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抱きしめて、キスして、思いが伝わるぬいぐるみ「Comi Kuma」 KDDI未来研究所が開発

2016.03.29

Updated by Asako Itagaki on March 29, 2016, 19:21 pm JST

KDDIは、KDDI研究所のオープンラボ型プロジェクト「au未来研究所」発のコンセプトモデル第2弾として、ぬいぐるみ型コミュニケーションツール「Comi Kuma(コミクマ)」を発表した。

コミクマは、なでたり抱きしめたりすることで、スタンプのやりとりができるぬいぐるみ型のIoTコミュニケーションツール。Bluetooth通信モジュールとタッチセンサー(感圧センサー)やキスセンサー(二酸化炭素センサー)など12のセンサーが内蔵されている。頭をなでる、キスをする、手をにぎる、抱きしめる、くすぐるなどの、くまに対する動作を関知し、Bluetoothで接続されたスマートフォンを通して11種類のスタンプから動きにあったスタンプを送信する。受信したスタンプは首のリボン部分に設置されたディスプレイに表示される。これによって、スマートフォンを使い慣れていない高齢者や子供でもぬいぐるみを使って簡単にスタンプを送り合うことができる。

▼Comi-Kuma

▼受信したスタンプが表示される

▼コミクマには12のセンサーが内蔵されており、動作を検知

「BE PLAYABLE」(面倒なもの、嫌なもの、億劫なものを「遊び化」しよう)というコンセプトの元開催された第2弾ハッカソンでは、コミクマも含めて5個のプロトタイプが完成した。当初コミクマは「恋人と喧嘩した時、なかなか言葉で謝れない。そんな時にコミュニケーションしやすくするためのデバイス」を想定して出されたアイデアだったが、ハッカソンメンバー間で検討していく過程でコアターゲットをシニアに設定。「離れて暮らすおじいちゃん、おばあちゃんと孫のコミュニケーションをより豊かにする」という方向でコンセプトをブラッシュアップしてきた。メッセージをスタンプに限定したのは、元のコンセプトである「言葉でコミュニケーションしづらい時に、ノンバーバルな手段で伝えにくい思いを伝える、というコンセプトにこだわったから」(KDDI株式会社宣伝部担当部長 塚本陽一氏)だという。

コミクマを通して電話など直接コミュニケーションも促進

開発にあたり2016年1月23日から1月29日まで、秋田県南秋田郡五城目町でユーザートライアルを実施。同町で暮らす祖父母と離れて暮らす孫がコミクマを利用した。6日間の利用期間の最終日には、1日200回近くコミクマでスタンプをやりとりし、さらにコミクマをきっかけとして、電話などの直接的なコミュニケーションの機会が増えた。対物コミュニケーションによって、対人コミュニケーションも同時に促進される「デュアルコミュニケーションモデル」の効果が実証されたとしている。

五城目町まちづくり課の澤田石清樹課長からは、利用者からの反響として、「コミクマがあると、離れていても同じ家にいるような錯覚がある」という声や、子供がコミクマを遊び相手のように思い、なかなか返してくれなかったというエピソードが紹介された。同町の渡邉彦兵衛町長からは、ビデオレターで「(コミクマを通して孫と)日常の挨拶ができるだけで高齢者が元気になり、高齢者が元気になると街が活気づく」「製品化されたら全町民への導入サポートをしたいという妄想をしている」とメッセージが寄せられた。

「心と心がつながるコミュニケーション」を支援するという使命感

デモンストレーションを体験した安めぐみさんは「普通のくまのぬいぐるみにみえるが、ぬいぐるみを通してコミュニケーションができることに驚きました。触ってメッセージがやりとりできるのがうれしい」と感想を述べていた。

▼1才の娘の母でもある安さんは、「もし発売されたら娘がかわいくてたまらない主人はロケの時も肌身離さず持ち歩くでしょうね」と想像していた。

脳科学者の中野信子氏は、コミクマを「子供の脳は行間を読むようにはできていないので、言葉ですべての感情を伝えるのは難しい。ノンバーバルコミュニケーションがそのまま伝わるものを開発したのはすごい」と評価。またハーロウのアカゲザルの実験(※)の例を挙げて幼児期の接触コミュニケーションの重要性についても言及し、「コミュニケーションツールの枠を超えて、教育ツールとしても使える可能性が広がるデバイス」とした。

コミクマの具体的な商品化プランや、発売時期は未定。とはいえ、今後の展望として、塚本氏は、当初想定されていた恋人や夫婦、家族など、さまざまな関係でのノンバーバルコミュニケーションにコミクマの活用シーンを広げていきたいとする。「今までKDDIは通信事業者としてエリアを整備し、物理的にネットワークを整備してきたが、その上で人々が気持ちのいいコミュニケーションができるかというのは別の問題。我々は、心と心がつながるコミュニケーションをサポートするデバイスやサービスを作るという使命感をもって邁進していきたい」とした。

▼発表会にはハッカソンメンバーも登壇。コミクマに対する思いを語った。

【報道発表資料】
抱きしめるだけで、想いが伝わるぬいぐるみ「Comi Kuma (コミクマ)」を開発

※ハーロウのアカゲザルの実験
心理学者のハーロウが行った実験。生後間もないアカゲザルを2つのグループに分けて針金製と布製の人形(代理母親)を用意した部屋に入れ、一方のグループには布製の人形から、もう一方のグループには針金製の人形から授乳したところ、どちらのグループも子ザルは布製の人形を好んだ。このことから、やわらかい手触りは子供の安心感には重要であることが示された。(参考:「赤ちゃんと養育者との絆」金沢学院大学国際文化学科

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。