米商務省が、来年9月に期限切れとなるICANN（The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers）との契約を更新しない考えであることが米国時間14日に明らかになった。これを受け、インターネットの事実上の分断化を懸念する声などが早くもあがっているという。

インターネットを生み出した米国は、その誕生以来ドメイン名などネット上の資源を管理する役割を担ってきており、1998年に非営利団体のICANNがつくられた後も事実上の後見役を務めてきた。

それに対し、近年ではインドやロシアなどの諸外国から、ネット管理の権限を国連の国際電気通信連合（ITU）などに移譲することを求める声が上がっていた。さらに、昨年半ばに発覚した米国家安全保障局（NSA）による情報収集（諜報）活動に対する批判の声が高まっていることから、米政府は今回そうした批判をかわす材料のひとつとしてインターネットの管理権限を手放す判断を下したという見方が、このニュースを伝えた各媒体で紹介されている。

Washington Post（WaPo）によると、米商務省で通信・情報分野を担当するローレンス・ストリックリング（Lawrence Strickling）次官補はこの決定について、「ICANNが世界のインターネット・コミュニティで活動するさまざまなステークホルダーの声を集約し、新管理体制への適切な移行計画を作成することを期待している」とする声明を発表している。また上院商業委員会のJ. D. ロックフェラー（J.D. Rockefeller）委員長は「フリーでオープンなインターネットを促進し、複数のステークホルダーがグローバルなインターネットの管理にあたるという現在の体制を維持・前進させるために米国や同盟諸国が進めている他の取り組みと矛盾しないもの」などと述べているという。

いっぽう、共和党のニュート・ギングリッチ議員（Newt Gingrich、元下院院内総務で大統領戦出馬経験者）は、「（米国がICANNの監督権限を手放すと）外国の独裁政権がインターネットを牛耳るおそれがある」などとして、オバマ政権の動きを批判するツィートを行ったという。またインターネット関連の業界団体ネットチョイス（NetChoice）の責任者を務めるスティーブ・デルビアンコ（Steve DelBianco）という人物は「ICANNが全世界に対する説明責任を背負うというのは考えられないこと。それでは誰に対する責任も負わないのと同じ」とWaPoに述べている。さらにWSJでは、「ドメイン名登録の権限が特定のクラスのドメインを望まない者の手に渡れば、ある種の検閲体制がつくられることになる」とする業界団体National Foreign Trade Council責任者のビル・ラインシュ（Bill Reinsch）氏という人物のコメントも紹介されている。

それに対し、権利擁護団体パブリック・ナレッジ（Public Knowledge）の責任者、ジーン・キメルマン（Gene Kimmelman）氏は「インターネットの管理体制をめぐる国際間の重要な論争を解決するための、これは正しい方向に向けた一歩」とコメントしているという。

さらに、現在はグーグル（Google）に籍を置くヴィント・サーフ（Vint Cerf,
）氏はWSJに対し、「インターネットはもともとボーダーレスになるようにつくられた。この（移行の）動きにより、将来さらに多くのステークホルダーがインターネットの管理に関わるようになれば、ネットのセキュリティや安定性、オープン性を維持するための機会が生み出される」などと述べている。サーフ氏はTCP/IPプロトコールの共同設計者で、2000〜2007年までICANNの理事会議長を務めた経歴の持ち主。

オバマ政権では今後ICANNに対して、新たな管理体制づくりのための指針を示すことになるという。またICANN側では今月シンガポールで行う集まりで、新体制づくりに向けたプロセスをスタートさせ、今年末までにさままざま関係者などから意見の聞き取りを行った上で、来年9月までにこの新体制づくりを完了させたい考えを示しているという。

【参照情報】
・U.S. Plans to Give Up Oversight of Web Domain Manager - WSJ
・U.S. aims to give up control over Internet administration - Washington Post
・U.S. to Give Up Role in Internet Domain Names - NYTimes