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定時に帰りたいなら死体を床に放置するといい

2014.10.29

Updated by Mayumi Tanimoto on October 29, 2014, 04:49 am JST

日本で30年以上前から過労死、長時間労働ということが言われており、2014年になっても、どうもそれは全然変わっていない様なのですが、ワタクシが良く受ける質問の一つに、イギリスやヨーロッパのサラリーマンの多くはなぜ定時に上がることができるのか?といいうのがあります。

リソース(人、お金、場所、時間など)の配分方法が違うとか、経営管理の方法が違うとか、仕事の要求品質が違うとか、契約社会かそうじゃないかなどと、まあ色々難しい話があるわけですが、極端な話をしますと、死体担当であっても時間が来たら家に帰り、死体が腐ろうが怖かろうがそんなことは俺の責任ではないと言い切る頑固さと信念とスーパー自己中な強い心が必要だということに集約されるわけです。

イギリスでは先日ある男性が死んだのですが、救急隊員は一応家に死体を回収しに行ったものの、シフトが終わったので救急車の車庫の床に死体を放置して家に帰ってしまい、次のシフト担当が来るまでそのまま放置されていました。救急隊員はシフト終了前に35キロ離れた病院まで運転しなくてすんだので、時間とガソリンの節約になりました、しかも定時に帰れてめでたしめでたし、という事件というわけです。

この件は炎上しているのですが、死体が放置されていたのがゴミ箱の横だったのでさらに延焼中です。イギリス人はエログロナンセンスな趣味があり、魔法とか魔女とか腐った死体が大好きですが、救急隊員は、ハロウィン向けのギャグとしてあえて死体を放置してみたのかもしれません。

さて、この件から分かることですが、救急隊員と言えども契約以外のことはやらないと言う頑固さがあるというですね。契約書に書いてあるシフト外の労働だと、労災が適用されないとか、時間外手当が出ないとか、諸処の事情もあったのではないかと思われますが、さすがにこの事件は酷いと言っている人が多いわけです。しかし、死体がどうなろうと、自分が契約書の勤務時間外に事故にでもあって怪我したら困るという自己中さというのは、ここの働く人々の多くが持っている考え方であり、他の諸職場でも仕事半ばでもさっさと家に帰る、引き継ぎなどしないで休みに入る、辞める前に仕事のとりまとめやらノウハウなんて残さない、というのが当たり前であります。

管理者や経営者は、酷い目に合いたくなければ、その人に引き継ぎしてもらうと契約書に書いておくとか、ナレッジのトランスファーに関して合意を取っておくと言う「努力」と「リスクヘッジ」が当たり前です。それができない人は無能な管理職、無能な経営者であるに過ぎません。引き継ぎしない人とか定時に帰る人は、無責任とか情がないと非難されるわけではありません。なぜなら殆どの人が無責任で情がないからです。責任感があって情があったら家に帰って耳くそを掘る時間がなくなるのです。

そういうわけで、定時に家に帰りたい人は、自宅から500キロ離れている老舗うなぎ屋に友達と行っても、突然ラーメンが食べたくなったら、あえてそこでラーメンの出前を取るという修行に取り組んでみて下さい。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。