アップル関連で「資金の使い方」という話題になると、企業買収についての議論になることが多い。だが、アップルが買うのは企業だけではない。同社は「主要な生産設備」(capital equipment)もずっと購入してきている。
アップルが土地や工場、設備の購入に費やしてきた金額は、初代iPhoneがリリースされた2007年以来、あわせて211億ドルにもなる。また同社は今年度(9月末まで)に100億ドル程度を設備投資に投じる考えも明らかにしている。この使途の大半は製品の生産工程で使われるマシンや設備に使われる。
下掲のグラフは、2005年6月から現在までの設備投資額の推移である。
(橙色の部分が機械、設備、社内用ソフトウェア。緑色の部分がリース、青色の部分が土地・建物。青の線は減価償却後の資産額の変化、そして赤の線はキャッシュフロー計算書に表記された投資額)
次にあげるのは四半期ごとの設備投資額の推移
(FQ="Fiscal Quarter"。深緑が2013年度、ピンクが2012年度、緑が2010年度、赤が2009年度、青が2008年度)
膨大な設備投資が必要とされる半導体メーカー各社と比べても、アップルのこの投資額はとても大きなものといえる。
(主要各社の設備投資額の推移。2006年4月以降)
アップルがこれだけたくさんの設備投資を続けているとなると、詳しく調べられても不思議はなさそうだが、実際にはUBSのスティーブ・ミルノビッチ(Steve Milunovich)がアップルのピーター・オッペンハイマー(Peter Oppenheimer)CFOにした次の質問しか私は目にしたことがない。
スティーブ・ミルノビッチ:
... 二つ目の質問は設備投資についてのものだが、アップルの設備投資金額はインテルとほぼ肩を並べる水準となっている。みなさんは以前、「アップルは垂直統合(型)の事業はしない」と述べていたが、実はすでにそうなっていると私は思う。なぜならアップルはサプライヤーの製造用機械購入を肩代わりしているからだ。この点に関する戦略やその戦略がどれほどの差別化要因(新製品の量産能力などの点で)を生み出すのかなどについて説明していただけないだろうか。また自社製品用の半導体部品についてどこまで深く(製造に)関わるのかを少し話してもらえないだろうか。ピーター・オッペンハイマー:
今年度の設備投資予定額は約100億ドルを想定しており、前年度より20億ドル弱増える予定で、そのうち小売店舗への投資額は10億ドル弱になるとみている。残りの90億ドルの使途はさまざま。サプライヤーの工場に設置する製造用機械(アップルの資産)も買うことになる。この目的は主として部品調達にあるが、それ以外のメリットもある。それ以外に自社のデータセンターの機能強化を行う予定(略)資金の使途はそういったものになる。
オッペンハイマーのこの答えは決して満足できるものではない。
アップルに対しては、手持ち資金を使ってなにがしかのものを買うよう求める声が常にあるが、おそらくそうした考えを口にする人は、アップルの実態をきちんと把握していないのだと思う。資金の使途をよく知ることで満足を得たいなら、アップルのキャッシュフロー計算書と貸借対照表にほんの少し目を通すだけでいい。そうすれば、アップルが3年に1度ヤフー(Yahoo!)を買収するくらいのペースで投資をつづけていることがわかるだろう。
通常の企業買収とアップルの設備投資との違いは、後者のほうが価値の破壊が少ないということ。(製品の)生産能力を確保することで、それを差別化要因とし、大きなマージン(=高い差益率)につなげることは、企業買収をして数年後にはのれん代を損金計上するよりも優れたお金の使い方といえる。
(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋 / 原文公開日:2013年5月30日)
原文
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