オランダのゲーム産業に注目(2): 国家一丸でゲーム産業をバックアップ
2014.10.15
Updated by Hitoshi Sato on October 15, 2014, 11:10 am JST
2014.10.15
Updated by Hitoshi Sato on October 15, 2014, 11:10 am JST
前回はオランダがゲーム産業に注力していることをお伝えした。2014年9月18日から21日まで開催されていた世界最大級のゲーム関連イベント「東京ゲームショウ 2014(TGS 2014)」にはオランダ大使館も「オランダ・ゲーム・フロント」としてブースを構えており、オランダから「critical bit」、「two tribes」、「doubledutch game」、「EXCAMEDIA」の4社のインディーズ・ゲーム会社が出展していた。今回は、オランダのゲーム市場や税制面での優遇プログラムや助成金について見ていきたい。
2012年で人口1,680万人のオランダにおいて、ゲーム人口は800万人だった。半数がゲーム人口である。またゲーム人口の45%にあたる350万人がゲームにお金を払うペイヤーだった。ゲーム産業における総売上総額は年次ベース7.6%で成長しており、2013年には8億ユーロに到達すると見られている。プラットフォーム別にみると、オンラインゲームのプレーヤーが500万人と最も多く売上も2.4億ユーロと、欧州で第3位の規模となっている。続いてコンソールゲームが460万人、モバイルゲームが440万人となっており、1人当たり平均3.2プラットフォームを利用している。
また前回もオランダの大学ではゲーム開発に向けた教育プログラムも充実しており、アムステルダム大学ではゲーム開発の学士、ユトレヒト芸術大学ではゲームデザインの学士・修士、ユトレヒト大学ではゲーミングITで学士・修士などの教育課程を提供している。さらにユトレヒト大学では、急速に発展するゲーム技術の調査および教育分野において、オランダ政府が19万ユーロの資金を提供したGATE(Game research for training and entertainment)を主導しており、パートナーおよび中小企業がゲームの調査および開発に関わっている産学連携を実現している。
オランダでは以前から海外からの進出、投資を促す有利な税制を整えてきた。ヨーロッパ近隣諸国に比べて低い法人税率25%(課税対象額の最初の20万ユーロまでは20%)や資本参加免税、日本とも締結している租税条約などはその映画いだが、それに加えて、ゲーム関連企業が利用できる税額控除プログラムもある。なお、最新の情報についてはオランダ大使館など関連機関に問い合わせをしてください。
(1)WBSO
WBSOとは企業が負担する研究開発費用のうち、人件費の負担を軽減させるための措置。研究開発に関わる社員の源泉徴収税のうち、賃金税や社会保険料が控除される。最初の20万ユーロまでは38%(新規事業の場合は50%)、それを超える部分は14%が控除される。すでに多くの企業による利用実績がある。
(2)RDA
その他の研究開発コストを軽減させる措置がRDA。例えば、施策品の製作や機材の購入、施設の取得などにかかった費用全体のうち54%相当額が、法人税の課税対象額から控除される。本制度は2012年1月に創設された。
(3)イノベーション・ボックス
企業が独自に開発した無形資産から得られた利益については実効税率5%で課税するという優遇措置。他社によって開発された無形資産であっても、オランダ納税企業の責任負担のもとに開発されたものであれば、イノベーション・ボックスの対象となる。
2014年2月、アムステルダムで開催されたカジュアルゲーム業界の欧州イベントCasual Connectで、オランダで新しく設立されたゲーム産業分野の投資ファンド「Games On」が発表された。Game Onは世界的に最も成長しているオンライン業界およびモバイルゲーム業界の成長を加速されることを目的とする初期段階の投資ファンド。オランダ経済企業誘致局(NFIA)もオランダへの企業誘致のため、Game Onと共同で外国のゲーム企業を支援する。これは外国のICT企業をオランダに誘致することを目的とした「欧州デジタル・ゲートウェイプロジェクトと適合するもの。他にも10種類くらいのファンドがある。
(1)応用ゲームセンター(Center for Applied Games)
2014年4月、オランダ経済省のヘンク・カンプ経済大臣が世界初の応用ゲーム研究機関をアムステルダムに設立した。ここはシリアスゲームの開発、研究を行う機関で教育・訓練・健康療法等へのゲームの適用を行う企業が集結している。応用ゲームセンターの中でゲーム会社の国際展開を支援し、ゲーム産業の発展に積極的に貢献することが期待される。
(2)オランダ・ゲーム協会 (Dutch Games Assosiation)
2008年10月に設立され、会員企業数は約120.同協会はオランダの各業界や海外のゲーム産業関連機関、国内外の政府機関と協力して、オランダのゲーム産業のために、イノベーション、知識の共有、輸出機会の促進を支援している。
(3)オランダ・ゲーム・ガーデン財団 (Dutch Game Garden)
地方自治体とオランダ政府の支援によって開発されたゲーム産業育成プロジェクトの一環で、主な目的はゲーム開発者育成のためのインキュベーション・ビジネス・センターの運営を通して、オランダのゲーム産業の成長を推進することにある。
オランダではゲーム産業育成に向けて、このように国家が一丸となって支援している。人材育成から、様々な助成金や優遇処置などがある。このような支援を背景に、これからもオランダのゲーム産業は成長していくだろう。日本のゲーム産業はアジアには目を向けることが多いが、欧州の小国オランダにも注目してみてはいかがだろうか。
▼オランダのユトレヒトにあるユトレヒト大学。1636年に設立された名門大学である。
▼東京ゲームショーに出展していた「critical bit」の Sybren Kruizinga氏(右)
同社はオランダ北部のレーウーワーデンにある独立系ゲームデベロッパー。近年はトレーニングと教育ゲームのほか、エンターテインメントゲームにも注力している。
▼東京ゲームショーに出展していた「EXCAMEDIA」
同社は2013年8月に設立されたゲームデベロッパー。現在ユトレヒトのオランダ・ゲーム・ガーデン財団内にオフィスを構えている。
【参考動画】
EXCAMEDIAが開発したゲーム「A Clumsy Adventure」
【参照情報】
・オランダ経済省企業誘致局 駐日代表部
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登録はこちら2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。