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女子中学生たちが「手作りゲーム」で見せたクリエイティビティ

2014.09.20

Updated by Ryo Shimizu on September 20, 2014, 20:02 pm UTC

 今日は品川女子学院の文化祭「白ばら祭」に行ってきました。
 今朝、朝一で漆校長先生から直々にメールをいただき、中学一年生の生徒さんたちがenchantMOONに夢中になっていること、そこで様々なコンテンツが自主的に産まれていることなどが感謝の言葉とともに書いてありました。

 今日、明日の文化祭では、そうした生徒さんたちがenchantMOONで作った作品を多数展示しておられるということなので、漆校長先生に特別にご招待を頂いて少しだけ見学させていただいたのです。

 そしてそれは私自身も予想もできなかったような驚きの内容でした。

 漆先生は校長日記のなかでも、今回の取り組みについて触れられていただいています(リンク)。

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 一年生の教室に行くと、いきなりこのブログの抜粋記事が紹介されていました。

 そして生徒さん達がこう声を張り上げています。

 「私たちがエンチャントムーンで作った手作りのゲームをぜひ見に来て下さい!」

 大なり小なり、一年生のどの教室でもenchantMOONによる作品が展示されていました。
 


 いざ教室に入ってみると・・・

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 あちこちの教室にenchantMOONが展示されていました。

 それぞれのenchantMOONに、それぞれの生徒さんたちが発表テーマにあわせて思い思いのコンテンツを作り込み、それを展示してくれていました。

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 しかも、手書きでenchantMOONの説明まで書いてくれています。
 開発に関わった人間として深く感動せずにいられませんでした。

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 それぞれのコンテンツは、一年生の一学期に学んだ品川の地域の企業や歴史、名所旧跡について丁寧にまとめられていて、クイズ形式やゲーム形式、ハイパーテキスト形式で溢れようなクリエイティビティを全力でぶつけて作られていました。

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 多くの生徒さんたちがenchantMOONでさまざまなゲームやクイズを作ってくれていたのですが、そもそも私たちがenchantMOONの説明をしたのはたった一回だけ。50分程度で、そのときも基本的な使い方しか解説しませんでした。

 その後一度だけ、二週間前に彼女達の質問を直接聞く機会があったのですが、本当にそれだけです。

 その後、どのようなことが起きたのか、学年主任の田口先生からかいつまんで伺うと、富士山の宿泊行事にenchantMOONを持って行き、各班でまず宿泊行事を題材にした作品を作りました。これが現在、skylabに公開されているものです(リンク)。

 しかし、その後、「文化祭まで貸し出される」ことになったとき、生徒さんたちは先生が指示を出すよりも前に自主的にenchantMOONで発表作品を作り始めていたのです。

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 つまり今回の文化祭で展示されている作品は、全ての班が制作を学校で義務づけられていた宿泊行事とは別に、生徒さん達が自主的に作り始めていたものだということです。

 また、展示にiPad miniが用いられている場合もありますが、iPad miniでは写真のスライドショーや、既存のWebページの掲示に留まるのに対し、enchantMOONによる展示はよりインタラクティブで創造的なものになっていました。

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 つまり、彼女達はenchantMOONとiPadの本質的な違いを敏感に感じ取り、インタラクティビティのあるものはenchantMOONで、そうでないものはiPad miniで展示するような使い分けを行っていたのです。

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 そのうえ、私たちは最初の、そして最後の授業ではクイズゲームの作り方、などは全く教えていないのです。

 にもかかわらず、彼女たちはハイパーテキストの構造と意味、そして意義を探り出し、自分たちの考えでクイズゲームの実現という実装に至りました。

 実は最初の時点では現在のノートストレージのようなブロックは存在せず、クイズゲームを全問正解とそれ以外でスコアを分けるのは難しかったのです。

 なにしろ私はそもそも最初から「enchantMOONでクイズゲームを作るのは一番難しい」と思い込んでいました。

 プロのゲームクリエイターがクイズゲームを作る場合、まずクイズのデータベースがあり、それがランダムな順序で表示され、スコアが計算され、制限時間があり、正答率を計算する・・・というのがそもそも一連のクイズの流れです。

 ところが、彼女達のクリエイティビティはそうした私のような人間の固定観念を易々と乗り越え、「ハイパーテキストだけのクイズゲーム」に自主的に至っていたのです。

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 ではなぜクイズゲームがこれほど多いのか、と言うと、そもそも「学習した内容をゲーム形式で表現する」という主題に照らせば、クイズ形式で表現するのが最も簡単だからです。

 そして、ハイパーテキストだけでも十二分に面白い、立派なコンテンツとしての機能をも持ち合わせています。

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 もちろん、全ての中学生一年生がここまでの芸当を自主的に身につけることができると一概に結論づけることはできないでしょう。

 たとえば小学校のクラブ活動にenchantMOONを活用しようとされた例では、無惨なまでに児童のクリエイティビティを引き出すことに失敗しています。

 それどころか、クリエイティビティ以前の使い方や、使っていいのかどうか、家に持って帰って壊したらどうしようか、という根本的なところで躊躇があり、きちんと活用されるには学校側の全面的な協力と、教員の指導力が両方備わっていなければならず、ただポンとenchantMOONと教科書だけをポンと学校に配布しても意味がないことが解りました。

 今回は「ある程度の台数を集中的に使用したことで、まず一台や二台壊れても平気という空気がうまれ、教員が生徒をある程度のレベルまで教導したあと、その後自主性に任せた結果、生徒自身が自主的に創造性を発揮した」ということなのだと思います。

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 もちろんこれは、わずか7年で偏差値を20ポイントもアップさせたという伝説的な快進撃の渦中にある品川女子学院だからこその成果かもしれません。生徒さんたちの地頭の良さと率直さを育てる指導方針や、未知のものに大胆に取り組んで行く進取の精神を持った漆校長先生の指導体制があるからこそ、ここまで全面的な導入に踏み切ることができ、学年主任の田口先生を始めとして強力なバックアップ体制を持って成し遂げられた成果なのだと思います。

 しかしひとつの可能性として、中学一年生の教室にiPadとenchantMOONが両方あったとき、enchantMOONの方がより創造性を発揮することに貢献したということだけは事実ですし、これこそが私たちが本当にやりたかったことです。

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 生徒さんたちは意識せずに自らの作品を「手作りゲーム」と呼んでいます。
 手作りゲーム・・・本当にすごい言葉です。

 私が子供の頃、自分で作っていたゲームだって、絵からプログラムから、いや、下手をすると絵を描くためのソフトまで、全て自作していました。私より前の世代のコンピュータマニアは、そもそも市販されている完成品のマイコンなどなかったので、それをハンダ付けするところから始まりました。これだって「手作り」です。

 コンピュータも、ゲームも、いつだって手作りでした。
 しかし時代が発達し、便利になっていく過程で、いつのまにかコンピュータの中でなにかを「手作り」する感覚は失われてしまっていたのではないでしょうか。

 そうした時代にうまれた彼女達がenchantMOONに触れた時、それを「手作りゲーム」と呼んだということが、どうにも私の胸を打ちました。

 品川女子学院の文化祭「白ばら祭」は、明日日曜日も開催されています(リンク)。
 小学生女子が同伴なら予約不要で見学できるそうなので、この機会に一度訪れて見てはいかがでしょうか。

 enchantMOONに対する取り組みに限らず、企業とのコラボレーション商品企画や起業体験講座など、他校では聞いたこともないような斬新なカリキュラムが盛り込まれており、本当に驚きました。

 こういう学校の生徒さんたち、先生方だからこそ、今回のようにenchantMOONをごく自然かつ徹底的に活用して下さるんだなと改めて思った次第です。

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 お忙しい中、漆校長先生にもご挨拶をさせていただいたのですが、子供達が夢中になるので、来年度の新入生もenchantMOONを教材として使いたいという有難いお言葉をいただきました。

 何事も一足飛びに大きく動くことを常に期待するわけにはいきません。
 しかし、私の中では、今回の品川女子学院さんの生徒さん、先生方の反響は、多いに自信になりましたし、今後もこどもたちの自主性やクリエイティビティを最大限に引き出すような機能を精力的に考えて行こうと改めて思うのでした。

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 また、低年齢層をふくめたあらゆる年齢層の方を対象として、enchantMOONを使ったプログラミングの実際を無料で体験できる体験講座を、長岡市の協力を得て来たる10月26日の日曜日に開催することになりました(リンク)。

 
 こういう地道な活動を継続しながら、すべての人々が当たり前のようにプログラミングができるようになる時代を模索していきたいと思います。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。