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ザハ女史と落ちぶれ国家日本

Haha Hadid and fall of Japan

2016.04.14

Updated by Mayumi Tanimoto on 4月 14, 2016, 07:00 am JST

大原様

さて今回は「クール・ジャパンを超えて」(クルウジャパン)ネタに戻りましょうとのことで、先般 亡くなった建築家のザハ・ハディドさんのお話です。

ワタクシ個人としては、ザハ女史がフラッシュゴードンの悪人に見える上、大宇宙に漂うマクー空間を地球に作ってしまったことで大変な 親しみを感じており、セガール先生にポロニウムを盛られたんじゃないかと心配していました。追悼の意の意味で、宮内洋氏演じる 宇宙刑事アランを横に並べてコラを作って眺めておりますが、宮内氏を見ていますと東映スパイダーマンの動画に手が伸びてしまい仕事がはかどりません。

イギリスでザハさんは、そして彼女のように頭もよくカネも持っている、異文化を背景にした人たちはどういう扱いを受けているのでしょうか?

というご質問でありますが、イギリスの一般庶民的には「バカ高い建物に銭を出してくれる金持ちに取り入るのがうまいババア」という評価でございました。しかし、これはあくまで一般庶民的見方であって、知識階級や建築業界に詳しい人の意見ではありません。

一般庶民がザハ女史のマクー空間便器建築に反発していた理由は、リビア、イラク、ロシア、カタール、中国、アゼルバイジャンなど、金色のランボルギーニにお乗りになる新興成金国家が、あの様式が大好きだったのが理由の一つでもあります。(ところで国連の高官は駐車違反料金を踏み倒しますが、新興成金の皆様は銭がありあまっているので、ランボルギーニはロンドンやパリの好きなところに停め、駐車違反の罰金を駐車料金代わりに払って去っていくのです)

一般庶民にとって、円形のドーム、コンクリ打ちっぱなし、斜め、四角、鉄とガラス、銀色、という周囲の景観も保温も使い勝手も無視したマクー様式のビルは、マクー空間を支配する悪の帝国同様、「俺は偉い」「俺は銭がある」「俺はデカイ」の象徴でありました。

The Spectator誌で、ジャーナリストであるHarry Mount氏は「ザハ女史は私の16年に渡るジャーナリスト生活の中で、最も無礼な取材対象者だった」と凄まじいDisりぶりです。

インタビューではオフィスで一時間も待たされた上に、別の日にアレンジするということもいわず、さらにインタビューは勝手に二回も日時が変更され、そういう変更をやったのは、彼女の礼儀正しいアシスタントだった。

やっと会えた時、彼女は謝罪もせず、なぜオフィスで待たせたのかも回答しなかった。彼女は甘やかされて、機嫌が悪く、ユーモアのセンスがなく、特権があって、即座に命令に従わせて、そういう命令が創りだす問題を気にかけない中世の女王の様だった。

死人は批判しちゃならぬ、などということはイギリス人には通用しません。なにせサッチャー女史が死んだ時には、サッチャー人形を燃やして魔女狩り祭りをやり、新聞も雑誌も「死んでめでたい」という祭になった国です。ザハ女史の態度は、なんとなくサッチャー女史にも似ている感じがしますが、男だらけ、白人だらけの建築業界でやっていくには、そういう強い態度が必要だったのかもしれません。イギリスの保守的な業界というのは、日本同様にマッチョな世界です。

Harry Mount氏はザハ女史の建築も批判しています。例えばオリンピック会場に建てられた水泳会場であるthe Aquatics Centre に関しては、確かに美しいビルだが、外側が円形で、いつもの「ザハデザイン」に過ぎず、中はすっからかんで何の工夫もない。建物は見た目だけじゃなく中身だって大事なんだじゃないか?と述べています。

 

By EG Focus [CC BY 2.0] via Wikimedia Commons

 

By Alexander Kachkaev [CC BY 2.0 ] via Wikimedia Commons

確かにこのセンター、外はマクー空間ですが、中は単なる体育館というか、その辺の市民プールです。ザハ女史の建築は、地域の特性や周囲の景観との融合を無視して、どんな土地にも無機質な、似たようなデザインを建てる、と批判されていますが、この水泳場も全く同じです。

オリンピック会場の一歩外に出ると、そこは修羅の国ストラトフォードです。ひび割れた道路、くたびれたビル、場末のパブが並び、殺伐とした終末感が漂っています。この駅周辺は夕方暗くなってからは歩くな、と言われている地域で、ここに臨時事務所がある会社の中には、夕方6時以後の訪問を禁止したところもあるほどです。

なぜかというと、駅周辺で刺殺や携帯の強奪などがあるからです。オリンピックの再開発でだいぶ良くなりましたが、それでも、オリンピック会場横のショッピングセンターでは刺殺事件(しかもラッシュアワーの時)があったり、スリがあったりという状況です。そんな修羅の国状況のところに、あの無機質で未来的で高価なザハ建築がドカンと建っているのです。そんな建物よりも警備と犯罪者の逮捕に銭使えと吠えている一般民は少なくありません。

さらにイギリスだけではなく欧州というのは、特に一般住宅を立てたり改築する場合の規制が大変厳しく、車庫をちょっと改装したり、居間を建て増しするのにも自治体の許可があります。その規制は思いの他厳しく、特に重要視されるのは、周囲の景観と合うかどうかです。壁の色から使う素材、大きさ、雰囲気まで審査され、突出することは許されません。

ですから一般住宅地にザハ建築のような建物を建てることはかなり難しいのです。そんなものが建つと、周辺の住宅の価格が下がってしまいます。住宅は投資なので、転売して利ざやを稼いでる人、年金代わりの人が大量にいます。価格低下は死活問題です。

欧州の人々は景観に関して 大変保守的なので、中世風の建物、19世紀の景観そのままの壁などを好みます。ザハ女史は、ロンドンに1960年代に建てられたRobin Hood Gardensという公営住宅を絶賛していましたが、このスターリン様式の急ごしらえのビルは、長年イギリス人の憎悪の対象でした。

By stevecadman (Flickrtik hartua) [CC BY-SA 2.0 ], via Wikimedia Commons

ザハ様式を嫌悪する欧州保守層というのは、王室や権力を持った人間だけではなく、庶民にまで及んでいます。こういう保守性が、欧州でアメリカの様なスタートアップが生まれない理由であり、お台場やヒカリエの様な空間が存在しない理由です。

日本は最初の案でザハ案を採用して保守層の人々に「成金新興国の感覚。ダッセー!!!」とバカにされ、その次には「デザインパクって訴えられました、聖火台がないみたいよ、木の椅子で平気なの、ロゴとか制服もパクリだったみたいよ」とリベラル層にも笑われました。

「やっぱあそこってDQN国家だわwwwwww WTF lol lol lol」(WTF=『何ぞそれ、おかしくね、基地外じゃね?』。lol=wwwwwww)」

と笑われた日本ですが、オリンピックの顛末をみると、没落国家イギリスに近くなっており大変うれしく思います(ちなみに2012年のロンドンオリンピックの顛末はこのへんとかこのへんとかこのへんとかこのへんをご参照下さい)。その狂いを極めていただきたいと思っておりますので、開会式では下衆の極み乙武氏の誕生会に参加した皆様で電動神輿に乗って脳科学的考察と待機児童問題について熱く語っていただき、チケットを買うにはツタヤポイントの登録とマイナンバー取得必須という仕組みにすると、様々なツッコミが入り、更に盛り上がるのではないかと思われます。

ところで大原様、この様に狂い具合が香ばしい日本ですが、その狂い方があるからこそ、海外では日本という国の発信するコンテンツが異彩を放っており、人気だという側面もあると思われますが、いかが思われますでしょうか?

例えばその代表の一つはアメリカのThe Late Show with Stephen Colbertにも登場したBabyMetalです。BabyMetalは最近ロンドンのウェンブリーアリーナでのショーが大盛況で、イギリスのみならず欧州や他の地域からもファンが遠征し、日本のメタル界の夜明けの様な状況になったのです。

アキバでヲタ芸打ってるとしか思えないスウェーデンの男性、家中がハローキティで囲われていると思われるイタリア人女子が、日本語でギミチョコギミチョコと叫んでいる光景。彼らの日本語熱は日本政府に強制されたものでも、補助金をもらってるからやってるわけでもありません。日本語で歌う一方で開演前にはAC/DCでヘドバンしている。

BabyMetalは欧州の地上波でもラジオでもほとんど流れず、最近までは雑誌にすら登場しておりませんでした。一方で、動画サイトには彼女たちの動画が溢れていると同時に、同じ動画を見た人々が楽しんでいるのは、日本のアイドルやアニメなのです。盗作が得意な某オリンピックロゴデザイナーのように、仲間内で仕事を回転させていたわけでもありません。こういうコンテンツの人気は作られたものではないのです。

かつてラウドネスやEZOといった日本のメタルバンドは、ほぼ完璧な英語、凄まじいテクで本場の市場に挑みました。しかしウェンブリーアリーナを埋めるには至らなかったのです。一方で、「本場」で熱狂的に迎えられているのが、メタルとアイドルの融合という、日本でしか生まれなかったコンテンツです。ザハ様式を嫌悪する欧州保守層であったら、こんなコンテンツは思いつかないでしょう。

「本場」のセクシー女子たちに比べると、BabyMetalのメンバー達は遥かに小柄で若く弱い存在です。しかし彼女達の一生懸命さに、世界中のヲタ芸男とブラゴリラ女子が熱狂します。中間層の実質賃金は下がり、正規雇用の仕事が減る一方で、富はトップ1%に集中しています。福祉は削減され、福祉国家と言われていた北欧でさえ資産がなければリッチになれない現実。新興国や「資本主義が正義」な北米やイギリスだと、資産の有無はもっと残酷に人生の先行きを決定します。

教育費は高騰しますが、資産も地縁も血縁もない中間層には、そんな費用を負担することはできず、子供達はおいしい仕事を振ってくれる「お友達サークル」に入れてもらうことはできません。そういう中間層は、一生、スポーツ用品店で靴下やジャージを売って暮らし、意識的には中間層でも、生活レベルは下層民なのです。

疲れている人々は、一生懸命に歌い踊る少女達に自分達を投影し、メタルの疾走感に身を委ねている間だけは、自分は一生家を買えないことも、靴下を売る店員であることも忘れます。

こういう現実に日本のコンテンツが世界で輝くヒントがあるように思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
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連載企画「往復書簡・クールジャパンを超えて」は、マガジン航[kɔː]とWirelessWire Newsの共同企画です。マガジン航側では大原ケイさんが、WirelessWire News側では谷本真由美さんが執筆し、月に数回のペースで往復書簡を交わします。[編集部より]

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。