位置情報

位置情報利活用の現状と課題(1)最新事例にみる位置情報活用の可能性 〜高精度測位と精度保証〜

テーマ12:位置情報とプライバシー

2016.01.29

Updated by 特集:プライバシーとパーソナルデータ編集部 on 1月 29, 2016, 12:00 pm JST

位置情報を活用した情報サービス(LBS:Location Based Service)事業は、携帯電話にGPSが実装されて以来、熱心な開発が行われてきた分野である。特に、ユーザーの現在地を起点とした情報提供は付加価値が高く、スマートフォン普及期以降も地図アプリケーションやグルメ情報の検索など、多くの利用者を抱えるキラーアプリとなっている。その一方で、サービス利用時にプライバシーリスクを感じるユーザーも少なくない。便利さと不安感の間にあることから、参入に慎重な事業者も少なくないはずだが、実空間や実態のあるサービスとユーザーをつなぐ重要なチャネルでもあり、事業機会も大きい。

今回のテーマ「位置情報とプライバシー」では位置情報について研究・リサーチ領域やビジネス領域で位置情報を実際に扱っている東京大学生産技術研究所 准教授の関本義秀氏と、ソフトバンク株式会社 ITサービス開発本部・サービス推進統括部新規事業準備室室長の永瀬淳氏にその実態と展望を伺った。

準天頂衛星「みちびき」の打ち上げ以降、高精度測位が実現しサービスへの適用も進みつつある

──関本先生は学問、永瀬さんは事業と分野は違いますが、モバイルの位置情報を使ったプロジェクトを行っていらっしゃいますね。

ソフトバンク株式会社 ITサービス開発本部・サービス推進統括部新規事業準備室室長の永瀬淳氏

永瀬:はい、当社のLBS事業は、正確に計測した位置情報をビジネスにつなげることを目的に各種実証実験を行っています。弊室の担当業務は新規事業を開発する部署なのですが、現在は高精度測位によるLBS事業への注目は社内でも高くなっています。

フォーカスしている分野は「観光」です。人の流れに注目したプロジェクトとして、準天頂衛星が打ち上がってすぐの、ほぼ受信実験といえるようなフェーズから取り組みがあります。

高精度測位情報の産業活用の一例としてアニメ・ゲームコンテンツを使って、実証実験参加者の皆様に遊んでもらい、高精度測位情報の活用を体験していただくという趣旨で種子島で実験を行いましたが、昨年は箱根で「エヴァンゲリオン」のコンテンツを使って、数万人の動きの分析を実施するところまでに至りました。

マーケティング利用は「アーリーアダプターの行動」をとらえる、行動データのクラスタリングが鍵である

永瀬:ビジネスのトピックとしては「位置情報を使ったマーケティング」です。これまでの情報では、わからなかった情報を活用することで、これまでトレースできなかったアーリーアダプターの動きを捉える動きが可能になるのでは、という仮説を持っています。

具体的にはサービスの利用者の興味関心の遷移が追いかけられることが大きいと考えています。これまでのような、道で人数を数える手法ではこの遷移は追いかけられません。

アーリーアダプターの動きを捕まえるために、どのようにデータを分類(クラスタリング)するかについては前例がないためかなり試行錯誤でした。それも実際の事業を続けているうちに「当たり」と思える手応えも得られるようになってきたというところです。

東京大学生産技術研究所 准教授の関本義秀氏

関本:従来手法よりPDCAが早く試せそうですし、調査の期間やサンプルに偏りがないというのもいいですね。

台湾からニューヨークまで-利用は海外にも波及

永瀬:ありがとうございます。24時間365日のリアルタイムデータが把握できるというのはやはり大きいですね。おもしろかったのは、箱根の事業(アニメ「エヴァンゲリオン」のARアプリ)については海外で一切宣伝や広報活動をおこなっていないのに、ロンドンやニューヨークでも利用されたことです。

もちろん、エヴァンゲリオンなら海外のユーザーの興味を引くだろうという読みはあったのですが、どうやってその情報が伝わっていったかはまだ分析できていません。いずれにせよ、モバイルやWebのサービス情報が伝搬するスピード感には驚かされます。

SNSなども含めた情報伝搬の分析クラスタは実証事業から得られた膨大なデータ分析により進行中ですが、ここを先行できればマーケティングビジネスに新しいインパクトとなるのではないかと思います。

関本:コンテンツの内容ごとに興味の対象が全く異なることが事実として分かるようになるということですね。

永瀬:仮説、仮想的に計算するのではなく、アクションから体系立てて分析することが実際にどういうことかをお話しします。

サービスは、身長80mくらいあるエヴァンゲリオンをARを使ってスマホの中で実物大に再現するというものですが、ユーザーのGPSの情報でARコンテンツとの距離を計算して、見え方等を調整し再現します。例えば、そのサービスの中であえて、温泉や歴史の情報を混ぜて提供してみると、ユーザーの興味関心はエヴァンゲリオンから入るのですがいつのまにか「箱根の温泉」に変化したりして、いつの間にか同時に配信している温泉情報を熱心に見ている、という状態になります。(参考情報:ソフトバンク社IR資料より-技術説明

▼ARマーカーのある方向にスマホを向けるとエヴァンゲリオンが実物大に表示される。見え方はユーザーの位置情報を元にARマーカーとの距離・角度を算出して決定する。「箱根補完計画 ARスタンプラリー」は当初2015年3月末までを予定していたが、期間を延長して継続中だ。((c)カラー)
ARマーカーのある方向にスマホを向けるとエヴァンゲリオンが実物大に表示される(c)カラー

スマートフォンでのGPS測位に補正をかけて精度の高いサービスを実現

──難しかったことはありますか?

永瀬:先行した種子島での実証実験は410名くらいが対象だったので、精度の高い位置情報を受け取るための(準天頂衛星の)測位情報を受信する端末を貸出配布できたのですが、この箱根の事業では数万人(後半)の動員規模のために、対応端末の貸出配布は不可能で、参加者ご本人のスマートフォンでの測位とならざるを得なかったことが大変でした。

スマートフォンから上がってくるGPSやWiFiによる精度保証のない位置データを補正するために電子基準点で準天頂衛星からの高精度測位情報結果を補正係数として算出し、擬似的に準天頂測位のデータといえるものに置き換えてから、サービス提供を行うというかたちにしました。

また、精度保証のないデータでも数万〜数10万の単位のデータというのは統計上無視できない意味のある情報であるというのも、実施して体感したことです。

位置情報の産業利用へは精度保証のフレームワーク構築が求められる

永瀬:位置情報の産業利用の観点では、B2B利用への課題を感じました。今回のようにエンターテインメント分野でB2C、B2B2Cのモデルであれば、精度保証のない位置情報でもここまでの規模で実施できますが、B2Bとなるとセキュリティのハードルが越えられないのではないかと思います。

情報の「確からしさ」が保証されない“ベストエフォート”の測位では、事業者がSLA(サービス品質の保証)を設定できないことが参入障壁になっているのではないでしょうか。精度の保証のフレームワークの検討が必要だと思います。

B2B事業が安心してできる事業環境になると、ビジネスとしてこの領域がもっと盛り上がるのではないでしょうか。技術ができているのに、事業環境が整わないのはもったいないと思います。

東京大学生産技術研究所 准教授の関本義秀氏とソフトバンク株式会社 ITサービス開発本部・サービス推進統括部新規事業準備室室長の永瀬淳氏

──10万人規模というのはすごいことだと思いますが、この中で海外のユーザーはどのくらいいるのですか?

永瀬:個人情報は集めていないので、アクセス端末の言語設定からの分析ですが、全体で10%くらいが海外からのアクセスで、その中心はアジアからのようです。特に台湾の方が多かったです。

関本:海外ユーザーへのサービス提供では準天頂衛星の情報は利用されていないのでしょうか。

永瀬:海外ユーザーを含む、自分の端末でサービスを利用するユーザーに対しては準天頂衛星の位置情報の直接的な利用はありません。GPS等でユーザーの位置情報を受け取っています。弊社サイドでデータ補正をするときに、準天頂衛星の測位情報から得られた補正係数を使っています。電子基準点で補正係数を計算させる際にはcm級の精度で補正を行っています。コンテンツをスマホ上に表示する際には、「エヴァンゲリオン」の立ち位置やその角度にも反映しています。

(2)位置情報の利用に対するユーザーの意識差」に続く

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特集:プライバシーとパーソナルデータ

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