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島々が連なる南国に、ある漁師が暮らす島がありました。周辺では不漁続きでしたが、何故かその漁師だけ、大漁に恵まれていました。

漁師は、その島は先祖代々地主から借り受けている島であり、そこで漁をした魚は自分のものだと主張します。地主は、島は自分のものであるから、魚は自分のものであると言い張ります。周辺の島々に暮らす漁師たちは、海はつながっているのだから、魚はみんなのものだと声をあげます。

はてさて、村長の判断は……。


私達がインターネットという大海に漕ぎだし、ビッグデータという漁場を発掘して数年が経過しました。今回の「ビッグデータと知財」というテーマは、私達にとって「そのデータは誰のものか」という古くから議論されているテーマを再確認する場にもなりました。プライバシーの議論にしても、財産という議論にしても、「データの権利は誰に帰属するか」という点を明確にすること、これが出発点になるのではないかという事実を再確認する機会でもあったと思います。

私達の生活が高度にIT化され、あらゆるデバイスがインターネットに接続する”IoT:Internet of Things”の世界はもはや日常になりました。私達は、常にネットに接続し、データを使うだけでなく、自らの情報(=データ)を提供することで、そこに新たなビジネスが生まれています。この状況は、読者の方々も実感として感じ、ここであらためて言うまでもないでしょう。

プライバシーに関する議論がホット・トピックスになった契機は、もちろん個人情報保護法という法制度の存在がありますが、より正確に言うなら、一般の消費者がプライバシーを意識し始めてから、と言えるでしょう。プライバシーは、個人によって異なる「感覚」であるがゆえに、規定したり一般化することが困難です。一方、財産というのは金銭に置き換えることができ、したがってプライバシーと比較して規定しやすいと言えるかもしれません。

人々がそのことに気づいたとき、データの価値に関する議論が一気に加速するのではないか、という予感があります。既に、海外では自らのデータを価値換算し、データを売買するようなサービスも生まれていますし、国内でもポイントサービスビジネスが一般的に行われ、その勢いが衰える気配はありません。

一方で、収集したデータを活用するという段階になると、残念ながら我が国は世界の最先端という状況にはありません。米国などのビッグデータ先進国と比較すると、我が国のビッグデータ活用の現状はコンサバティブであると言わざるを得ないでしょう。そのような危機感漂うなか、2015年10月に国内のIT業界を賑わす発表がありました。総務省と経済産業省の合同プロジェクトである「IoT推進コンソーシアム」の発足です。

本稿執筆時点では、IoT推進コンソーシアムの参加会員は既に1000社に届こうかという勢いで、関心の高さが伺えます。IoT推進コンソーシアムでは、技術開発WG(スマートIoTフォーラム)、先進的モデル事業推進WG(IoT推進ラボ)、専門WG(セキュリティやプライバシーなどのテーマを予定)のWG活動が予定されており、IoT/ビッグデータの世界で世界のトップに躍り出ようという強い意思を感じさせます。今回のテーマについても、IoT推進コンソーシアムのWGで議論されることになるかもしれません。

ビッグデータ時代におけるデータの価値や知的財産としてのデータの議論は、まだ始まったばかりです。故に、私達はまだ何も知らないということを自覚し、法を理解し、消費者と向き合い、ビッグデータという漁場に漕ぎ出す必要があるでしょう。

今回のテーマは非常に興味深く、ワークショップの参加者からも継続を希望する声を多数いただいています。近日中に、第2回のご報告ができるよう企画中です。今後の活動にも是非ご期待ください。

漁師の魚は果たして漁師のものになるのか、ビッグデータという漁場は島々全体を潤す恵みをもたらすことができるのか、皆さんと一緒に答えを見つける旅が始まったのです。

(文・(財)日本情報経済社会推進協会 電子情報利活用研究部 郡司哲也)

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特集:プライバシーとパーソナルデータ

情報通信技術の発展により、生活のあらゆる場面で我々の行動を記録した「パーソナルデータ」をさまざまな事業者が自動的に取得し、蓄積する時代となっています。利用者のプライバシーの確保と、パーソナルデータの特性を生かした「利用者にメリットがある」「公益に資する」有用なアプリケーション・サービスの提供を両立するためのヒントを探ります。(本特集はWirelessWire News編集部と一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の共同企画です)