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AI時代の福祉とは何か?

Social Welfare for AI era

2016.12.22

Updated by Mayumi Tanimoto on 12月 22, 2016, 11:41 am JST

AIの台頭により人間が仕事を失う、という意見が幅を効かせる一方で、脳科学の研究者の中には、現在のAIはそこまで洗練されていないので、心配する必要はないという人もいます。(ちなみに筆者がロンドンでインタビューした研究者の多くは後者)

AIがどの程度進化するのか、そしてその進化はどの程度のものになるのかはわからないわけですが、しかしながら、ホワイトカラーの仕事の少なからずは機械化が進むことは目に見えています。もしくは、情報システムがより洗練され、より賃金の安い地域に仕事が流れていく。

そうなった場合、教育レベルはそこそこ高いが仕事がないという人が増えていきます。

技術の進展による社会構造の変化は、単に産業界に影響があるだけではなく、雇用問題、さらには、国としてのあり方にも関わってきます。夜警国家型になっていくべきなのか、欧州北部の高い福祉国家を目指すのか、ハイブリッド型か、それとも国家という形自体が古いのか。最近ホワイトハウスは Artificial Intelligence, Automation, and the Future という報告書を発表しましたが、その中で、アメリカ政府は、AIの進歩による社会変化は政策問題として真剣に議論していくべきだと主張しています。

技術の進展に関する政策論を発表する国はありますが、その多くは、規制対応策等目先の戦術に留まっているのみで、この報告書のように、国家のあり方にまで踏み込んだ政策論として語っているものは珍しいです。つまり、アメリカはそこまで真剣に考えているということです。

この報告書は、AIによる社会変化を、19世紀と20世紀におきた変化を比較しています。19世紀の産業革命では、高技能労働者に比べると、非熟練労働者の生産性が爆発的に増加し、その結果、高いスキルのある職人は機械と非熟練労働者によりおきかわり、職人は失業しました。

20世紀にはコンピューターや通信が発達し、高技能労働者の生産性は爆発的に増加し、特に創造性を発揮する仕事、概念を取り扱う仕事、問題解決をする仕事の生産性が向上します。しかし社会全体での雇用数自体は伸びません。

一方で、作業の予測が可能で、定型化やプログラミングにより処理可能な仕事、例えば旅行代理店の予約担当者、電話の交換手、文書整理といった職業は消えてていきます。

AIの台頭により三ヶ月毎に6%程度の仕事が減ります。若干数の新しい仕事が増えますが、低技能、低付加価値、低賃金の仕事は減っていきます。しかし公教育は削減され、最低賃金は下がり、従業員の組合化には制限がかかったために、不公平が増大しているのが現代であり、AIの進化によりそれは悪化していくだろうと述べています。

このような変化に対応する戦略として

(1)AIへの投資と開発

(2)アメリカ人が未来の仕事に対応するための教育

(3)労働者が変化に対応することを補助する

という3つの戦略が述べられていますが、最も注目すべきなのは(3)の「労働者が変化に対応することを補助する」ではないでしょうか。

驚くべきことに、(3)で述べられている内容は、社会保障の充実、健康保険の充実、賃金の増加、労働者が雇用者と交渉する力を補強する、ユニバーサルクレジットなど、アメリカらしくない高福祉国家的政策なのです。

自助努力を重視し、小さな国家を推進してきたアメリカ政府がこのようなことを報告書に明記するのは極めて驚くべきことで、私自身はこれを読んで大変な衝撃を受けました。

しかし、アメリカまでもがこのようなことをいっているということは、AIやその他の技術による産業構造や労働市場の変化は、思った以上に大きなものであり、産業育成や経済活性化以上に、マス中流層の失業による社会不安の増大にどう対処するか、ということが、国家にとっての大重要課題の一つになりつつあるということです。

最近のイギリスのEU離脱、アメリカのトランプ旋風、欧州大陸の極右の台頭、日本における排外主義流行りは、ほぼ同時に起こっていますが、全て根っこで繋がっています。つまりそれだけグローバリゼーションや技術の進歩が、地球規模で、思った以上のスピードで広がっているということです。

日本はこのような変化に直面している上に、少子高齢化問題も抱えます。AIの発達による社会変化も、政策論の点から議論する機運が高まる必要があるのでしょうが、オリンピックの場所や魚市場をどこにするかと延々と議論している間に、対処が遅れていくでしょう。

 

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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