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T-Mobile USの「Un-carrier 8.0」は「パケットくりこし」

2015.02.03

Updated by Hitoshi Sato on February 3, 2015, 19:24 pm JST

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2014年12月、アメリカの通信事業者T-Mobile USが「Un-carrier 8.0」を発表した。「アンキャリア」の名前のごとく、従来の通信事業者からの脱却を目指した施策・サービスの提供で、2013年3月から開始された施策で、ついに8弾目となる。今回の「Un-carrier 8.0」では、前月のデータ未使用分を翌月に繰り越すデータ・ロールオーバー・サービスを発表した。いわゆる「パケットくりこしサービス」である。

2015年1月から提供を開始している。また同社では「パケットくりこし」以外にも、LTEユーザに毎月10Gまで無料で利用できるプランも提供する。

T-Mobile USのJohn Legere CEOは、今回の「パケットくりこし」の提供について以下のように述べている。
「ガソリンスタンドに行って、毎月残っているガソリンを抜き取られるなんて、考えられないでしょう?今までアメリカの通信事業者はお客様からパケット費用を取り過ぎていた。それによってお客様は損していた。これからはもうそういうことはない。今年になってから、"くりこしプラン"の要望はTwitterで4万件以上あって、ようやく導入できた。」

(原文の全文は以下)

"Can you imagine your gas station siphoning unused gas from your car each month? The US wireless industry is even worse," "Americans have been gamed by the carriers into buying huge data plans - all to avoid getting screwed with overage penalties. Only to find out they bought more than they need which is then confiscated by the carrier. For the consumer it's lose, lose." That data is rightfully yours," "And, we're putting an end to this appalling industry practice today. With Data Stash, when you buy additional high-speed data, there's no need to lose what you don't use." "Like every Un-carrier move we make, Data Stash also came from listening to customers," "This year on Twitter, customers asked the carriers to create a program to roll data forward more than 40,000 times. So this isn't rocket science. It's just that we seem to be the only company in this industry that cares enough to listen. That's fine by me."

2015年1月、同社では2014年のポストペイド顧客の純増数が490万人になったと発表した。2014年10月に示した見通しの430万~470万を上回った。通年の顧客全体の純増数は830万だった。2013年は200万人の純増だったから大きく伸びている。

アメリカの4大通信事業者(ベライゾン、AT&T、Sprint、T-Mobile US)の中でも特にT-Mobile USは勢いがある。この勢いを持続するために次から次へとサービスやプランを提供してきている。各社も追随していくことは間違いない。これからもアメリカの通信事業者間での競争は激しさを増すだろう。

【参考動画】T-Mobile USの「Un-carrier 8.0」のテレビ広告

以下に過去にT-Mobile USが提供してきた「Un-carrier プラン」を纏めておく。

「Un-carrier」(2013 年3月提供開始)
アメリカでは2年契約を結んだ他社の顧客がT-Mobile USへ乗り換えようとすると、多額の解約料を請求される。そこで、T-Mobile USは顧客に代わって、この解約料を全額負担するという施策である。つまり、このプランでは契約期間の縛りがないため、顧客は「T-Mobile USのサービスが気に入らなければ、いつでも他社へ乗り換えできる」ということから安心してT-Mobile USで契約ができる。

「Un-carrier 2.0」(2013 年7月提供開始)
月額10ドル(追加料金)で、2年間のうち3回までスマートフォンの買い替えができる「JUMP!」プランの提供。

「Un-carrier 3.0」(2013 年10月提供開始)
100カ国以上で追加料金なしでローミングできる「無制限グローバル・データ通信」の提供。

「Un-carrier 4.0」(2014 年1月提供開始)
T-Mobile USへ乗り換えた他社の顧客が使用中の携帯端末を下取りに出すと、最大で300ドル(他社での契約期間の経過月数により減額)、合計で最大650ドルのキャッシュバック受けることができる。

「Un-carrier 5.0」(2014 年6月提供開始) 「Test Drive」
アメリカでの大人気の「iPhone 5s」を7日間無料貸出。「Test Drive」というサービス名で、T-Mobile USのネットワーク力を試してもらう。端末保証のためにクレジットカード情報を入力する必要があるが、送料などは無料。返却は、宅配便などは受け付けず、最寄りのT-Mobileショップに持っていく必要がある。但し、返却時にディスプレイの破損などの問題があった場合は100ドルの補償料が必要。

「Un-carrier 6.0」(2014 年6月提供開始) 「Music Freedom」
既存のT-Mobile USの顧客を対象に、Pandora、iTunes Radio、Beats Music、Rhapsody、Spotify、Xbox Music、Milk Musicなどアメリカの主要音楽ストリーミングサービスの利用パケット費用を無料とする。T-Mobile USの顧客にデータ通信費用を気にせず音楽を楽しんでもらい、同社に繋ぎ止めることが目的。

「Un-carrier 7.0」(2014 年9月提供開始) 「Wi-Fi Calling」「Wi-Fi Texting」
T-Mobile USの通信ネットワーク(3GやLTE)でなくとも、Wi-Fi(無線LAN)に接続されたところでは、無料で音声通話(Calling)およびショートメッセージ(Texting)が利用できる。

「Un-carrier 8.0」(2015年1月提供開始) 「Data Stash」(パケットくりこし)
未使用のパケット(データ通信)を翌月まで繰り越せる。

【参照情報】
T-Mobile Unveils Data Stash - Now Your Unused Data Rolls Forward
T-Mobile Uncarrier8.0 

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。