アクシオム社CPOに聞く、「データブローカー」事業の実態(後編)
テーマ6:「名簿屋」問題を改めて考える
2015.02.20
Updated by 特集:プライバシーとパーソナルデータ編集部 on February 20, 2015, 15:30 pm JST
テーマ6:「名簿屋」問題を改めて考える
2015.02.20
Updated by 特集:プライバシーとパーソナルデータ編集部 on February 20, 2015, 15:30 pm JST
前編に続き、アクシオム社のジェニファー・バネット・グラスゴーCPO(チーフ・プライバシー・オフィサー)に、「データブローカー」事業の実態と将来展望をうかがった。
──現状のデータ市場は、それぞれのステークホルダー(売り手、買い手、消費者、データブローカー)にとって、適正なものと考えていますか?
グラスゴー:欧米におけるデータビジネスは、プライバシー法ができるよりもずっと前の1970年代に遡ります。当初はDMA、また最近ではDAAを通じて、データが販売される際の倫理基準を発達させてきました。
こうした基準には、たとえばデータを消費者から最初に集める企業が、もしそのデータが他の企業に対しマーケティング目的で販売される場合、消費者に通知し、消費者がオプトアウトできるようにする義務が含まれています。データを購入する企業もすべて、プライバシーポリシーを提示し、オプトアウトを提案しなければならないのです。
──オプトアウト手段を確保することが原則である、ということですね。
グラスゴー:それだけではありません。もし消費者がデータの出所の受け手について問い合わせた場合、企業はそれに答える義務があります。こうした倫理基準は数十年前から存在してきました。最近ではDAAがオンラインおよびモバイルの世界での匿名デジタル広告に関する基準を定めていますね。
これと同様に、透明性(トランスペアレンシー)と選択についての強い関心は、これら基準の中に取り入れられています。こうした規範はステークホルダー、とりわけ消費者、販売者、購入者の各々にとって、有効だと考えています。
──データの適正な売買を推進する上で、データの品質を確保することは重要だと思われます。どのように取り組まれていますか?
グラスゴー:どのような品質が必要なのか、基準を設けて考えることが必要だと思います。一般論としては、データの質はもちろん大事です。しかし、マーケティングやリサーチを目的とする場合と、与信に必要な場合で、データの品質や安全性を同列に論じるべきでしょうか。
もしマーケティングデータが誤っていれば、興味が持てないオファーを受け取るか、気に入ったかもしれないオファーを受け取らずに終わるだけ、ともいえます。一方、与信の場合は、日常生活を送る上での「資格」のようなものですので、重大さは増すはずです。
──セキュリティについても重大な問題ですね。
グラスゴー:セキュリティは一番の課題といえるでしょう。前述の通り、マーケティングデータはなりすまし犯罪に使われる情報を含まないはずですが、それでもデータを盗難から守ることは重要です。ビッグデータの時代が始まり、すべてのデータは保護される必要があります。対象がデータ取引の一部であってもなくても、その重要性は変わりません。
当社の顧客企業には、金融や医療といった規制業種もいて、当社がクライアントのために処理するデータには大変高いセキュリティ基準が適用されます。当社はこれら基準を満たし、それをすべての顧客企業に適用する。この約束が遂行されることは、当社と一緒にビジネスを行うメリットである、と強調したいですね。
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──折しもオバマ政権が法制化に動き出しましたが、こうした課題に関する米国での規制のあり方について、どのようにお考えでしょうか。
グラスゴー:少なくともデータ漏洩に関しては、米国では47州で、被害が起こる可能性があるとき、消費者に通知をするよう定める法があります。連邦レベルの基準ができれば、すべての企業に対する一貫性のある要件となるでしょうね。
──法制化の議論でも「透明性(トランスペアレンシー)」は筆頭格の重要なテーマとして掲げられています。しかしデータブローカーにとっては「言うは易し」の難しいテーマではないでしょうか。
グラスゴー:確かに、透明性は業界にとって最大の課題だと思います。ご指摘の通り、公正取引委員会(FTC)のデータブローカーについてのレポート(PDF)でも認識されていますね。
当社に関して言えば、米国の消費者から直接データを収集しているわけではありません。データは消費者と関係を持つ他の企業から収集している。そのため、我々はこれら企業に対し、データを収集することと、データが第三者にマーケティング目的で共有されることを消費者に通知するよう、依頼しています。
こうしたデータを収集する企業は、私たちアクシオムという会社の名前は、消費者には示さないことが多いです。情報共有する他の企業の存在が影響しているのか、あるいは消費者にオプトアウトの機会を提供する関係なのか、理由は様々でしょう。そこで当社は、データを全部スクリーニングし、実際にサンプルを取って、妥当性を検証します。またこうした企業のプライバシーポリシーを調べ、通知と選択がきちんと提示されているか確認しています。
──様々な努力を自主的に取り組まれているのですね。しかしそれでも、いくつかの欧州の規制当局は、消費者保護の観点からデータブローケレージというビジネスそのものを批判します。こうした意見に対して反論はありますか?
グラスゴー:データブローケレージというビジネスは、欧州でも米国とほとんど同じころから存在しています。欧州諸国のほとんどにダイレクトマーケティング協会があり、EU全域を所轄する団体もあります。
企業が新たな顧客を得る唯一の方法は、まだ顧客でない人々に売り込むことなのは、言うまでもありません。もっとも有効なコストの使い方は、もっとも反応しそうな人々をターゲットにキャンペーンをすることでしょう。だとしたら、企業には見込み客のリストかデータが必要なのです。これこそ多くの企業が大きく成功する方法です。
データブローケレージも、正しい規範があれば、消費者が損害ではなく便益を得ることが可能だと、私たちは考えています。
──機械学習やプロファイリングの台頭によって、パーソナルデータ利用のパラダイムが大きく変わろうとしています。こうした観点から、FacebookやGoogleなど、インターネットの巨大事業者を、どのように感じていますか?
グラスゴー:特に日本を含むアジア太平洋地域でのビジネスにおいて、データを蓄積する意図はいまのところありません。むしろ、プライバシーを守りつつデータがフルに利用されるよう、顧客企業との関係を構築することに主眼を置いています。
アクシオムは独自の価値を提案をしており、Facebook、ツイッター、他の大きなデジタルデータ保有者とともに、パートナーとして、各社のビジネスを強化するための支援を行っています。
──日本は世界有数のモバイル・インターネット市場です。日本での事業プランがあったらお聞かせください。
グラスゴー:アクシオムの強みは、データ・コネクティビリティ(データへのアクセシビリティ)を備え、クライアントが違った環境で異なる用途のためのデータを用意できることにあります。そこにはもちろんモバイルデバイスも含まれています。
私たちは、消費者と企業の1対1のコミュニケーションがデータ主導の戦略においてコアになると理解しています。消費者がPC、モバイル、タブレットなど、どの画面を見ていても企業がリーチできることが必要だと理解しています。
最近の数年間で日本でもデータドリブンビジネスが理解されるようになり、企業が消費者へのリーチを向上させ、相互に反応することが必要だと理解されるようになりましたね。これはグローバル市場で活躍したい企業には特に大事で、アクシオムの役割はそうした企業努力をサポートすることにあると考えています。
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