前回はアフリカにおけるNokiaとマイクロソフトの取り組みについて紹介したが、今回はGoogleについて取り上げる。
Googleは2012年7月18日、Gmailを携帯電話で送受信できるサービス「Gmail SMS」をガーナ、ナイジェリア、ケニアで開始したと発表した *1。3GやWi-Fiの環境がなくても、SMSさえサポートした携帯電話であればGmailをSMSのメッセージとして送受信できる。Googleはアフリカにおいても積極的に事業展開をしており2009年6月にはウガンダで「Google SMS」というサービスの提供を行っている *2。Gmail SMSは2011年3月にアフリカのウガンダ、タンザニア、マラウィにおいてすでに提供を開始している 3*。
Gmailアカウントに電話を登録しておけば、Gmail宛のメールを、SMSテキストメッセージとして自分の携帯電話に転送することができる。SMSによるメール作成、送信も可能である。Gmail SMSは無料だが、SMSの通信料金は各キャリアが設定した料金をキャリアに支払う。
今回Gmail SMSを提供した国々で、同サービスを利用するには、事前にパソコン上でGmailアカウントに送受信する携帯電話の番号を登録しておく必要がある。PC上での登録は非常に簡単であるが、PC環境のない人が直ぐに利用するには少々ハードルがある。アフリカ諸国では地方に行けば行くほど、携帯電話は持っているがPCは持っていないという人が多いので、まずは都会でPCも使用している人から中心に利用されていくだろう。
Gmail SMSの提供によって、GoogleはGmailユーザの新規獲得および既存顧客への付加価値提供が期待される。通信事業者にとっても、Gmailアカウントと携帯電話番号を紐付けることによって、ユーザがその電話番号を保持し続けてくれ、SMS通信費収入が入るというメリットが期待される。上述のようにアフリカでは一人が複数枚のSIMカードを保有しており、電話番号への執着心と通信事業者への愛着心が少ないことから、通信事業者の乗り換えは日常茶飯事である。その点からもGmailを利用してもらうことによって、ユーザがその番号を保有し続けてくれることは重要である。
*1 Google(2012) Jul 18,2012 "Send and receive Gmail on your phone as SMS"
*2 Google(2009) Jun 29, 2009 "Google SMS to serve needs of poor in Uganda"
*3 Google(2011) Mar 15, 2011 "Launching Gmail SMS in Uganda, Tanzania and Malawi"
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2013年5月27日、Googleは、セネガルの首都ダカールにあるインターネットカフェ「Equinox cybercafé」において15台のタブレット端末を提供し、既存のデスクトップPCに換え、タブレットでインターネットにアクセス可能とするための支援を行ったことを明らかにした *4。
デスクトップPCと比べてタブレットの方が、電力消費が少ないことと通気性を必要としないことが特徴である。アフリカや新興国においては電力が不十分なために多数のパソコンが設置してあるインターネットカフェでは電力が不足してしまうことがある。また熱が籠ってしまうデスクトップPCでは室内の通気性は重要である。アフリカや新興国のインターネットカフェは冷房有と冷房無では利用料金が異なる(もちろん冷房有の方が高い)。冷房無のインターネットカフェは高温多湿のため、機器に悪影響を与えている。タブレットであれば、それらのデメリットを解消することが期待されている。またGoogleにとってもAndroidのタブレットを普及することができる。
インターネットカフェでのタブレットは1時間300 XOF(約$0.60、60円)で利用できる。タブレットにはよく利用されるアプリなどがプリインされており、利用後は店員がリセットしてユーザ情報などが残らないようにしている。
アフリカを中心とした新興国においてはデスクトップPCを導入して電気代がかかり、通気性の問題でパソコンが壊れやすくなるよりも、低価格化したタブレットで快適にインターネットにアクセスできることを選択する可能性がある。
Googleの支援によってセネガルのインターネットカフェでデスクトップPCからタブレットに端末が変わった。他の新興国においてもデスクトップPCからタブレットにリプレースされるかもしれない。アフリカでは固定電話がほとんど普及していないが携帯電話は急速に普及している。パソコンもデスクトップPCが普及する前にタブレットやスマートフォンの方が普及して、インターネットへのアクセスはデスクトップPCではなく、スマートフォンまたはタブレットということになる可能性がある。
今回のGoogleの動きに対して、従来デスクトップPCの世界においてOSをほぼ独占していたマイクロソフトは、Nokiaを買収したその後、どのような対応をしてくるのかも注目している。
*4 Google(2013) may 27,2013 "The First TabletCafé Launches in Senegal: Experimenting a cybercafé with tablets in Dakar"
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2013年5月、Googleがアフリカをはじめとする新興国において飛行船を利用したWi-Fiネットワークを整備する試みがあると報じられた *5。同社はサブサハラアフリカやアジアの通信ネットワークが未整備の地域にて、小型飛行船や気球を使ったWi-Fiネットワークを構築するプロジェクトを進行中とのことである。ケニアと南アフリカでは現地の通信事業者等と既に提携のための協議に入ったようで、南アフリカのケープタウンの小学校10校ではトライアルの運用も始まっている。
2013年8月27日、GoogleアフリカはGoogleで提供している翻訳サービスにアフリカのローカル言語5つを追加することを明らかにした *6。現在、Googleでは71言語の翻訳サービスを提供している。今回Googleの翻訳サービスで追加されるアフリカの言語は、ハウサ語、イボ語、ソマリ語、ヨルバ語、ズールー語の5言語である。アフリカには約2,000〜3,000の言語がある。そして、今回対応するローカル言語は、それぞれ1,000万人から2,000万人が話している言語である。
アフリカのローカル言語は部族や地域での言葉が多い。現在、アフリカの各国で英語やフランス語が話されているのは、植民地時代の影響である。国境線も植民地時代の名残である。都市で働く人々は英語やフランス語で会話するが、地元に帰るとローカル言語で話していることが多い。現在、アフリカのローカル言語は日本人にとって馴染みは少ないが、話者は多く、今後はこれらのローカル言語での情報発信が増加することだろう。
▼(表1)今回Googleアフリカが翻訳サービスで追加する5言語
▼(図2)アフリカの公用語マップ
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アフリカ市場は「Next Billion」(次の10億人)と呼ばれることがある。アフリカ市場は直ぐに利益につながることは難しいが、潜在力は非常に大きな市場であるため、体力勝負になることが多い。果たして「Next Billion」を制するのはどの企業なのであろうか。新たなプレーヤーが登場する可能性も多いにある。
*5 WSJ.com(2013) May 24, 2013 "Google to Fund, Develop Wireless Networks in Emerging Markets"
*6 Google(2013) Aug 27, 2013 "Hello Africa, We need your help with evaluating translation..."
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登録はこちら2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。