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新しい働き方から落ちこぼれることを自覚していない人々

2014.12.13

Updated by Mayumi Tanimoto on December 13, 2014, 09:00 am UTC

数年前から日本では「新しい働き方」なるものが流行しています。

「新しい働き方」というものをまとめるとざっとこんな感じになります。

・ オフィスに縛られない
・ 知識産業中心
・ フレックスタイム制
・ 一つの組織に縛られない
・ 自分で自分の仕事を管理する
・ 年齢や肩書きではなく能力が評価される

従来型のホワイトカラーのサラリーマンの働き方とは随分違います。毎日定時にオフィスに出勤し、在宅勤務や副業は認められず、能力がない上司が年齢が上だというだけで自分より高い給料をもらっていることに憤慨している人には、キラキラした夢の世界が羅列されています。

「新しい働き方」が可能な世界では場所にこだわらずに作業が可能ですし、顧客や同僚に常に対面で会わなくても仕事が可能です。仕事の成果に求められることは高い創造性や明確な成果であり、オフィスにいるかどうか、同僚と良い関係を作ったかどうかではありません。

その様な世界では、少数の高付加価値を産む人達がいれば、大勢が働く人は必要ありません。その様な人々には高い報酬や素晴らしい就労環境を提供して職場に留まってもらう様にします。競合と取り合いになるからです。一方で、高付加価値を産まない人達は、同じベネフィットを享受することはできません。雇う方にそれだけの価値がないからです。付加価値を産み出す能力の違いにより、生活レベルだけではなく、生活のスタイルまで大きく差がつくわけです。

つまり、「新しい働き方」が広がることは、高い付加価値を産み出すかどうかによって、働く人の間で、働き方、子供の人数、配偶者との関係性に差がつくことになります。「普通の夫婦」「普通の家」「普通の仕事」というものは消えるのです。

高付加価値を産み出す人々は、「新しい働き方」の恩恵を受け、より良い生活環境と創造性を手に入れますが、「その他大勢」の生活は悪化する可能性があるのです。しかしながら、多くの人々は、実は「その他大勢」なのにも関わらず、今の所、「新しい働き方」の都合の良い部分しか見ていません。

ノーベル賞経済学者のMichael Spence教授がフォーリンアフェアーズに発表した「Globalization and Unemployment」を読むと良くわかりますが、90年代以後のアメリカでは雇用も賃金も増えたのは金融やソフトウェア産業、コンサルティングなどの知識産業です。しかし、それらの産業で高給を稼ぐ人というのは、かなり専門性の高いスキルを持つ人に限定されています。また仕事の数が増えたといっても、その数が爆発的に増えたわけではありません。知識産業は「新しい働き方」が可能な産業であり、「新しい働き方」をする殆どの人が、知識産業に従事しているのです。

一方で、「新しい働き方」のなかで高付加価値を産み出せないために落ちこぼれてしまった人や、「新しい働き方」が不可能な業界で働く人の実質賃金は下がっているだけではなく、仕事の数自体が減っています。

その理由は、通信技術とグローバル化で、以前よりより多くの業務を新興国に外注できる様になり、新興国がバリューチェーンのより多くの部分に関わってくる様になったからです。これはアメリカだけではなく、他の先進国でも起こっています。

アメリカと同じくこの変化の直撃を受けているイギリスの例をご紹介しましょう。このブログでもご紹介した様に、シティやケンブリッジの通信やITのエンジニア達は、日本のエンジニアよりも遥かに良い給料を稼ぎます。その様なエンジニアの転職を防ぐために、企業は在宅勤務や海外オフィスでの仕事の希望などを柔軟に受け入れ、クリスマスになると盛大なパーティーを会社持ちで開催します。その様な人に転勤を打診する場合、現地での配偶者の仕事まで斡旋することもあります。

その一方で、通信やIT業界の中でも付加価値が低いと判断された人や、ルーティンーン化した事務を処理するサラリーマン、付加価値の低い営業、受付、コールセンター、店屋の店員、ホテル従業員、介護職に従事する人は時間給で雇用されるか、高付加価値人材の何分の一かの年収を受け取ります。しかも仕事はEUや旧植民地からやってくる移民との取り合いです。

イギリスの例が示す様に、「新しい働き方」の恩恵を受けられる人というのは、実は一握りであるということであり、大半の働く人は、この様な変化の中で、より厳しい働き方を強いられて行くわけです。

自己啓発本を熱心に読んでいる様な人や、セミナーに大枚をはたいている様な人は、「その他大勢」だという人にいい加減気がついて、自分の将来をどうにかするための具体的な策を考えるべきでしょう。「会社が在宅勤務を認めない」「労働時間が長過ぎる」と文句を言えるうちはまだ幸せかもしれません。「新しい働き方」が実現している社会でも、付加価値の低い人材にはそんな贅沢は許されていないのです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。