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Facebookと「信頼」とモルモット

2014.07.08

Updated by yomoyomo on July 8, 2014, 12:00 pm JST

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(cc) Image by Jason Howie

先日、2010年に注目されたスタートアップのトップ50はその後どうなったか? という記事が目に留まりました。四年前といえば、ウェブの世界ではそれなりの時間になりますが、トッププレイヤーが一変するほどでもないところが微妙で、実際挙げられているスタートアップも、サービス停止したところ、ピボットを経て別のサービスになったところ、買収されたところ、そしてもちろん独立独歩を維持するところなど様々です。

偶然でしょうが、『ツイッター創業物語』の読者には冷徹で傲岸な投資家としておなじみ、フレッド・ウィルソンの先月末のブログ投稿も、2010年はじめに彼が作成した「成功するウェブアプリの10の黄金則(The 10 Golden Principles for Successful Web Apps)」というスライドの話から始まります。

ウィルソンがこのとき挙げていた10個の黄金則は以下の通りです。これが上記の2010年当時注目されていた50のスタートアップにどれくらい当てはまるか考えてみるのも面白いでしょう。

  • スピード(Speed)
  • すぐ役に立つ(Instant Utility)
  • 意見表明(Voice)
  • 少ない方が効果がある(Less Is More)
  • プログラム可能(Programmable)
  • 個人に向かい合う(Personal)
  • RESTful
  • 発見できる(Discoverable)
  • 清潔(Clean)
  • 遊び心がある(Playful)

四年半前に自ら作成したリストを見直し、ウィルソンはリストの中に「信頼(Trust)」がないのに気付きます。これは彼のうっかりミスかもしれませんし、時代が変わったというヤツなのかもしれませんが、この「信頼」についてウィルソンは写真のクラウドへの自動アップロードを例に説明します。

ウィルソンの Android 携帯から写真の自動アップロードを行う場合、選択肢となる主要なサービスが二つあります。Dropbox と Google+ です。

ウィルソンはこの用途には Google+ でなく Dropbox を使うそうです。なぜ Google+ では駄目なのでしょう?

写真のホスティング先として Google を信用していないとか、Google 全般を信用していないと言いたいわけではないとウィルソンは書きます。彼が恐れるのは、知らない間に Google+ のプライバシーポリシーが変わり、自分の写真が公開ウェブに晒されるような事態です。

面白いのは、自分がこの点で Google+ を信用しないのは Facebook のせいだというウィルソンの主張です。つまり Facebook の、何かとあればデフォルトの公開範囲を広げようとする姿勢のため、プライベートであるべき写真の公開(制限)にソーシャルネットワークサービスを使うのが怖いというのです。

その点 Twitter はよいとウィルソンは言います。Twitter なら常にデフォルトで全公開だと分かっているので、そこに何か投稿する場合ははじめからそのつもりでいれます(もっとも日本におけるバカッター騒動をみるまでもなく、そのあたりについてすら分かってない利用者が少なからずいるわけですが......)。

Dropbox はその点逆で、元々プライベート前提なので、個人の写真のバックアップに信頼して利用できます。サービスとして Dropbox のほうが Google よりも信頼性が高いというわけではないが、データのクラウドホスティングというブランドの使命のため、プライバシーが前提になっているところが信頼できるのです。

そんなに「信頼」が重要なら、なぜウィルソンはかつてそれをリストに入れなかったのか。Facebook のプライバシーに対する攻撃とそれに起因する信頼の喪失を、当時は皆が意識し出したばかりだったのかもしれません(Facebook のデフォルトの公開範囲変更の拡大を可視化した The Evolution of Privacy on Facebook が公開されたのは奇しくも2010年です)。いずれにしても、この点において我々はかつてよりパラノイアな状態にあるといえます。

ウィルソンの見立てによると、現在の Snapchat の隆盛もまさにこの点を反映したものだそうです。Snapchat なら、個人の写真を誰が見るか、その写真がどこに行くか(つまり廃棄される)を利用者が明確にコントロールします。それこそが我々が四年前には必要とも思わなかった特徴であり、この「信頼」へのニーズが Snapchat という会社を一つ丸ごと生み出したわけだが、おそらくはこれから、まだまだそうした企業が生まれるだろう。信頼こそ今どきのとても重要なポイントなのだ──とウィルソンは文章を締めています。

もっとも Snapchat には、ユーザが投稿した写真をちゃんと削除していないのではないかという疑惑があり(参考1参考2)、CEO に関する風説を見ても、とても「信頼」に値する企業には思えないわけですが、「信頼」を重視する、もう少し正確に書けば「信頼」にすがりつきたい人が四年前よりもずっと多くなっているのはその通りなのでしょう。

先週、ウィルソンによりその風潮の元凶として名指しされている Facebook が2012年に行った、ユーザの感情をコントロールする心理実験についての記事がニュースサイトを賑わせました。

これについてご存知ない方は、本サイトの「フェイスブックの「心理実験」に批判殺到 - サンドバーグCOOが謝罪、「世論操作」の懸念も」を読まれるのがよいでしょう。

WSJ記事によると、フェイスブックのデータサイエンス・チームでは、たとえば2012年に約70万人のユーザーを対象とした「心理テスト」を秘密裏に実施。この実験では、明るい(positive)もしくは暗い(negative)内容のニュースフィードを一定期間表示させ続けることで、「ユーザーの心理状態を変え、より前向きもしくは否定的な内容の投稿を書かせることができるかどうか」などが調べられていたという。

今回の騒動は、先月半ばに米国科学アカデミー紀要(PNAS)に、Facebook のデータサイエンティストらによる「ソーシャルネットワークを通じた大規模な感情伝染の実験的証拠(Experimental evidence of massive-scale emotional contagion through social networks)」と題された論文が掲載されたことで勃発したわけですが、論文に書かれた実験自体は2012年のはじめに行われたものです。

論文内容に対する反応は批判が圧倒的に多く、シェリル・サンドバーグ COO が謝罪するに至りましたが、気をつけなければならないのは、もとよりFacebook はユーザのタイムラインに表示される内容をアルゴリズムで決めており、元々何らかの操作が加わった結果であることです。そして、企業の自社サービスにおけるユーザ体験を楽しいものにし、その滞在時間を延ばそうとするのははごく自然な発想です。

マーク・アンドリーセンの、どのみち俺たちはテレビからも本からも新聞からも必ず感情操作を受けてるんだから、という雑な混ぜ返しは論外としても、ジョナサン・ジットレインも指摘するように、Facebook の実験が他のウェブ企業も日常的に行っているA/Bテストと何が違うのか考える必要があります。

ワタシ自身の立場は、ユーザの感情を操作することを目的とする直球すぎる点において、単なるA/Bテストの域をはっきりこえているというダン・ギルモアの指摘に近いわけですが、Facebook がこうした心理学の実験において欠かせないインフォームドコンセントの手順を踏んでない点も問題とされています(Facebook は民間企業なので、大学のように治験審査委員会の許可を得る必要がないらしい)。

Facebook は「データの使用に関するポリシー」を盾に実験の正当性を主張していますが、実際に Facebook がこのポリシーに「調査(Research)」を加えたのは2012年5月であり、件の実験の4ヵ月後であることを Forbes が報じていることも付け加えておきましょう。

また、件の実験に陸軍からお金が出ていることにナーバスになる人もいるかもしれません。陰謀論には与しませんが、グレン・グリーンウォルド『暴露──スノーデンが私に託したファイル』を読んだ後では、Facebook のインターネットユーザへの強い影響力が、国家権力と結びつくことの危険を考えずにはいられません。今回の騒動の後、やはり同じデータサイエンティストが携わった2010年の政治的動員に関する大規模実験が掘り起こされているのは、ユーザの政治的選択という重要な行動が知らないうちにコントロールされることへの恐れがあるからでしょう。

ワタシはかつて、「何かにお金を払ってないのなら、あなたはそこの顧客ではない──あなたの方が売り物の商品なのだ」という、Facebook について引き合いに出されることの多い言説に対して Facebook 社員が反論した「あなたは商品ではない」を訳したことがあります。

なるほど、確かに Facebook はユーザのデータをそのまま広告主に売ることはしていません。しかし、前述のWirelessWire News の記事にもあるように、一部の正当なユーザをアカウント停止して身元証明の手続きを強いるといった、ユーザをつくづくバカにした実験の話も合わせ、ユーザをモルモット扱いしているという謗りは免れないでしょう。

筆者の佐藤由紀子氏が指摘するように、Facebook はこれまでもユーザのプライバシー問題で欧州委員会や FTC からの物言いに対して謝罪を繰り返してきました。しかし、その謝罪の生返事ぶりの裏に透けて見えるものは何でしょう。

「なんでいけないの? その方がユーザーにとって便利になるのに」と心の底から考えてるんだと思う。つまり、英語のイノセント(innocent)なんでしょう。無邪気で悪気はない(innocentには"ばか"という意味もあります)。
(中略)
クレイマーさんの説明を読むと「やり方はちょっとまずかったかもしれないけど、ユーザーに良かれと思ってやった実験なんだもん、悪いことはしてないもん」という気持ちが伝わってきます。「良かれと思って」っていうのは時々、悪意を持って行うことよりも怖いことがあるんですが。

ワタシは今から6年前、以下のような文章を書きました

Google は紛れもなく偉大な仕事をなしており、正に「世界を変える」力を持った稀有な企業です。だからこそ、Google は自身が強大な力を持っていること、そして彼らが忌む「邪悪」が絵に描いたような悪党の悪巧みからではなく、そうした力を持つ者たちの高慢や独善から導かれることが多いことにもっと自覚的であってほしい。

「「邪悪」が絵に描いたような悪党の悪巧みからではなく、そうした力を持つ者たちの高慢や独善から導かれることが多いことにもっと自覚的であってほしい」というのは、今の Facebook に対して願うことでもあります。Facebook がこの点において「信頼」を得る日は来るのでしょうか。

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yomoyomo

雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『情報共有の未来』(達人出版会)、訳書に『デジタル音楽の行方』(翔泳社)、『Wiki Way』(ソフトバンク クリエイティブ)、『ウェブログ・ハンドブック』(毎日コミュニケーションズ)がある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。