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空間情報系アプリの限界と可能性(5)ウェブ空間のリアリティを形づくるもの

2012.11.22

Updated by on November 22, 2012, 17:13 pm JST

行動連動というアプリの特性を、ユーザーインターフェイスの観点から深めてみたい。

準没入

今さらだが、ウェブ空間のリアリティはどこからくるのだろうか。

そのリアリティの一端を形作るのがウェブ空間との接点、ユーザーインターフェイス(UI)である。小説『ニューロマンサー』や映画『マトリックス』などでは、中枢神経に直接ライン接続することで、人体をサイバースペースに「没入(ジャック・イン)」し、人間の意識ごとダイブするという大変パンクなUIが提案されている。

しかし、現実は、パソコンにせよ、スマートフンォンにせよ、インターフェイスは単純な二次元のスクリーンである。ただ、スクリーンを視覚で捉えるという地味な構図であるにもかかわらず、多くのユーザーは、現実空間の活動以上に、ある時はマトリックス並みにウェブ空間にのめり込んでいる。このリアリティを考えてみたい。

▼攻殻機動隊で示された没入(ジャック・イン)の例(『攻殻機動隊S.A.C. SOLID STATE SOCIETY -ANOTHER DIMENSION-』CM映像より:© 2011 士郎正宗・Production I.G / 講談社・攻殻機動隊製作委員会)
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注目すべきは、そこに隠された「没入」をもたらす擬似的な仕掛けである。その一つが、「透過光による距離埋没効果」である。

スクリーンには液晶や有機ELなどが採用されているが、どれも発光源を持ち、スクリーン表層を透過する光線を用いることに変わりない。透過光による表示は、反射光に比べて現前性が高く、ユーザーの身体とスクリーンとの間に横たわる数十センチという距離を埋めてくれる。

透過光が強い現前性をもたらすことは、あのマクルーハンも『メディアの法則』で指摘している。マクルーハンが取り上げたのは、観客を二分して、一方には普通の映画と同じように反射光で、もう一方には透過光で同じ映画を鑑賞させるという実験である。反射光のグループの感想は、映画を物語や技術に注目して理性的に分析し、批判する傾向があったのに対して、透過光のグループでは、好き嫌いという情緒的で、主観的な反応が優位を占めたという。

透過光は網膜に直接情報が届くので、ノイズ情報と比較対照することができない。光に差し込まれてしまった観客は上手く距離を保てず、映像を対象として認識する前に情報を無条件で受け入れてしまい、結果として情緒的、主観的な見方をしがちになるといえる。

パソコンのスクリーンを眺めていても発見できない誤字脱字が、プリントアウトすると容易に見つかるという事態は、誰もが一度は経験しているだろう。これも反射光と透過光で説明できる。スクリーンの透過光で文字を読んでいても見逃しがちな誤字脱字は、プリントアウトした紙の反射光で読むと、対象を分析的、批判的に捉えることができるので、より発見されやすい。

このように現前性の強い透過光が、ウェブ空間のインターフェイスに用いられているのは偶然ではない。現前性の高い透過光は、スクリーンとユーザー身体との間にある物理的な距離を埋没させ、スクリーンを認識の外に消し去ってしまう。

アフォードするウェブ空間

もう一つが、デザインの「アフォーダンス」である。アフォーダンスとは、人が行動するための情報が人の側でなく、環境の側にあるというパラドキシカルな考え方である。環境こそが活動する人に対して価値や意味を与える(afford)。

例えば、「平坦で大きく広がる堅い表面」は、そこにいる人間に「支えること」(という情報)をアフォードし、人は大地をそんな特性を持つものと直感的に見分けて、そこに安心して立つに至るのである。決してその人が、五感を駆使して収集した情報をもとに、推論を重ねてその表面は自分を「支えること」が可能だと判断しているのではない。人間を取り巻くモノは、様々なアファーダンスを備えている。

このアフォーダンス理論は、インターフェイスのデザインに応用されてきた。ウェブ上の操作ボタンやアイコンなど多くのウィジェットは二次元表現でありながら立体を演出し、あたかもそこに本物のボタンや溝があるかのようにデザインされ、我々ユーザーはそこを直感的にタップする。

振り返ると1995年、Windows 95で導入された「タブ・ダイアログ」が走りである。これは、ダイアログボックス上部に配置されたタグを切り替えるデザインで、多数の設定項目を整理して表示できる。書類のフォルダーインデックスのようなものである。以前は、複数のダイアログボックスを一度に何枚も表示するのが一般的だったが、これでは画面がダイアログで一杯になってしまう。そこで、ダイアログにタグをつけて1つのウィンドウ内に重ねて表示するようにした。全部でダイアログがいくつあるのか、どのタブを開いているのか、どうすれば別なタブに切り替えられるか、見ただけで直感的に理解できる。タブ・ダイアログは現在、ほとんどの画面に採用されている。

以来20年近く、ウェブのデザインはアフォーダンスを取り込んでどんどん進歩しており、そしてウェブ空間は、ユーザーの次なる行為をそれとなく誘導するようになった。ユーザーが行為しうる可能性がウェブデザインの中に含まれている、といってもよい。

このように、「透過光による距離埋没効果」や「アフォーダンス」を取り込んだウェブデザインが、スクリーンという単純なUIを、準没入(セミ・ジャック・イン)型に変え、ウェブ空間にリアリティを与えてきた。UIに変わるUX(User Experience)の考え方も、この延長線上にある。

(次回に続く)

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