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ウェブメディアの「次」へ -CloudMedia for Publishersが目指す、モバイル時代のメディアの形

2012.08.07

Updated by Asako Itagaki on August 7, 2012, 15:00 pm JST

2012年8月7日にリリースしたiPhone/iPad向けアプリ「WirelessWire Newsアプリ」の開発には、メディアプローブ株式会社が本日発表したクラウド型コンテンツ配信フレームワーク「CloudMedia for Publishers」を使用している。従来のメディアのモバイルアプリと何が変わるのか、また事業化の狙いは何かについて、同社取締役の藤村厚夫氏に聞いた。

[聞き手:WirelessWire News編集長 板垣朝子]

201208031300-1.jpg藤村 厚夫
1954年生まれ。株式会社アスキーにて月刊誌の編集長など歴任。その後、ロータス株式会社(現日本IBM株式会社)でマーケティング本部長等を歴任。2000年に株式会社アットマーク・アイティを創業。IT技術者向けのオンライン専業メディア「@IT」を開設。その後アイティメディア株式会社代表取締役会長に。現在、メディアプローブ株式会社にて新規事業を担当。

メディアが求める仕様や使い勝手は共通している

──本日、おかげさまでiOSデバイス向けのアプリ「WirelessWire Newsアプリ」がリリースのはこびとなりました。あらためて、我々も利用させていただいている「CloudMedia for Publishers」の概要について、教えて下さい。

藤村氏(以下敬称略):「CloudMedia for Publishers」は、メディア企業様向けに、閲覧用のモバイルアプリ、コンテンツ配信サーバー、広告配信、課金管理、ログ解析など、必要とされるサービスとの連携をパッケージにして提供する、新しいサービスです。

よくご存じの通り、スマートフォンの急速な普及で、ウェブメディアの多くがスマートフォン向けにコンテンツ提供を企画していますが、従来は、「スマートフォンに最適化されたビューをウェブブラウザで表示する」もしくは「モバイルアプリが開発できる事業者に開発をアウトソースする」のいずれかの方法をとっていました。

我々がやろうとしているのは、そのどちらでもない3番めの方法です。メディア企業様が、ウェブの仕組みの中で日々運用されているコンテンツをアプリ仕立てにして運用していく仕組みを、サービス化して提供します。最適化されたビューも必要だと思いますが、やはり、アプリという形にコンテンツが統合された使い勝手、最近の言葉でいえば「ユーザー体験」の良さを提供したいという思いがあります。

▼CloudMedia for Publishersの概要図
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──実際に、このサービスを利用して今回アプリを開発したわけですが、最初のお打ち合わせの時に、メニューや操作体系などは、スタンダードなニュースリーダーアプリ風にできあがったものが既にありました。私達がやったことは、アプリ内で表示するニュースのカテゴリーを決めて、それに合わせて既存のウェブ用CMSからRSSを吐きだして、システム側で指定するサイズに合わせてアイコンなどの画像を制作してといった感じで、通常のアプリ開発とはずいぶん違った進め方だったという印象です。

藤村:メディアの方は皆さん、自分のメディアのアプリをこう作って欲しい、ああなったらいいという思いはお持ちです。ただ、ソフトウェア開発が本業ではないですから、自分の「やりたいこと」を要求仕様に仕立てて外注業者に依頼するのは大変ですよね。

──たしかに、「自由に一から作っていいよ」と言われるとわくわくしますが、実際に設計図を書くのはかなり大変です。やりたいことは決まっているのだから、型にはめれば済むところはあまり頭も時間も使いたくありません。

藤村:このビジネスで複数のメディアの方とお話しましたが、皆さんだいたい外注業者への見積はとっていらっしゃいます。そこで「どんなものを作るべきか」という議論をしていくと、どのメディアでもある程度までの議論は共通化されていきます。それをスクラッチで全てバラバラに作るのでは、二度手間でもあります。

要求にさまざまなパターンはあるとしても、求める仕様や使い勝手についてはだんだんと収束してくるものです。その、収束してきた、ある意味皆さんが必要とするものを使いやすく提供していこうというのがCloudMedia for Publishersの考え方です。煩雑なところはまだ若干残っていますが、一定のフレームワークを用意して、その中で最適なものを作っていく方が、コンテンツを既にお持ちの方にとっては手早く形にできます。

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メディアビジネスを成長可能な事業にするには

──ところで、藤村さんご自身は、元々アイティメディアにいらして、メディアプローブにアプリ開発を発注される側だったと聞いています。なぜ、立場を変わられたのでしょう。

藤村:メディア企業でアプリを発注する側としてかかわるうちに、毎回毎回仕様を定義して開発するのではなく、サービス型の仕組みで手軽にコンテンツをスマートフォンやタブレットの世界に広げていくという需要があるのではないかと思ったのです。デジタル時代のコンテンツは、印刷物のようにコンテンツと紙が切り離せないのではなく、もっと自由に、一つのコンテンツを多様に使えるものだと私は考えています。そういう意味でも、パッケージを仕立て直すようなモデルを意識していました。

同様の課題や問題意識が、メディアビジネス全般にあるような気がします。言い換えれば、メディアというビジネス自体が持続可能な事業なのかどうか、ということです。私自身は、インターネット専業メディア企業を創業して、10年間パソコンでウェブという文脈に徹したメディア作りに携わってきました。10年前に始めたときには、これがメディアの未来形につながるような気がしていたのですが、実際にできあがってみると、成長を持続させられるメディアとしてはどこか弱みがありました。もう一度、新しいメディアの仕組みを作ることにチャレンジしたかった、という思いがありました。

もう一つ言えるのは、メディアに携わる人というのは良くも悪くもコンテンツ命なので、コンテンツ以外に対する視点が弱いのです。ユーザー体験は、コンテンツの価値・魅力に加えて、「どう見る・読める・使える」という、コンテンツを取り巻くものと合わさったものだと思います。ところが、メディアの中の人は、えてしてそれをコンテンツの良し悪しだけで決めようとしてしまいます。そこにイノベーションの落とし穴があるのではないでしょうか。良いコンテンツを作りたいというメディアの人のモチベーションに、ユーザー体験を組み合わせることで、成長可能なモデルに踏み込んでいけるのではないかと思っています。

──新しいメディアへのチャレンジ、ということですが、パソコンのウェブがモバイルアプリに変わることで、なにが変わるのでしょうか。

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藤村:ユーザーの情報ニーズには、幅広く知りたいという欲求ともっと深く知りたいという、広がりと深さという軸があります。最近はそれにリアルタイムに知りたい、という時間軸も加えて3軸になっているかもしれません。最新の情報が欲しい、自分の知らないことが知りたい、専門テーマを深めたいといった読者ニーズはその3軸の組み合わせであり、そこにメディアがどう答えていくか。現状は、リアルタイム性とか、より深めていくにはといったところに対する答えが少し薄いので、きちんと仕立て直さなくてはいけないという課題があります。

タブレットはモバイルという観点で見るとあまりまだ普及しているとはいえないのですが、米国の調査結果では一番使われているのはベッドの中だとか、日本でもケータイ小説が一番読まれているのは自分の部屋だという調査結果があります。それは、単に持ち歩けるようになった、モバイルになったというマシンスペック的な議論ではなく、メディアに対する接し方が変わったということだと思いますし、そこに今まで考えてもいなかったような情報ニーズに対する答えが生まれる可能性があります。

パソコンとウェブの組み合わせができた時には、24時間いつでも自由に接することができる媒体は画期的だと喜んでいました。だって、書店が閉まっている時間でも、いつでも新しい情報にアクセスできるんですよ。でも、モバイルデバイスでメディアに対する接し方がよりパーソナルになる、より自由になるという視点で見れば、パソコンでさえ人を限定していました。デバイスが変わることで、時間や空間で寸断された情報活動がよりスムーズになる機会が生まれてきたとすると、メディアは答えないわけにいきません。

──これは個人的な意見なのですが、モバイルデバイスのユーザー体験は「ネットにつながっていない時」をどう設計するかがキモだと感じています。ウェブは基本的にネットにつながっていることを前提に設計されているので、その仕組みをそのままモバイルデバイスに持ってくると、電波が無い時に「なんだこれは」となってしまうんですよ、ユーザーとしては。

藤村:それもウェブの弱点の一つですね。ウェブで全て行き着いたと思っていたのが、まだその先(の課題)がありましたと。そこまで含めてこれから何をするのか、何をできるのかという考え方をしないと、メディア企業側だった時の体験を考えると、これから人口が縮小してもマーケットを開拓していけない、持続できない。

あるメディア企業の株主総会で聞いたのですが、現在、その会社のウェブメディアでは9時から18時はパソコンからのアクセスが多いのですが、9時前/18時過ぎは今やスマートフォンのアクセスがパソコンを凌いでいるのだそうです。つまりパソコンからしか見られないウェブでは、その時間帯の大きなマーケットは失われてしまう。モバイルデバイスに対応することで、メディアはそこにマーケットを生み出せます。

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「ユーザーが気持ちよくお金を払える仕組み」を考える

──これからのメディアのビジネスとして考えると、要素として重要なのが「課金の仕組み」だと思っています。パソコンのインターネットでは「コンテンツ無料」があたりまえだったのが、フィーチャーフォンのキャリア課金でユーザーが「有料コンテンツを買う」ことに少し抵抗がなくなった。それが、デバイスがスマートフォンにシフトしたことで、またパソコンの世界の常識が戻ってきてしまって、どこも苦戦しているのが現状です。これからのモバイルデバイスでの課金に対して、メディアプローブではどう取り組んでいくのでしょうか。

藤村:マーケットの立ち上げ時にフィーチャーフォンのキャリア課金モデルを上手く持ち込めなかった、逆に持ち込まなかったからスマートフォンに勢いがついたのかもしれないので、良し悪しは一概には言えませんが、スムーズに移行できなかった感はありますね。

もちろんそこをどうするかは皆さん考えていて、土管になりたくないキャリアは、スマートフォンでもキャリア課金を復活させる以外にもマイクロペイメント的な仕組みを持ってこようとしているし、デバイスを提供するプラットフォーマーも考えています。今後何が標準となるかは、しばらくまだ混沌とするでしょう。でも可能性は広がりました。

お金を払うというのもユーザー体験の一つですから、我々としては、良いユーザー体験を提供できるプレイヤーは誰なのかを意識します。その点で、アップルはやはり優れていて、iTunesはユーザーがとても気持ちよくお金を払える仕組みを提供している。ただ、コンテンツを提供する側としては、30%の手数料はちょっと乗りにくいということもまた事実で、それが最善かという議論はあります。

──アップルにこだわっているわけではないのですか。

藤村:メディアプローブが元々アップルテクノロジーの知識と経験を持っていたのでまずはそこからはじめましたが、もちろんそれだけにこだわるわけではありません。プラットフォームとしてはAndroid、Windows Phoneも考えています。

重要なポイントはいかにサードパーティ、デベロッパー、コンテンツホルダがマネタイズする仕組みを作れるかということですから、我々としては、ユーザーが気持ちよくお金を払える仕組みとして、他にも何かできないかと考えます。会員制コンテンツの提供やアプリ内課金などのご要望もいただいています。メディア企業各社のアイデア、知見をフレームワークに生かし、上手くいったマネタイズの仕組みについては共有していくのが我々の役割だと思っています。

時間経過によるアプリの「たこつぼ化」を防ぐ仕掛け

──MediaCloud for Publisherの今後についてお聞かせ下さい。当面目指す方向はどのようなものでしょうか。

201208031300-3.jpg藤村:我々のビジネスのKPIは媒体数なので、まずはアプリを増やしたい。最初にBiz誠アプリを出して、WirelessWire Newsは2番めのアプリなのですが、さらに複数の媒体の開発を進めています。

もう一つのKPIはアプリの総ダウンロード数、すなわち読者数です。読者の方からフィードバックされる要望を取り込んでいくのが、中期的にビジネスを考えると大切なポイントになりますから、その意味でもアプリを増やすことは重要ですね。

──複数のアプリを一つの共通の基盤で提供することで、何か新しいことができるのではないかと、パブリッシャーとしては期待しています。

藤村:アプリを増やすのが当面の目標とは言いましたが、アプリは時間が経過するとアテンションが下がって、たこつぼ的なものになりがちなのです。なので、相互送客や相互紹介など、アプリを知らなかった人にコンテンツを紹介するネットワーク的な仕組みが必要だと思っています。そのためにいくつかの施策や機能を計画しているところです。

──アプリ自体はどう変わっていくのでしょう。

藤村:WirelessWire Newsのアプリの裏では、MediaCloudサーバーが動いていて、ランキングや既読・未読の管理などはそちらで実現しています。サーバーの機能を強化することで、アプリに作り込んだ機能以外にも、アプリを通してコンテンツを読んでいるときにこれは便利、気が利いていると思っていただけるような仕組みをどんどん追加していけるような設計になっていますので、WirelessWire Newsアプリをご利用いただきながら、次にどんな進化があるのかを楽しみにしていて下さい。

──サービスを利用させていただいているパブリッシャーとしても、またアプリのいちユーザーとしても、今後の展開にとても期待しています。今日はありがとうございました。

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。