セントケア・ホールディング株式会社 執行役員 岡本茂雄氏(前編)開発者が現場に入ることでイノベーションが生まれる
ヒトとモノを巡る冒険 #002
2016.08.29
Updated by 特集:ヒトとモノを巡る冒険 on August 29, 2016, 11:48 am JST Sponsored by ユニアデックス株式会社
ヒトとモノを巡る冒険 #002
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「モノ」「ヒト」「サービス」の3つの分野で先進的な取り組みをされている企業様へのインタビューを通し、IoTがもたらす未来とそこまでの道筋を描きだすことに挑戦する本特集『ヒトとモノを巡る冒険』。第2回目は総合的なヘルスケアサービス事業で先進的な取り組みをされているセントケア・ホールディング株式会社 執行役員/医療企画本部本部長の岡本茂雄氏に、ユニアデックス株式会社 山平哲也が、お話をうかがいました。(構成:WirelessWire News編集部)
山平:セントケア・ホールディングさんの取り組みやこれまでの活動の内容をご紹介頂けますか。
岡本:日本において介護というのは絶対量が足りなかったので、当社も含めて日本全体が、量を調達しようとしてきました。ところがこの為に、「お世話する」介護となっていました。
これからは、団塊の世代が要介護者になっていきます。高齢者自身が、意見を持って活動する時代。高齢者自身やご家族の負担を軽減し、生きる意味や価値を大切にする、「お世話する介護」から「自立を支援する介護」に変えていきましょうという方向性で動き始め、3年ほど経ちました。
当社は昭和58年に創業し、現在33年目です。企業というのは30年経つと98%以上が消えていくというデータがあります。30年を生き延びた我々が、次の30年をどう生き残るのか、戦略を描いて動き出したのが、まさに3年ほど前です。
山平:御社の考えているイノベーションとは何を目指し、どのような課題に取り組むものなのでしょうか。
岡本:当社の医療企画本部は、人数はそんなに多くないですが、イノベーションを担当する本部です。
システム会社から色々ご提案を頂く中で、介護の現場に本当に必要なものを作るには、ただお任せするのではなく、我々が動き、提案をし、その中で開発して頂かなくてはならない、そうでなければイノベーションは起こらないと痛感しました。
これからの事業において、重要だな、と絞り込んだ分野が3つあります。ひとつは「ロボット」。2つめは「人工知能」。それから3つめは、工学的な技術開発ではないですが「医学の進化」。「生活医療」という言葉がありますけれども、医学が進化した結果、生活医療になっていく。これを取り入れていきましょうということで、この3つの分野にフォーカスしました。
岡本:まず、ひとつめはロボット。ロボットのいいところは何かといえば、既存技術の集大成で新規の技術がそんなにいらない。もうひとつ、ロボット事業に「日本」が適している理由は、ユーザー層、つまり多くの高齢者と、介護現場で働く側双方が共に、識字率も高いというところにあります。
日本では、ほとんどの方は日本語が喋れるし、漢字が書けます。こんなにユーザーと介護現場で働く側のレベルが高い国はありません。ロボットを利用するには、使い方の説明やボタンの文字を読み取るなど、言語の介在が不可欠ですから、そのような状況から、日本でロボットはいけるんじゃないかと考えました。
山平:御社のニュースなど拝見すると、クラリオン様と合弁会社を設立されてロボット事業に取り組まれていますが、きっかけと狙いをおうかがいできますか。
岡本:介護分野、ヘルスケアというのは、イノベーションを起こしていかないと解決が出来ないことは多いのですが、イノベーションというものは、社会全体の中で検討しなければなりません。我々にはクラリオン様のようにモノを作る能力は無いし、あるいはユニアデックス様のようにシステムを組める能力はありません。無い時にどうするかといえば、同じ志を持った企業と組むわけです。
実際にモノを作る工学博士やシステム会社は、現場をみる機会があまり多くないかもしれません。例えば介護現場では、「介護者が重い」という課題に対して、単純に「パワーアシストする」という解が出てくる。それではダメですね。
なぜかというと、介護現場は狭いですし、大きなモノは設置できませんし、「抱え上げる」という動作には重心の移動という視点が不可欠だからです。また介護される側としては、完全に体を任せてしまうより、少しでも自分の体でコントロールすることで怖さを軽減できるのです。このようなことは現場に行かなければ分かりません。つまり、開発現場が介護現場のニーズをうまく汲み取れていないことが大きなミスマッチを起こしてしまう原因なのです。
そこで各メーカーに声をかけ、我々と一緒に商品コンセプトを作る研究会を4年前に始めました。研究会のメンバーにはぜひ現場に入ってもらいたいとお願いをしました。そうした中で、参画されたのがクラリオン様をはじめとした数社でした。
山平:ものづくりする人も、現場に出てきて、なにが起こっているかを見て、考えてください、ということですね。
岡本:そうやって工学博士たちが介護現場に入るようになると、今度は我々の見えていなかったものが見えてくるので、面白いです。共同研究を進めるうえで重要なのは、会議で話し合うだけなく、現場の実態がわかった上で、何が必要かを議論することだと思います。
岡本:最初にアイディアを思いついたのは服薬管理です。ちなみに、うちの介護現場で高齢者の人は、1日何剤くらい飲んでいると思いますか?
山平:どうでしょう。ちょっと見当がつきませんね。
岡本:6剤を飲むのが普通で、一番多い人になると24剤。(あくまでも想定ですが)
山平:そんなにたくさん飲む方もいるのですか。
岡本:しかも薬によって朝食前、朝食後、夕食後など、飲む時間が違います。だから、きちんと飲むことが難しいわけです。結果どうなるかというと、時間通りに飲めなかった薬は、捨てられています。せっかく処方されたものが飲まずに捨てられる、あるいは飲んでも効果がないということになっています。
このような状況を踏まえ、我々は、処方された薬をきちんと飲めるようにできないかと考え、医者とも相談してみたところ、服薬というのは、非常に慎重に扱わなければいけないもので、リスクが大きいことがわかりました。薬は大量に摂取すると毒にもなることがあります。そこで、「飲み忘れを防ぐ」だけではなく、「飲み過ぎを防ぐ」機能も含めて開発しようと考えました。
このことを研究会で話したところ、クラリオン様から「一緒に作りましょう」と声をかけていただきました。それから、製品開発がはじまりました。最初、クラリオン様が製品の仕様書を持ってきていただき、仕組みの説明を聞きましたが、正直、介護現場で使っているイメージができませんでした。「介護現場で働くスタッフに使えるか、使えないか、判断してもらうためには、試作機を作ってきてほしい」とお願いをしました。数か月後に、実際に試作機を持ってきていただきました。
▼服薬支援ロボ
▼服薬支援ロボ画面イメージ
山平:実際に動くモノを作ってきたのですか?
岡本:そうなんです。それを実際に現場で使ってもらい、介護現場のスタッフからのフィードバックを得て、改良を加えていきました。開発から約1年で服薬支援ロボが出来上がりました。
でもロボットというのは、モノ単体だけでは機能はしません。重要なのは、その使い方やそれに合わせた業務改善です。そういうことを含めて提供するのが「ロボット」なんです。ではそんなことが出来る販売会社があるか、と探したけれども、無い。そこで、クラリオン様と弊社とで、介護ロボットの企画・販売する会社「ケアボット株式会社」を設立しました。(平成26年10月)
ロボットについては、次なる開発、次なるテーマに取りかかるため、研究を進めています。
(後編に続く)
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登録はこちらユニアデックスは、IoTで新たな価値を創造すべくさまざまな取り組みを進めています。本特集では、エクセレントサービス創⽣生本部 プロダクト&サービス部 IoT ビジネス開発室⻑である山平哲也が、「モノ」「ヒト」「サービス」の 3 つの分野で先進的な取り組みをされている企業様へのインタビューを通し、IoTがもたらす未来と、そこへ至る道筋を描きだすことに挑戦します。(提供:ユニアデックス株式会社)