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税制で貧富格差の拡大を防ぐことはできるか

人と技術と情報の境界面を探る #009

2017.06.19

Updated by Shinya Matsuura on 6月 19, 2017, 07:00 am JST

貧富の格差を放置して良いと思う人はいないだろう。だが、なぜ放置してはいけないのだろうか。

答えは、「貧富格差が拡大すると、社会が荒廃し、さらには経済が回らなくなるから」だ。

富める者と貧しき者の間の格差が大きくなると、2つの社会階層が分離する。食べ物や飲み水の質、居住地域の治安、子弟が受けることのできる教育——すべてが二極分化する。

格差の拡大は同時に社会を「我々とあいつら」に分断する。「あいつらは、我々が手に入れることができない寝床に寝て、手に入れることができない高級車に乗り、手に入れることができない食い物を食べている」という恨みと、「あいつらは、臭くて汚いところに済み、すぐに法を犯し嘘を付く」という軽蔑とが合わせ鏡になり、ひとつの経済体として機能するはずの社会が分断されてしまう。

分断は社会情勢の悪化を招く。悪化につけいる形でポピュリスト政治家が台頭する危険性も増す。まかり間違ってポピュリスト政治家が実権を握れば、対立を激化する政策を進めてますます社会を不安定化することになる。

同時に、あまりに貧富格差がひどくなると、経済が回らなくなる。経済は生産者のみで成立するものではない。生産者と消費者がいてはじめて回る。貧富格差は、少数の富める者と、大多数の貧しい者の分離という形で進行する。ところで、大多数の貧しき者とは、貧困によって消費の可能性を大きく制限された消費者にほかならない。

巨大貧富格差は、マスとしての消費者をやせ細らすのだ。消費者がいなくては、いくら商品を生産しても売れない。すると不況がやってくる。消費は停滞し、経済は成長しなくなる。

貧富格差を示すジニ係数という指数がある。ジニ係数が大きいということは貧富格差が大きいということを意味する。世界各国のジニ係数を比較すると、南米大陸、そしてアフリカ大陸のサハラ砂漠以南の国家が特にジニ係数が大きい。

一人当たりのGDP、つまり国民一人当たりの平均購買力を横軸に、とジニ係数を縦軸にとってグラフ化すると、世界各国はほぼS字型に分布する。

まず、国全体が貧しい状態だと、貧富格差はない。この段階で大きな格差ができてしまうと経済成長ができなくなる。

ここを乗り越えて経済成長を開始した国では、一時的に格差が縮小する。前回のピケティの分析の言葉を借りれば、「一時的に資本収益率を経済成長率が上回る」わけだ。しかし経済的に十分に成熟して先進国の仲間入りをすると、また格差が拡大し始める。「資本収益率が経済成長率を上回る」わけである。

科学技術の進歩は先進国に始まり、途上国へと普及する。AIやロボットなどの科学技術が、ここまでの考察通りに超絶的な貧富格差を発生させるならば、今後先進国では貧富格差が一気に広がって、経済が停滞するということになる。

現実は、これほどきれいに図式化できるような形では進行しないだろう。というのも、各国経済は常に他の国という外部と経済的につながっているからだ。個々の国の内部は均一ではないし、また国と国とも均一ではない。そこには様々な差異があって、差異の持つポテンシャルを使えば様々な抜け道を設定することができる。たとえば国内が貧富の二極分化したとしても、海外に大きな市場があれば、輸出によって貧富格差を維持したまま経済成長することができる。同様に国内にひどい貧富格差があっても有力な天然資源を保有していれば、同じく輸出による経済成長が可能だ。

だが、そんな国が住みよい国かといえば、それは疑問だ。また、外部との通商で経済を回したとしても、貧富格差から生まれる内政の不安定さを改善することはできない。

前回、ピケティによる「資本主義社会において、放置すれば貧富格差は拡大する一方である」とする分析を紹介し、かつピケティの分析に、本連載で解説してきたAIやロボットと言った新技術による巨大貧富格差発生が、そのまま接ぎ木できることを説明した。放置すれば近い将来、巨大な貧富格差が社会を覆い尽くし、人々を分断し、経済を停滞させることになる。

今後とも世界経済を回していくために、また安定した国際関係を維持発展させていくために、なんとしても巨大貧富格差の発生を食い止める必要がある。

ではどうすればいいのか。格差を縮小する方向で社会制度を設計すればいい。具体的には税制である。

税金は、政府が必要な政策を実施するための財源だが、同時に政府が望む方向に国の形を彫琢する機能を併せ持っている。貧富格差を是正したいならば、是正する方向の税制を組めばいい。

例えば所得税の累進課税には、貧富格差を是正する機能がある。固定資産税ををはじめとした資本への課税もそうだし、相続税は世代間に及ぶ長期の貧富格差を是正する手段として使うことができる。2014年における日本の税引き前所得のジニ係数は0.5704だったが、税引き後の実質所得のジニ係数は0.3759だった。つまり現状でも、それだけ税制度によって貧富格差が緩和されているわけである。

ところが、税の累進性を高めることのみにより、貧富格差の拡大を食い止めることができるかといえば、そう簡単ではない。まず、制度には必ず抜け道が存在する。抜け道をふさぐべく規定をを細かくしていけば、今度は税制度の運用が煩雑になり、実際問題として完全な運用が期待できなくなる。そして抜け道は、その時々の社会状況によって変化するので、事前にすべてを予想して抜け道をふさいでおくことはできない。むしろ煩雑な制度が、合法的脱税の根拠になったりする。

バブル経済華やかなりし頃に、堤義明氏率いるコクドグループは、西武鉄道、西武不動産、プリンスホテル、伊豆箱根鉄道などで構成される一大企業グループだったが、法人税をほとんど払っていないことでも有名だった。少女マンガにすら「税金払えよ」と描かれたのだから半端ではない。

銀行からの借入金で事業を起こしたり土地を購入したりして、経常利益を赤字ギリギリの黒字にコントロールし、さらにはグループ企業間の株式の持ち合いによる受取配当金の控除で赤字となるという会計操作をして、合法的に法人税を免れていたのである。堤氏は、持ち株会社のコクドが非上場であることを利用して、相続税を免れる仕組みをも構築していた。

コクドの例はかなり極端だが、制度は精細かつ煩雑になればなるほど、どうしても抜け道が発生するということは押さえておかねばならない。

 


【お詫びと訂正】(6/19 12:30)

公開当初、堤義明氏につきまして、事実誤認により誤って故人と表記しておりました。
ご本人様および、関係者の皆さまに深くお詫び申し上げると共に、訂正いたします。

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松浦晋也(まつうら・しんや)

「自動運転の論点」編集委員。ノンフィクション・ライター。宇宙作家クラブ会員。 1962年東京都出身。日経BP社記者を経て2000年に独立。航空宇宙分野、メカニカル・エンジニアリング、パソコン、通信・放送分野などで執筆活動を行っている。自動車1台、バイク2台、自転車7台の乗り物持ち。

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