは4月に行った決算発表の際、昨年10月に投入した「iPhone 4S」への需要が一段落し、また今年秋にも発表・発売が予想される次期iPhone（iPhone 5）の登場を控えて、しばらくはiPhoneの売れ行きが鈍化する可能性もあるとしていた。それに対し、競合するAndroid陣営ではサムスン（Samsung）の最新ハイエンド機「Galaxy S III」をはじめとして新しい製品が次々と市場に投入されている。

また、アップルのティム・クック（Tim Cook）CEOは過去に何度か、主に新興国市場を想定した中・低価格モデルの投入可能性について訊ねられたこともあったが、たとえば中国市場のように、平均月収の何倍もするようなiPhoneに購入希望者が殺到するといった例をあげながら、「かならずしも低価格の製品を出すことが正解とは思わない」などと答えて、明言を避けていた。

そのいっぽう、「少量多品種」の真逆をいく戦略を採るアップルの製品では、量産効果が急激に現れるということも一部で明らかにされている。たとえば、Bloombergは4月に、独自調査の結果、平均459ドルで販売されるiPad（世代やバージョンは不明）の原価について、発売当初の405ドルから10カ月後には331ドルまで低下する（それだけ粗利が増える）ことがわかったと報じていた。

先週発表されたリープ・ワイヤレスの計画では、取り扱い機種を「iPhone 4S」16GBモデル（499.99ドル）と「iPhone 4」8GBモデル（399.99ドル）に絞り込んだ上で、たとえば前者について同等機能を備えたSIMロックフリーモデルより100ドル以上も安い価格でユーザーに販売するとなっている。

この「差額分を誰が負担するのか」という点については、いまのところ見方が分かれているようだが、「3年間で9億ドル相当をコミットした」とするリープCEOの発言を手がかりに、「アップル側でかなりの割合を負担することになるのではないか」という見方もある。仮にこちらの見方が正しいとすれば、アップルは全体の粗利率をほぼ維持しながら、量産効果で得られた利益の一部を通信事業者に還元する考えということになる。同時に、通信事業者と長期にわたる契約を結ぶ代わりに、卸値を引き下げることで、以前からしばしば報じられている「iPhone取り扱いに伴う通信事業者側での負担の重さ」を緩和する考えとみることもできる。

【参照情報】
・Sprint's Virgin Mobile to Offer iPhone - WSJ
・Virgin Mobile is next to offer pre-paid iPhone, says WSJ - GigaOM
・Apple readies to wage smartphone market-share war with second prepaid U.S. carrier - TNW
・Virgin Mobile to offer prepaid iPhone in US on Sprint's network - The Verge
・iPadと「市場を支配する」ことの本当の意味--アップル製品の「儲け方」 - ZDNet JP
・iPhone、プリペイドユーザーにも - 米クリケット・ワイヤレスも取り扱いへ