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スタートアップの社長が気をつけるべき自己紹介 そして必殺の秘策

From now on, you will speak only when spoken to, and the first and last words out of your filthy sewers will be "Sir!"

2016.12.22

Updated by Ryo Shimizu on December 22, 2016, 08:04 am JST

 気がつくと今年のエントリーはほぼ全てAIの話ばかりなので、たまには連載タイトルに則った「プログラマー経営学」に近い話でも息抜きに。

 なんか最近、立て続けにダサい自己紹介をするスタートアップの社長に逢ってしまいました。
 なんで最近会う人はこうもハズレばかりなんだろう、と思うと、前厄だったのが関係してるのかもしれません。お祓いは今週の月曜日に行ってきました。

 さて、スタートアップの社長というのは、自信があるようでない、そして常に自信を脅かされているという点で非常に精神が不安定な状態にあります。

 にも関わらず、投資家や従業員、取引先に対しては自信満々な態度を取り続けなければならないので、張り子の虎のような中身のない自信をいかに演出するか、が勝負です。

 すると、こういうときにこそ人間が出るんですね。ダサいスタートアップの社長というのは、最初に会っただけで化けの皮が剥がれてしまいます。

 たとえば、ある時ぜんぜんこの業界とは関係ない業種のスタートアップの社長を紹介され、「どういう経緯でこういうお仕事を始めようということになったんですか?」と聞くと

 「大学を卒業して大企業に入社したんですけど、起業するのが夢で入社三年で退職して・・・」

 既にこの返答がダサいのですが、筆者は続けて聞いてみました。

 「へー凄いですね。大企業って、どれくらいの規模ですか?」

 「売上高一兆円くらいの東証一部上場企業で・・・」

 きっと彼は合コンみたいな場でもそういう感じの自己紹介をするんでしょうねえ。
 社名を聞いてみると、まず今の仕事とも関係ないし、大企業といってもグループの子会社だし、やったのも経理だし、そもそも普通の人はまず知らない会社だし、まあそういうことを言わないと自分に価値があるということをアピールできないんだろうなと思ったわけです。

 スタートアップの社長に求められるのは、ストーリーです。どんな問題意識があって、どんなことをやりたくて、どうして今の仕事にたどり着いたのか。それが聞きたいのです。というかそれ以外の話をするべきではありません。

 経理やってて脱サラしたくて全く別業界の仕事を始める、というのはたとえ本当のことでも言うべきではないでしょう。

 あと、スタートアップの社長の前職が大企業の経理部門というのは、マイナスはあってもプラスはありません。大企業の経理とスタートアップの経理は全く違うし、しかも三年しかいないということは出世の芽がないから辞めたのであろうことはバレバレです。

 二重三重の意味でダサすぎる自己紹介に、筆者も呆れてしまいました。

 筆者は別の大企業出身の経営者と話をしたことがありますが、そういう人は会社名を言うか、言わない場合は「サラリーマンを●年やってたんだけど、会社じゃやりたいことができなくて・・・」みたいな感じになります。「ボクは誰かに認めてもらいました」では社長の自己紹介としてはダサすぎるのです。

 個人的な失敗も話すのがフェアだと思うので、恥を忍んで筆者自身の失敗談も話します。

 会社がある程度軌道に乗って、社員が20人くらいになった頃、大先輩経営者の方がオフィスに遊びに来てくれたことがあります。

 彼は真っ白な頭で応接セットを見回し、「こんなものいつまでも飾っといたらダメだよ」と何気なく飾っていた盾を指差しました。

 それは、彼がむかし社長会長を歴任していた会社から、学生時代の筆者が頂いた賞の盾で、応接セットが殺風景だったので、むかしどこかで見た経営者の社長室よろしく、あまり深く考えずに適当に貰った盾だの賞状だのを飾っていたのですが、確かにそれは飾った時よりもさらに時間が経過していて、誇らしく飾るにはかなり古臭いシロモノになっていました。

 筆者は自分の間抜けさが恥ずかしくて顔がカアッと赤くなってしまい、その日のうちに全部仕舞いました。

 大昔に誰かに認められました、誰かに褒めてもらいました、という証拠を飾るというのは、その人の価値を貶めることはあっても向上させることはない、というわけです。

 ただ、困ったことに賞状や盾は捨てるのも忍びない。

 仕方ないので今は会議室の後ろのほうにひっそりとホコリを被ったまま飾っていますが、これをいっそ捨てちまえ!とは出来ないのが筆者自身のダサいところです。過去の栄光にすがるみたいなのはみっともないのですが、栄光というよりは思い出として、捨てられない、という感じでしょうか。

 ただ、目につくところに賞状類があると、普段生活していると忘れてしまうのですが、不意に来客があったときに、過去の栄光にすがる可哀想な人、という印象を与えかねません。そして実際、筆者自身もそういう盾や賞状やトロフィーが所狭しと飾られた社長室に案内されて、「今は昔」と思った経験もあるため、普段の執務空間にその手のものを飾るのはお薦めしません。今思えば、一度飾ったら、忘れてしまってそのままなんだと思いますが。

 経営者にとって本当に誇るべき勲章はバランスシートと損益計算書です。もしくは資金繰り表です。
 賞を取りました、とか、そういう話は本人以外にとってはどうでもいいのです。

 とはいえ、それすらもない本当のスタートアップ経営者にとって、自信はハリボテです。それをいかに本当に心から信じきれるか、そういう力を問われています。

 筆者の友人で、経営者でもあるgumiの国光宏尚という人がいますが、彼は上場ゴールと言われようが、株主から袋叩きにされようが、てんでめげません。「時価総額8兆円見えた」とかムチャクチャなことを言って株価が暴落しても、ぜんぜんめげないのです。その精神力たるや常人の想像の及ぶところではありません。それは最近のインタビューでも健在で、そこでも「時価総額8兆円は目指せると思っている」と発言しています。全くブレていません。

 彼が結局、上場までに調達した資金は100億を超えます。日本では数えるほどしかない巨額の資金です。100億集めて、毎月3億ずつ赤字を出してでも自分のビジョンを信じて、ついに黒字になりました。まあ四半期ですけど、今でも彼は時価総額8兆円いけると信じていますし、彼に投資したベンチャーキャピタルも、損切りで手放さずに彼の大言壮語の10%でも実現すれば凄い、と思って株を持ち続けている人も居ます。

 国光さんはどちらかというと仕事をちゃんとしてるのでいいと思いますが、もう一人の友人、井口尊仁はむちゃくちゃです。彼にはビジョンしかありません。そして彼のビジョンはただの一円も利益を生み出したことがない。にも関わらず、圧倒的な自信、根拠のない自信によって彼はいつも唸るほどの資金を集めます。

 心理学では根拠のある自信と根拠のない自信では、根拠のない自信の方が強い、と言われています。
 根拠のある自信の場合、その根拠となるモノが否定されてしまったり失墜してしまったりすると、急にその人は自信を失ってしまう可能性があるからです。

 つまり、自信の根拠を示すことは経営者としてはマイナスはあってもプラスはありません。

 「○○出身だから、ボクにはバリューがあります」というのはサラリーマンの転職では使える価値かもしれませんが、経営者にとっては学歴と同じくらい関係ありません。

 本当に金を稼ぐ経営者は社員ゼロで年収5億だったりするのです。そして大学中退どころか高校中退だったりもするのです。

 だからそんな人は、間違っても「へー大企業に就職して3年も働いたんだねえ」という部分に価値を見出しません。合コンならいざ知らず、経営者が他の経営者に名乗りを上げる時というのは、戦いです。自分が戦場にいるという自覚のない人間は戦場で最初に死に、食い物にされます。

 経営者が名刺を交わすのは、真剣を鞘から抜くのと同じ。
 ここで間抜けなことを言っては沽券に関わります。

 とはいえ、スタートアップの経営者は圧倒的に自信がないことが多く、自信がないのに諸々の事情から去勢を張ることでしか精神を保てないというのも一面の真実でしょう。

 では自信がないけど、アピール下手なスタートアップ経営者はどうやって自己紹介すればいいのか。
 とっておきの方法があります。

 それは、自分では自分については詳しく語らず、プロフィール紹介要員を連れていく、ということです。

 これが一番効果的な方法です。
 なぜなら、こうすればたとえ同じ情報を伝えるのであっても、カッコ悪くならないからです。

 ただし、プロフィール紹介要員・・・長いので、以降はサイドキックと呼ぶことにします・・・の人選が問題です。

 まず明らかに間違ったサイドキックは、異性の部下や友人です。
 その人にいくら褒めさせても、「惚れてるんだな」の一言で片付いてしまいます。つまり、異性に褒めさせると、バリューがパーソナルなものであって、パブリックなものではない、と解釈されてしまう可能性が大なのです。これはサイドキックにはなりません。

 次に問題のあるサイドキックは、学生時代の友人です。

 学生時代、特に中学高校までの友人というのは、そもそも社会階層が違うことがしばしばあります。
 所詮中学卒業時の学力では、その人の本当の能力は測れないので、高校卒業時の学力やその他の能力によって進路は大きく左右されます。

 社会階層が全く異なる人に紹介させても、ピントの外れた言葉しか引き出せません。
 学生時代の友人が褒められるのも、基本的には人柄だけです。合コンならそれでいいのかもしれませんが、ビジネスの場にはそぐいません。

 では理想的なサイドキックはなにかというと、取引先です。
 これほど説得力のあるサイドキックはいません。なにしろ、その人が取引をしているということが、そのまま身元保証に近い事実になるからです。

 取引先をサイドキックにした場合、あなたがいかに優秀で、リーズナブルで、誠実であるか、契約をしてどれだけ良かったと思っているか、そういうことをつらつらと語ってくれます。しかもあなたがトイレで中座しているときに。

 次に理想的なのは、株主です。なにしろ株主は、金を出してるわけですから、あなたを応援せざるを得ません。そして金を出しているということが、相手から見た時の身分保証になります。

 その次が、部下です。ただし異性の部下はやはりダメです。愛人を連れて歩いているように見えてしまいます。同性の部下で、しかもその人がとても優秀に見える必要があります。とても優秀に見える人が自分の人生の一部を預けている、この人は只者ではない、と思わせることができますし、起業に至った経緯などもいい感じのストーリーで話してくれるはずです。

 難しいのは、業界の大物をサイドキックにする場合です。
 相手は、大物の誘いを断ることが出来なくてイヤイヤその場に来ているのかもしれせん。

 そして大物は、ものごとを深く考えないので、「こっちの○○くんはな、◻◻の天才なんだ。仲良くしてやってくれい」くらいの適当なことを言ってきます。筆者は大物の紹介で知り合った人とはだいたいその後、二度とコンタクトをしません。なんでだろう。どうも対抗心が生まれてしまうのか、あんまり話をしたいと思わなくなってしまうのです。

 あと、サイドキックに言わせてはいけない禁句があります。
 それが「天才」というキーワードです。

 世の中の人は大なり小なり「天才」という言葉に対してコンプレックスを持っています。
 「天才」よりは「ベテラン」「専門家」「エキスパート」「スペシャリスト」のほうがずっと好感をもたれやすいです。実際には同じ意味です。

 お分かりいただけたでしょうか。
 本欄をご愛読されている賢明な読者諸氏にはくれぐれも、初対面の一太刀めから、「ダセーなこいつ」と思われないような立ち居振る舞いをしていただきたいと思います。まずは堅実なサイドキック選びから初めて見ては如何でしょうか。

  
 

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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