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ちょうど1年ほどまえにNHKの「スーパープレゼンテーション」という番組(TEDカンファレンスでの講演をキューレーションして紹介するもの)で、コンピュータに画像に写った対象を認識させることに成功した女性研究者の話が放映されていた。この研究者がいまトヨタ自動車(以下、トヨタ)の自動運転技術の開発に力を貸しているという話を紹介する。

オバマ米大統領主催の「フロンティア・カンファレンス」

先週(米国時間13日)、バラク・オバマ米大統領の主催で「フロンティア・カンファレンス(White House Frontiers Conference)」というシンポジウムが開催されていた(開催地はピッツバーグ市で地元のカーネギーメロン大とピッツバーグ大が協賛)。今後50年以上先の未来を視野に入れながら「米国社会は科学、テクノロジー、イノベーションなどとこれからどう付き合っていくべきか」について考えるきっかけづくりといった趣旨の集まりだったそうで、またこの開催に合わせて米政府が先端科学分野の研究資金として3億ドルの予算を投じる計画が発表されたり、ホワイトハウスから「人工知能の未来」についてのレポートが発表されたり、あるいはオバマが自らゲスト編集長をかって出たWIRED誌の特集記事(オバマと伊藤穰一MITメディアラボ所長との対談)が公開されたりと、主催者側の力の入れようを感じさせるニュースもいくつか流れていた。

コンピュータに写真の見分け方を教えたあの人

ところで、このカンファレンスの一部として行われた「AIの課題(Challenge of AI)」というパネルディスカッションに、フェイフェイ・リー(Fei-Fei Li)という研究者がパネリストとして参加していた。フロンティア・カンファレンスのウェブサイトにあるリーのプロフィールには下記のような情報が載っている。

・スタンフォード大学コンピュータサイエンス(学部)准教授
・同大学人工知能研究所所長
・同大学コンピュータビジョン研究所所長
・同大学トヨタAI研究センター所長

これを見て、トヨタが今年初めに発表していた米TRI(Toyota Research Institute)のアドバイザリー・ボードのメンバーのなかにリーの名前があったのを思い出した。

さらに検索してみると同氏がTEDで行なっていた講演の動画が見つかった。動画のなかで、同氏は自身の業績のひとつとされるImageNetプロジェクトの話などに触れている。


(字幕のなかには日本語のものもある)

歩行者などの動きを予測するための画像認識技術

トヨタは昨年9月に、スタンフォード大およびMITとAI関連分野の研究で提携し、両大学に5年間で5000万ドルの研究資金を提供すると発表していたが、この提携でスタンフォードに設けられたのが上記のAI研究センター(SAIL-Toyota Center for AI Research称)。リーはその所長として2500万ドルの予算を預かりながら、自動運転車の目および脳となる技術の研究開発などを進めているという話が今年6月に公開されていたTechnology Review(TR)の記事に載っている。

この記事中には、リーが上記の動画中で説明しているような画像認識技術などを応用しながら、スマートフォンの画面を眺める歩行者や道端ででキャッチボールをする子供たちを自動車が識別できるようにコンピュータを訓練しているといった説明がある。また、道の曲がり角で道路を横切ろうとして自動車のドライバーとアイコンタクトする歩行者と、スマートフォンの画面を見下ろしながら、ヘッドフォンをして音楽を聴いている歩行者とを区別できるようにすることが研究の目標という一節もある。人間なら「あうんの呼吸」でできそうなことが、コンピュータにはまだむずかしいーーー人間もスマートフォンもそれぞれ識別できるけれど、それらが組み合わさった場合に生じる意味を推しはかり、それに基づいて反応する(減速する、距離を開ける、など)ことはコンピュータは苦手なのかもしれない。

なお同記事には、TRI責任者のギル・プラットやリーらが他の自動車メーカーなどに対して、自動運転車に関するデータを共有するよう呼びかけているものの、保有するデータ量でトヨタに勝る他社はなかなか手放したがらないだろうといった指摘もある。ImageNetプロジェクトではネット上に存在していた画像とクラウドソーシングを利用するという名案を思いついたリーだが、今度はどんな妙案を思いつけるのか。今後の動きに注目していきたい。

【参照情報】
White House to award $300M in new initiatives at Pittsburgh conference - Pittsburgh Post-Gazette
The Administration’s Report on the Future of Artificial Intelligence - White House
FACT SHEET: Harnessing the Possibilities of Science, Technology, and Innovation - White House
Fei-Fei Li - Frontier Conference
Toyota Makes a U-Turn on Autonomous Cars - Technology Review
Two Million Miles Closer to a Fully Autonomous Future - NewCo.(Medium)
コンピュータが写真を理解するようになるまで - TED
人工知能研究新会社Toyota Research Institute, Inc.(TRI)の体制および進捗状況を公表 - トヨタ自動車

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坂和 敏

オンラインニュース編集者。慶應義塾大学文学部卒。大手流通企業で社会人生活をスタート、その後複数のネット系ベンチャーの創業などに関わった後、現在はオンラインニュース編集者。関心の対象は、日本の社会と産業、テクノロジーと経済・社会の変化、メディア(コンテンツ)ビジネス全般。