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モンゴルの携帯電話事情(3) - モンゴルのスマートフォン事情

2014.07.04

Updated by Kazuteru Tamura on July 4, 2014, 20:21 pm JST

モンゴルは決して経済的に発展しているとは言えないが、国民の間にはスマートフォンが普及しつつある。モンゴルにおけるスマートフォン市場は中古品の流通が盛んであるが、メーカーは移動体通信事業者と提携してそれぞれ異なったスマートフォンの展開を見せている。今回は、各移動体通信事業者のスマートフォンに対する取り組みや展開を紹介する。

iPhoneを大々的に扱うMobiCom

MobiComはモンゴル最大の移動体通信事業者であるだけに、スマートフォンのラインナップも豊富である。TEDY MOBILE SHOPPING CENTERの1階に構えるMobiComの旗艦販売店の中央にはiPhoneの展示スペースが設けられている。

AppleはiPhoneを取り扱う際に厳しい条件を要求するとされており、それに従ったのだろう。メインの入り口から入ってすぐのスペースに広々とiPhoneを展示するスペースがあり、実際に手に取って試せるようになっていた。MobiComの販売店では基本的にスマートフォンの実機は展示していないが、iPhoneだけはiPhone 5、iPhone 5c、iPhone 5sを展示していた。また、TEDY MOBILE SHOPPING CENTERの外壁にはMobiComとiPhoneの広告が掲載されていたり、iPhoneだけはラメ入りでキラキラと光るパンフレットが用意されたりと、iPhoneが特別扱いであることは明白であった。iPhoneを取り扱う移動体通信事業者がiPhoneを特別扱いするのはモンゴルでも同じなのである。

ラインナップにはSamsung Electronicsやその他のメーカーも用意されている。発売されたばかりのSamsung GALAXY S5は専用のパンフレットが配られており、街中でもMobiComとSamsung GALAXY S5の広告を見ることができた。また、モンゴルのモバイルテレビであるDMBを視聴中にも、MobiComとSamsung GALAXY S5のコマーシャルが流れ、iPhoneほどではないものの積極的に展開していた。MobiComが専用のパンフレットを用意していたのはiPhoneとSamsung GALAXY S5だけであり、MobiComが積極的に売ろうとしていることが見て取れた。

広告やコマーシャルには必ず移動体通信事業者とメーカーのロゴが入れられており、共同で展開していることが分かる。モンゴルでは保証付きの新品を正規ルートで購入するには移動体通信事業者の販売店で購入する必要がある。そのため、移動体通信事業者の販売店は重要な販売チャネルであり、また販売の主導権は移動体通信事業者が握っているためにメーカーは移動体通信事業者と提携して販売する。MobiComの販売店の隅にはSamsung Electronics、Sony Mobile Communications、Nokia (Microsoft)の販売ブースが設けられており、各販売ブースで購入することができる。

MobiComの販売店内は多くの人で賑わっていたが、その多くは主にプリペイドSIMを求める客である。スマートフォンを購入する客はSamsung GALAXY S5を購入する客を僅かに見た程度で、iPhoneの販売スペースも他の国では見たことがないくらい閑散としていた。

中古品の流通が盛んなだけに移動体通信事業者の販売店から新品を求める需要は低く、また経済的な面から高価なスマートフォンを買える層が少ないにも関わらず高価なスマートフォンを大々的に展開していることから、MobiComの販売店でスマートフォンを購入する客が極めて少なかったのだと考える。

▼MobiComの販売店内にはiPhoneの展示スペースが広々と設けられている。しかし、閑散としている。
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▼ウランバートル市内で見られたSamsung GALAXY S5の広告。MiboComのロゴも入っており、Samsung ElectronicsとMobiComが協同で展開していることが分かる。
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▼MobiComの販売店に入るメーカーの販売ブース。Nokiaはスマートフォンよりも低価格なフィーチャーフォンの方が売れているという。
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ローエンドが中心のSkytel

Skytelはモンゴル2位の移動体通信事業者で、同1位のMobiComとは異なりローエンドのスマートフォンを中心に用意していた。

ハイエンドのスマートフォンからローエンドのスマートフォンまで幅広く取り扱うSkytelであるが、需要が高いローエンドのスマートフォンのみ店頭に展示している。展示しているといってもショーケースに入れられているため、実際に手に取って試すことはできない。

ショーケースに入れられているスマートフォンはHuawei TechnologiesやLG Electronicsのスマートフォンばかりで、ブランド面ではAppleやSamsung Electronicsに劣るものの、それだけ低価格で提供している。モンゴルのような市場の場合、高価格のスマートフォンを大々的に広告展開するよりも、低価格のスマートフォンを中心に展開する方が販売台数を伸ばせるという。低価格帯のスマートフォンで、中古市場に対抗しているとも言えるだろう。

▼Skytelの販売店にあるショー―ケースにはHuawei TechnologiesとLG Electronicsのスマートフォンのみが展示されている。
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GALAXYシリーズが中心のUnitel

モンゴル3位の移動体通信事業者であるUnitelは様々なメーカーのスマートフォンを取り扱うが、その中でもSamsung Electronicsのスマートフォンを主力に取り扱う。販売店には実機を試せるスペースが用意されており、展示されているスマートフォンやタブレットはすべてSamsung Electronicsとなっている。街中にはUnitelとSamsung GALAXY S5の広告が見られたり、テレビではUnitelとSamsung GALAXY S5のコマーシャルを流したりと、UnitelとSamsung Electronicsが提携して積極的に展開している。ラインナップは高価格なSamsung GALAXY S5だけではなく、低価格~中価格のSamsung GALAXYシリーズまで万遍なく用意している。

Samsung Electronicsはウランバートル市内でSamsung GALAXY S5 WORLD TOUR 2014 ULAANBAATAR, MONGOLIAを開催しており、モンゴル市場に対して積極的な姿勢であることも窺える。

▼Unitelの販売店内にはSamsung Electronicsのスマートフォンやタブレットが並ぶ。
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▼Unitelグループの本社ビル近くにある交差点ではSamsung GALAXY S5の広告が見られた。Unitelのロゴも入っており、Samsung ElectronicsとUnitelが協同で展開することが分かる。
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モンゴルで唯一の自社ブランドで展開するG-Mobile

G-Mobileはモンゴルの移動体通信事業者4社中シェアが4位と最も低いが、G-Mobileは他社とは異なった展開を見せている。

他3社が提供するスマートフォンは移動体通信事業者が販売するものの、スマートフォン自体はメーカーのブランドであり、移動体通信事業者のロゴは入らない。ところが、G-Mobileは自社ロゴが入った自社ブランドのスマートフォンを投入しているのである。中国のHisense製のG-Mobile U1、G-Mobile U2、G-Mobile U2S、G-Mobile U3がG-Mobileブランドのスマートフォンとして展開されている。いずれも型番そのものはモンゴル以外に投入されているベースモデルと同じであるが、フロントや起動画面にはG-Mobileロゴが入っており、G-Mobile仕様に仕上げられている。

G-Mobileのロゴが入ったスマートフォンとしてはG-MobileブランドではないもののPantech Pocketも用意している。米国の移動体通信事業者であるAT&T Mobility向けに開発されたPantech PocketをそのままG-Mobileが正規に販売しているため、ソフトウェア面は完全にAT&T Mobility仕様でSIMロックも掛けられている。ロゴだけがG-Mobileなのである。

モンゴルでは移動体通信事業者との契約なしでスマートフォンを購入できるため、Pantech Pocketを購入することにした。確かにSIMロックが掛けられていたが、その場ですぐに無料でSIMロックを解除し、念のためにとSIMロック解除コードを取扱説明書に書いて渡してくれた。G-Mobileはいかに安く調達するか、という点が重視してAT&T Mobilityで売れ残ったPantech Pocketを調達してきたようである。

G-MobileブランドのスマートフォンやPantech Pocketは移動体通信事業者が正規に扱う新品のスマートフォンとしては安価な部類である。ちなみに、Pantech Pocketは195000モンゴルトゥグルグ、購入時のレートで約12000円程度である。しかし、この価格でも高いために中古品に流れてしまうという。

なお、G-Mobileは有名メーカーのスマートフォンなど数多くのラインナップを揃えるが、店頭で推しているのはG-Mobileロゴの入ったスマートフォンとiPhoneである。

▼G-Mobileの販売店に掲出されているポスター。下段の3枚がスマートフォンで、左からG-Mobileブランドのスマートフォン、Pantech Pocket、iPhone 5sとなっている。
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▼モンゴルで購入したG-Mobileのロゴが入ったスマートフォン。左がPantech Pocket、右がG-Mobile U2である。
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モンゴル語が入っていないモンゴルのスマートフォンも少なくない

モンゴルでは各移動体通信事業者が正規にスマートフォンを扱っていることをお伝えしたが、移動体通信事業者が扱うスマートフォンにはシステム言語にモンゴル語が入っていないことも少なくない。MobiComの販売店で展示されていたiPhoneは英語に設定して展示されており、G-Mobileブランドのスマートフォンでさえも英語のみとなる。モンゴル語が入るのはSamsung GALAXY S5など一部のスマートフォンに限られる。モンゴル語の利用が可能なことをアピールする場合もしばしば見られるが、モンゴル語の追加が特別に歓迎されているわけではないのである。

モンゴルの主流は中古品であり、その殆どがモンゴル語に対応していない。モンゴル語に非対応のスマートフォンが主流となる状況で、モンゴル語で使用するキリル文字をアルファベットに転記する方式が定着しているのである。モンゴルのプリペイドSIMを使用した際に、移動体通信事業者から複数のメッセージが届いたが、これらはいずれもアルファベットに転記する表記方法を採用していた。代替手段が確立されているために、モンゴル語の対応は需要が低い。

モンゴルでは安さを重視してスマートフォンを選ぶことが多いために、結果としてモンゴル語に非対応のスマートフォンが大量に出回ることになる。いかに安く買えるか、ということがモンゴルでは重要になるのであるが、そこからモンゴルの経済状況まで垣間見ることができるだろう。

▼G-Mobileが販売するPantech Pocketにもモンゴル語は入っていない。モンゴル語に非対応のスマートフォンは英語に設定して使うことが多い。
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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。