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問題は英語特区を作るかどうかじゃないことを理解していないクルウジャパン

2014.08.29

Updated by Mayumi Tanimoto on August 29, 2014, 03:54 am JST

社内共通語を英語にすると税制面で優遇 、「英語特区」創設を提言 クールジャパン有識者会議 

このところ我が国では「ほにゃらら特区」が熱い様です。なんでしょうかこの「英語特区」とは。

いきなり社内公用語を英語化しても、今更遅いんじゃないかという気がしてなりませんというよりも、社内がドリフのコントの様な感じになるのではないかという気がして、ぞわぞわしてくるのであります。

以下はワタクシが昔目撃したある一流企業における会議の様子です

日本:『あ〜ゆーあんだすたんど?じすいずべりーいんぽーたんと。おけい?』
インド:『........』
ドイツ:『........』
トルコ:『........』
カナダ:『........』
イギリス:『そーみすたーやまだ。うじゅーかいんどりーえくすぷれーんきーぽいんとおぶじすぷろとこる、あんど、わいいっついんぽーたんと』
日本:『はあ?おーおーおー、あー、いっついんぽーたんと!!わいゆーのっとあんだすたんど!!』

会議はこのような調子で進み、結局何も決まらずに終わったため、涙目のインド、ドイツ、トルコ、カナダ、イギリスの人々は、後になってこっそりと別室に集まり「ちょっとお前アレ何言ってるかわかった?」「意味わかんないんだけど、どうする?」「感覚的にはこういうことじゃね」と話しあったのでした。激怒する日本に「あなたの言ってることはさっぱりわからない」と聞くわけにもいかず。こんなことなら通訳やとってよ、俺たち仕事したいだけだし、とぼやくメンバーなのでした。

さて、ITや通信業界に身を置いていると、「何とかして英語できる様になっても埋まらない泥沼の様な溝」を日々実感します。英語はもちろん重要です。

しかし最も重要なのは英語ではありません。

英語ができても

なぜインド人がギラギラの時計をしているのか
なぜインド人は高い携帯を見せびらかすのか
なぜ中国人はで本体がでかいサムソンのスマホを好むのか
なぜイギリスでは見るからに危ない感じのギャングスタがブラックベリーを使っているのか
なぜロンドンのエンジニアは定時に帰ってしまうのか
なぜチェコとイギリスのエンジニアは一年中喧嘩になるのか
なぜフランスの携帯事業者はエジプトに研究拠点を持っているのか
なぜイタリアでは通信メーカーの直営店からデバイスを入れられないのか
なぜイタリアの衛星通信サービスはやたらと落ちるのか
なぜギリシャではスイッチが盗まれるのか
なぜスペインのデータセンターが水浸しになるのか
なぜシベリアでは銅線が盗まれるのか 

ということはわかりません。

これらを理解するには、異なる土地の人々が見栄を張りたいポイント、労働慣習の違い、国民性の違い、植民地の歴史、規制の違い、現地におけるマフィアの役割、品質に対する期待の違い、などの違いを体験し、痛い目にあわなければわからないわけです。

言葉だけできても、そういう事柄を包括的に理解できなければ、サービスや製品を現地向けに企画したり、適切な広告を打ったり、現地のエンジニアを動かしたり、迫り来るリスクを想定して先に手を打っておくことができません。

イギリスだけではなく欧州大陸でも、ホワイトカラーで付加価値の高い仕事をする人々に取っては、英語ができることは呼吸する様なことに過ぎません。そして、既に英語がベラベラで、これから進出しようとする土地の移民2世やら3世で、現地の支配階級なり商売がうまく言っている人々と親戚だったり知り合いだったりという人々が山の様にいるわけです。

つまりグローバルで戦うということは、英語特区を作ればどうにかなる、ということではなく、現地の人々が見栄を張るポイントを完全に理解していて、しかも英語もペラペラの人とやり合うということです。そういう人は、識字率の低い地域に、誰も使わない様な機能山盛りの洗濯機を売り込もうとは思わないはずです。

プロジェクトメンバが別室に集まって「あれなんて意味?」とヒソヒソ話していたら、効率が下がる上、士気が下がりまくりなのは目に見えているわけですが、ジャパンはクールと自分で言い張りたい人々は、エンジニアが定時で帰ってしまう中で、工数をやりくりして死ぬ思いをした経験なぞないので、最も重要なポイントがわからないのでしょう。

「俺はクール」と自分で言い切ってしまうのは、白いパンタロンとシークレーットブーツにメッシュの革靴とセカンドバッグで決めて、ギロッポンに繰り出すリーゼントの人の様な感じがするので、いっそクルウジャパンと名乗った方がいい気がするんですが。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。