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ロゴデザインの効果的な発注とは

2014.05.05

Updated by Ryo Shimizu on May 5, 2014, 09:42 am UTC

 会社、製品、その他なんでもそうですが、ロゴデザインの発注は経営者の頭を悩ませる仕事のひとつです。
 プログラミングとは「自分以外の存在を自分の想い通りに動かす」方法だとすれば、発注作業はまさしくプログラミングですが、この場合、自分の期待している結果そのものが、自分自身にもわかっていないというところが難易度を上げている原因にもなっています。

 たとえば「直径20cmの正円を描け」という指示を出して、三角形がでてきたらそれは明らかに違う、ということになるわけですが、「なんかかっこいいロゴ作ってよ」と頼んで、でてくるものが円形なのか長方形なのか三角形なのか全く解りません。

 このあたりは、発注の仕方にコツがあると思います。
 そこで筆者の僅かな経験から、どうすれば効果的なロゴデザインを発注できるか考えてみたいと思います。
 

 ロゴデザインは、製品または組織を象徴する重要なシンボルです。
 ですから単に「カッコ良く」とか「クールに」と言っても限界があります。
 また、仮にそれでロゴデザインが完成したとしてもメッセージ性の弱いものになってしまいます。

 ロゴデザインをする上で最初に決めなければならない(決めておくべき)事柄は下記の三つです。

・形状   正方形か円形か三角形かそれ以外か、縦長か横長か
・色    単色かフルカラーか
・モチーフ どんなメッセージを象徴するか

 好みもありますが、形状は正方形の範囲に収まるものが使い勝手は良いです。つまり正方形か円のシルエットのものです。

 色に関しても、単色のものが使い勝手が良いです。背景色にあわせて色を変えることが出来ますし、白黒印刷しても使えます。

 とすると、正方形(または円形)で単色のロゴがもっとも使い勝手が良いことに成ります。

 「そんなロゴ、どこにでもあるじゃないか」と思うかもしれませんが、注意深く考えてみて下さい。どこにでもあるようなロゴで個性を出すことの難しさを。

 たとえば、enchantMOONのロゴマークはまさしくそのような条件で探されました。
 しかしこれは本当に恐ろしく難しく、ぜんぜんてがかりが見つからないという状況でした。

 モチーフに月、つまり正円を持って来るところまではすぐにたどり着いたものの、そのままでは日の丸に見えてしまいますし、単色で月に見せつつロゴの形へなるべくシンプルに仕上げるにはどうすればいいのか何ヶ月も考え、暗礁に乗り上げそうになりました。

 そこで樋口監督が、「子供がプログラミングをして、ニヤリと笑った笑顔をモチーフにもってこよう」というアイデアを導入し、今のロゴができあがりました。

スクリーンショット 2014-05-05 9.47.51.png

 これは本当に素晴らしいできばえになったと思います。

 ただ、ここまでのロゴを作るのは並大抵のことではありませんし、樋口監督の才能と経験があってこそ成立したものでした。

 私が気に入っているロゴのひとつはARC(秋葉原リサーチセンター)のロゴです。
 これも単色、円形のシルエットを基本にしつつ、やや崩しています。

スクリーンショット 2014-05-05 10.02.05.png

 ARCは、UEI社内に設立した研究を専門とする部門です。
 しかも通常の部門と異なり、大学生・大学院生を中心とした若い人々の、教育・研究機関という色彩の強い組織でした。

 そこで学校(アカデミー)の語源であるプラトンのアカデメイアに掲げられていた言葉「幾何学を知らざるもの、この門をたたくべからず」の古代ギリシャ文字を掲げ、上下にやはり古代ギリシャで始まったオリンピックの勝者に贈られるオリーブの冠にならい、「利益ではなく名誉を追求する象徴」としてオリーブをあしらいました。

 私がデザイナーと話をしたのは、「幾何学を知らざるもの〜」の部分と、プラトン、そしてアカデメイアの話だけでしたが、デザイナーの方でオリーブのアイデアを取り入れたものを提案していただきました。

 もうひとつ、やはり正方形に収まるデザインですが、enchant.jsのロゴも同じデザイナーの方にお願いしたものです。

enchant.png

 これは、「enchant.jsという、ゲームプログラミングを誰にでも簡単にできるようにするためのミドルウェア」という言葉しか与えていません。

 発注者としてはもっともラクだった仕事ですが、「ゲームを誰でも簡単につくれる」というところから、三角形のタイルを組み合わせる知育玩具のモチーフをデザイナーが自ら発見し、すべての文字要素を三角形タイルで作る、という大胆なデザインを完成させました。これも実に見事だと思います。

 経営者にとってもっとも重要なロゴといえば、もちろん会社のロゴです。
 これに関しても、筆者自身、かなりの苦労がありました。

 会社の立ち上げ時、知り合いの伝手で紹介してもらった高名なイラストレーターの方に「こんな会社を作るんだ」とお願いすると、すぐに1ダースほどのデザインアイデアが出てきました。しかし、どれもいまいちピンと来るものがありません。

 しかし先方も格安でやると言ってくれているので、そこらで妥協しようか、と思う気持ちもありました。
 でもよくよく考えてみると、彼にとって企業のロゴというのは沢山ある仕事のうちの一つでしかありません。しかし私やこれから私と一緒に働くことになる同僚や部下にとっては、それが自分の属性を表す一つのアイデンティティとなるのです。

 そこでせっかくいただいたデザインですが、丁重にお断りして、自分たちでデザインを作ることにしました。
 思えば、この時点で私はデザインというものに関して大きな勘違いをしていました。イラストレーターはデザイナーではないのです。だから手先が器用であっても、デザインを作るという仕事とは全く異なるもので、それを知り合いの伝手というので甘えて、たいした覚悟もなくお願いしてしまったのでした。

 最初は私自身がフォントを並べただけのシンプルなもので会社をスタートしました。素人仕事なので格好よくはありませんが、それでも他人がなんとなく作ったものよりは良い、と考えました。

 やがて会社に人が増えて来ると、このなんとなく作ったロゴをきちんとしたものに変えたいと思うようになりました。

 しかも会社のロゴだけは社内のデザイナーで作りたい、という想いがあり、新卒で入ってきた才気あふれるデザイナーに発注することにします。

 その際、私はこんなことを彼に話しました。

 「うちの会社は、一般消費者向けの製品を作っているわけじゃないんだ(※当時)。取引先は、激しいコンテンツ競争のなかで、そこを勝ち抜くための最高のツールとしてうちの会社を求めている。我々のロゴを今作るなら、そういうメッセージ、勝利と信頼のメッセージを打ち出さなければならない。そして会社というのは、できるだけ長く続かなければならないんだ。一瞬の大儲けではなく、不死であることを第一に考えなければならない」

 それから、私自身も数々の企業のロゴデザインの成り立ちについて学びました。
 ポルシェやアルファロメオのロゴはなぜ盾の形をしているのか、モンブランのマイスターシュテュックはなぜ白いのか。

 その中で目に留まったのは、フェラーリのロゴ、「カヴァッリーノ・ランパンテ」でした。いわゆる「跳ね馬」マークです。

 なぜフェラーリが「跳ね馬」のマークを冠しているのか。
 当時、自動車レースといえば貴族の道楽だった時代、創業者のエンツォ・フェラーリはイタリアの田舎町モデナの板金工の息子として産まれました。

 アルファ・ロメオのテストドライバーとレーシングドライバーを経て、フェラーリを創設した際にこの跳ね馬マークを付けることに成ります。

 この跳ね馬マークはイタリア空軍のエースであったフランチェスコ・バラッカの付けていたマークに由来していました。バラッカはドイツ空軍の飛行機を撃墜した際、そのパイロットの出身地であるシュトュットガルトの紋章があしらわれていたことにヒントを得てこのマークを自分の飛行隊に採用したと言われています。

 また、ポルシェのエムブレムの中央部にも同じ跳ね馬があしらわれていますが、これはポルシェの本社がシュトゥットガルト市にあるためです。

 出身地の市のマークをあしらう、というやり方がヨーロッパにあったと聞き、これは上手いやり方だと私は思いました。

 というのも、歴史だけはお金で買うことはできないからです。
 人間は突然産まれて来るのではなく、当然、その土地の風土や環境によって育てられて初めて人間になります。

 つまりその人が育った環境、出身地というのは、そのままパーソナリティ全体を象徴すると考えられなくもないのです。

 ふと、私自身の出身地である新潟県長岡市の象徴はなんであったか、ということを考えてみました。
 するとそれは不死鳥でした。

 というのも、長岡市は歴史上何度も焼け野原になりながらも、その都度、復興を果たして来たという歴史があるからです。
 

 会社は儲からずとも潰れてはならない、というポリシーと私自身の出自である長岡市の不死鳥は、なにか縁があるような気がしました。

 そこで不死鳥をモチーフにし、信頼と技術を字形と色で表現することにします。
 その結果できたのがこのロゴです。

スクリーンショット 2014-05-05 10.47.41.png

 前のふたつに比べると新人が作っただけあってややバランスが悪い三角形シルエットのロゴですが、メッセージ性が強く社内に気に入っている人間も多いので結局現在に至るまでこのロゴを使っています。

 ロゴは使う人が気に入るまでは何度でもダメだししないと本当に欲しいものは産まれません。

 もちろんダメだしの回数は最小限であるべきなのですが、そのためにはデザイナーとしっかりコミュニケーションをとり、欲しいロゴに何を象徴させたいのか、徹底的に話し合う必要があります。

 それでもイメージと違ったら、もちろん労働への対価は支払いつつ別のデザイナーとロゴについて話し合うという手間と費用も厭わずに行うべきだと思います。

 ロゴの持つ影響範囲はとてつもなく広いからです。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。