高齢化社会の課題に真っ向から取り組んだ、モバイルヘルス・シンポジウム2012
2012.07.23
Updated by Kenji Nobukuni on July 23, 2012, 17:00 pm JST
2012.07.23
Updated by Kenji Nobukuni on July 23, 2012, 17:00 pm JST
第3回目となるモバイルヘルス・シンポジウム(ITヘルスケア学会・移動体通信端末の医療応用に関する分科会主催)が7月22日(日)東京医科歯科大学(東京都文京区湯島)で開催された。夏休みを迎えた最初の日曜日ということもあり前回よりも参加者数は少なかったものの「長寿健康社会でのイノベーションを実現するモバイルヘルス」と銘打った今回は日本が直面する大きな課題がテーマとなり、講演内容は充実し質疑も活発に行われていた。講演の内容をかいつまんで紹介する。
世田谷区の桜新町アーバンクリニック院長遠矢純一郎氏はiPhone、iPadを活用し、有償や無償のクラウドサービス(Dropboxなど)や活動記録の代行入力などを組み合わせて医師のペーパーワークを大幅に削減している自身の事例を紹介。患者の方が病院で順番を待つのと違って医師の側が移動しなければならない在宅医療において、大幅な省力化と同時に地域の他施設との連携を進めていることを報告した。医師と看護師の連携には大きな効果を生んでいるが医療と介護の連携はまだまだ難しいという。
日本医科大学医療管理学教室の長谷川敏彦主任教授は日本が迎えている超高齢社会は平均寿命が50年を超えてから歴史の浅い人類にとっても、さらには生殖可能期を過ぎれば寿命を迎えるのが当たり前の生物の歴史そのものからしても未曾有の状況であり、19世紀に確立された医療の体系では到底対処できないと強調。単一の疾病を治癒させることが目的の50歳くらいまでの医療とは別に複数の病気を並行して抱えながら生きていくため「ケアサイクル」を回していくという視点でシステムそのものを見直し、高齢者が経済を支える新しい国家をICT活用で作っていくことの重要性を訴えて聴衆に大きな感銘を与えていた。
▼日本医科大学医療管理学教室 長谷川敏彦主任教授のプレゼンテーション(写真提供:モバイルヘルスシンポジウム実行委員会)
老テク研究会(電子情報通信学会ICS研究会の分科会)事務局長の近藤則子氏は1992年創設の同研究会の取り組みを紹介。高齢者がITに自ら親しむことで「今日、用」がなく「今日行く」(ところ)がない状況から脱却でき、暮らしが一変するという。しかし、デジタル機器は高齢者にとって使いやすいものとはとても言えず、ここに大きな商機があるのではないかとのこと。
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私自身も講師として登壇し、モバイルヘルスの海外における事例を紹介した。欧米では遠隔医療に用いるものと合わせて生活習慣病予防のための健康増進サービスが次々に生まれていること、アフリカなどでは伝染病対策などでフィーチャーフォンのSMSが活用されていることなどを説明した。
▼バルセロナで開催された「モバイルヘルスサミット」の様子も紹介(写真提供:モバイルヘルスシンポジウム実行委員会)
M2MやビッグデータなどIT業界の動きを概観した武蔵野学院大学准教授木暮祐一氏のチェアによるセッションでは、AGI代表取締役の光吉俊二氏が人の声からその人の感情を認識して定量的に表現する技術とその事業化について現状と展望を説明した。日本発の技術が欧米や中国などから大きな注目を集めており、うつ病の判定などのほか、市場予測などにも応用可能であるという。
締めくくりは総務省大臣官房審議官の稲田修一氏の講演で、M2Mとビッグデータによって医療の変革が起こりつつあること、超高齢化で課題先進国となった日本がその変革をリードすることができる可能性があることが強調された。しかし日本の持つモバイルヘルス領域におけるポテンシャルを国際競争力の強化に結び付けるには、行政側のビジョン、業界横断的な協業、汎用的プラットフォームによるコスト低廉化など課題も多いという。
ランチセッションでは、名古屋医療センター佐藤智太郎氏から3G回線による院外のモバイル端末から電子カルテを閲覧するシステムについて、九州工業大学大学院富永崇之氏からスマートデバイス利用の遠隔医療システムに必要とされるセキュリティについてプレゼンテーションが実施された。国立保健医療科学院の水島洋上席主任研究員からは、モバイル端末とCRM(顧客関係管理システム)を活用した災害発生時の健康支援システムの紹介があった。同システムをベースとした地域医療・福祉情報共有システムを開発したビジネス・アーキテクツは、Microsoft社のDynamics CRMにより岩手県の被災地で実際に稼働中のiSystem2のデモを行っていた。
講演者の人選も発表内容も多岐に渡っており、国内事例は実証段階ではなく実運用フェーズであって、モバイル機器の利用者という視点でも医療関係者だけでなく高齢者の側にも目が向けられており、充実した内容となっていた。ただ、参加者数の点では次回に広報活動や曜日の選定などの課題を残したと思われる。
【参照情報】
・モバイルヘルスシンポジウム2012
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