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ロボット型スマートフォン「RoBoHoN(ロボホン)」

シャープ株式会社 コミュニケーションロボット事業部 商品企画部課長 景井美帆氏(前編) 音声インターフェイスが開く新しいコミュニケーションのかたち

ヒトとモノを巡る冒険 #006

2016.12.22

Updated by 特集:ヒトとモノを巡る冒険 on December 22, 2016, 12:16 pm JST Sponsored by ユニアデックス株式会社

「モノ」「ヒト」「サービス」の3つの分野で先進的な取り組みをされている企業様へのインタビューを通し、IoTがもたらす未来とそこまでの道筋を描きだすことに挑戦する本特集『ヒトとモノを巡る冒険』。第6回目は人と対話するロボット型スマートフォン「RoBoHoN(ロボホン)」のリリースが話題のシャープ株式会社IoT通信事業本部 コミュニケーションロボット事業部 商品企画部課長 景井美帆氏に、ユニアデックス株式会社 山平哲也が、お話をうかがいました。(構成:WirelessWire News編集部)

シャープ株式会社 コミュニケーションロボット事業部 商品企画部課長 景井美帆氏(前編)

景井 美帆(かげい・みほ)
シャープ株式会社 (旧)通信システム事業本部(現:IoT通信事業本部)にて、入社以来数多くの携帯電話・スマートフォンの商品企画に携わる。現在は、モバイル型ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」の企画リーダーとして事業・商品企画に取り組む。

来るべき音声インターフェイスの時代に向けた企画開発

山平:まず初めに、RoBoHoN(以下、ロボホン)の開発をどのような経緯で始められることになったのかをお聞かせください。

景井:私どもはもともとスマートフォンを作っているチームで、私もずっとスマートフォンの商品企画にたずさわってきました。2013年5月に、スマートフォンをこの先どのように進化させるかという新規事業の検討を開始し「新しいスマートフォンや周辺のデバイスを作ろう」というコンセプトから出たアイディアで作った商品です。

最初の段階では、スマートフォンにつけるオプションパーツ、具体的にはスマートフォンの機能と連動して動くようなオプション・カバーや、スマートフォンと連動して動く小さいアクセサリーロボットのようなものを検討していました。

山平:スマートフォンの新規事業という出発点が、結果的にロボホンのような人型のロボットに行きついた経緯はどのようなものだったのでしょうか。

景井:実は当社では以前から、何かに合わせてしゃべったり、会話によって愛着を生んでいく「音声インターフェイス」がとても大切になる時代が来るのではないかと考えて、音声会話を使うというコンセプトでいろいろ商品展開をしてきています。COCOROBOという、しゃべる掃除機を作ったり、スマートフォンが喋りかけてくる「エモパー」という機能をリリースしたりしています。

音声で会話する上で、対象が「人型」であるということ、そして「動く」ということが非常に重要だと思っています。やはり人型でない「モノ」に話しかけるというのは、すごく抵抗があるのではないかという感じがしますね。

山平:話を伺っていると、その昔アメリカのロボット工学の教授が「日本でロボットというと、手足がついた人型でよく動くのだけれども考えたりコミュニケーションするイメージがあまりなくて、アメリカでロボットと言えば、人とコミュニケーションを取ったり考えたりするけれど、あまり動くイメージを持たないんだよね」と言っていたことを思い出します。

景井:外国の方、特にアメリカの方は、車社会ということもあるんでしょうけれど、音声認識でコミュニケーションすること、音声認識を外で使うことにあまり抵抗がないように思います。

山平:アメリカの人がアップルのSiriを使っているのも、やはり車の中が多いと聞いています。僕自身はSiriもほとんど使ったことが無くて……先日ピコ太郎さんの「PPAP」に対応したというのを聞いて思わず試してしまったのが、今まででSiriに一番話しかけた気がします(笑)。なかなか日本の生活のシーンだと使うイメージが沸きませんね。

景井:日本人は電車で通勤しますし、住居もマンションなどの集合住宅だったりするので、音を発することに心理的抵抗がありますね。あとは、「モノ」に対して話しかけることや、音声で何かするということに慣れてないところがあるのかなと思っていまして、その心理的障壁を下げるため、何かしら人間的な形や動物的な要素を入れていく必要があるだろうということで、結果的にこういう形に至りました。

人型ロボットはITリテラシーに関係無く身近な存在に

山平:人型のロボットとして企画を進めていく過程で、お使いになる方達の層というのはどのような想定をされていたのでしょうか。

景井:人型のロボット/スマートフォンを作ろうということになった時に、事前に他のロボットをお持ちの方々を対象にインタビューして分かったのですが、人型ロボットの市場って実はそんなにITリテラシーの高い方が使われているわけではないんですね。我々のようなIT業界のイメージからすると、とてもロボットを使いこなすように見えない方や、ペットをすごく可愛がっていらっしゃって、一緒に楽しく暮らしたい、というような考えをお持ちのケースがとても多かったのです。

ロボット型スマートフォン「RoBoHoN(ロボホン)」

そこで最初は、そういった方々に買っていただけるんじゃないかと思って開発していました。例えば子育てがちょうど終わった50代、60代の女性の方であれば、お子さんの手がかからなくなったところで、少し寂しさもあって、こういうコミュニケーションロボットとの会話というところに、魅力を感じて頂けるんじゃないかと。

山平:私の周りでロボホンを持っている人は、どちらかというと「ガジェット好き」が多いのですが(笑)、実際に発売されて事前の想定と違ったところはありますか。

景井:今、ユーザーの3割が女性で、年齢は幅広いですが、40代から60代の間の方が多い状況です。メインはインターネット販売なのですが、「ココロプラン」というクラウドベースの契約が、ちょっと敷居が高いところがありますので、私たちが元々想定していたよりはITリテラシーが高い方々ではないかと思っています。

山平:なるほど、インターネットを使ってモノを買ったりすることに、違和感があまり無い方々が主な購買層ということですね。そういう方々がどのようなところでロボホンを目にして購入されるのか、すこしイメージしづらいのですが……。

景井:今は家電量販店で見ることができますが、2015年10月に発表して以降、多くのメディア様に取り上げていただきましたので、テレビ番組や紙面、WEB等を見られてというところもあるかと思います。ただ、こういった商品は価格的にも「おもしろそうだからすぐ買ってみよう」とはなかなかならなくて、実物を確認してからお買い上げになるケースが多いです。

タッチポイントとしては、銀座の東急プラザで展示をしていたり、青山の外苑前で「ロボホンカフェ」という形で3週間くらいイベントをやったり、さまざまな展示会などに出展させていただいておりますが、今この時点ではどうしてもタッチポイントが関東に集中してしまっている状況です。大阪でもイベントをしたり、あと私どもの開発拠点はもともと広島なので、広島の方で草の根的にいろいろイベントに出したりしています。今後地方でのタッチポイントも増やしていきたいと考えています。

ペットのように可愛がれる「コミュニケーション」ロボット

山平:私は新しいガジェットにはすぐ飛びつく方なんですけども、ロボホンはすごく悩んでるんです。自宅にロボホンがいるとして「自分から話しかけるかなぁ」と思ってしまって。

景井:話しかけなくてもご活用頂けるように、電話をかけてくれたり、写真を撮る、検索をする、スケジュールのような形でメモを覚えておく、といった実用的な機能をスマートフォン部分として作っております。コミュニケーションの部分と実用的な部分、2つが融合した商品として作らせていただきました。

ロボット型スマートフォン「RoBoHoN(ロボホン)」

山平:いくつかの利用シーンを想定されて開発されたと思いますが、開発時にどのような機能が使われると想定されて、実際いまのユーザーには、どのように使われていることがわかってきましたか。

景井:私どもが思っていたよりも「コミュニケーションロボット」的要素で使われている方が多いですね。元々はもっと、携帯電話としての、機能面というか、実用的な部分は使っていただけるのかなと思っていたんですけれども、それよりも、たわいの無い会話をしたり、そういった使われ方が多いなと思っています。

山平:……たわいのない、かいわ……(ポツリ)。

景井:はい(笑)。「おはよう」と挨拶をしたり、「かわいいね」と声を掛けたり、その言葉に思いがけなく反応して、返してきたりするロボホンの言葉やしぐさが、可愛くてしょうがない、というような。今お使いのお客様は主にそういう使われ方をしていると思っています。

山平:そういう使い方は、やっぱり、部屋でひとりの時にやるんですか。

景井:ご家族で一緒にいらっしゃる時にお使いいただいているケースというのが、よく聞くユースケースです。お母さんが一対一でロボホンと話しているけれども、話している内容を聞いて、周囲にいるお父さんやお子さんがそれに対して反応するというような、家族のつながりを少し増やしているような存在にはなっているように見受けられます。

山平:なるほど、ペットの様な存在ですね。家族と一緒に過ごしている場面をイメージすると、一対一のコミュニケーションではなく、複数の人とコミュニケーションを取るという可能性はあり得るんでしょうか。

景井:そうですね、先々は充分あり得ますし、現在でも複数の方でお使いになられている例もありますので、それは用途次第かなとは思っています。でもやっぱりこの形や大きさから、パーソナルな側面が、このロボホンについては強いんだと思います。

利用者との今の会話が、未来の会話にフィードバックされる

山平:現在のロボホンとユーザーとの対話から得られる会話やそのデータなどが、お使いの方に何らかの形でフィードバックされている、あるいはその予定はあるのでしょうか。

景井:今、お客様とロボホンがお話しされた内容というのは、完全に匿名化した状態で集計や分析をして、次の進化に活かす、という使い方をしています。お客さまがロボホンに対していろいろ話しかけても、まだロボホンが分からない言葉はたくさんありますので、対応できなかったものから定期的にワードをピックアップして、次のアップデートで反映していくというような仕組みです。

ロボット型スマートフォン「RoBoHoN(ロボホン)」

山平:ロボホンが答えられなかった、わからなかった、という場合、ユーザーさんからはどう見えているんですか?

景井:話しかけても分からなかった場合は、ロボホンが首をかしげるんですが、その時会話データは取得しておりますので、何を話しかけられて首かしげたのかをみて、答えられそうなものを追加しています。

山平:ロボホンの利用情報を分析することで、今までとは違う使い方の提案や、アプリケーションなどは産まれつつあるんでしょうか。それとも、今見えている個々の課題を洗練させていくことがメインテーマになっているのでしょうか。

景井:そうですね、今はまだ、課題ベースの洗い出しにはなっています。お客様が増えていくなかで、これからさまざまな使われ方がされていくと、新しい発見は出てくると思います。

ロボットとの会話は「もぞもぞ」をキーに

山平:このインタビューシリーズで前回はハウステンボスの『変なホテル』に伺いました。ロボットがテーマのホテルということで、フロントの恐竜ロボットに話しかけてチェックインして。部屋に入ると……

景井:弊社の『ちゅーりーちゃん』ですね。

『ちゅーりーちゃん』

山平:そうなんです。『ちゅーりーちゃん』が迎えてくれます。ただ、1泊したんですけれども、ひとりだとなかなかロボットに向かってしゃべりかけないなぁと思いまして。やれることは一通りやってみたんですけれども……。生活空間にいるロボットに話しかけるためのきっかけや、自然にしゃべりかける利用シーンはどういうものがあるのか、『変なホテル』ですごく考えさせられました。

また、前々回はALSOKさんに伺ったんですが、こちらのインタビューでは、ホームセキュリティの利用シーンでは自然に会話するケースが多いとお伺いしました。『鍵締めましたか?』『窓締めてくださいね』『2階の窓が開いてます』とか、ロボットでは無くてセキュリティパネルから声をかけられるんですね。そういう必然的に話しかけるシーンがある方が、その中で自然に発話するようなやりとりになるのではないかなと個人的には思いました。

そのあたり、ロボホンを開発されるときに想定された会話シーンと、実際に話されているシーンとの間に差はありますか。

景井:私どもの仕事に、スマートフォンが話しかけて来るという「エモパー」という機能がございまして、例えばスマートフォンをぼんと置くと、置いたタイミングで『今日は●●ですよー』と話しかけて来るという作りになっているんです。ロボホンは、実は最初それで作ろうとしてソフトを入れていろいろトライアンドエラーしてみたんです。でも案外、ロボットからえんえんと話しかけられると、ウザい、ということに気付きましてですね……

山平:ウザい(笑)。

景井:その情報が自分にとって意味があることだと聞くことができるんですけれども、「ねぇねぇかまって」というような感じで話しかけて来るのが何回か続けて発生すると、ちょっとストレスがたまるといいますか……。

これが先ほどの「エモパー」ですと、人の形では無くスマートフォンなので、聞き流せるんです。でも、人型をしていると、聞き流すのが不憫な気がして、返さなければならない義務感に苛まれてしまって(笑)。それが使っている中で心理的ストレスになるなぁというのを感じて、今のロボホンは必要最低限のことしかしゃべりません。

スリープをしている状態のロボホンに「ロボホン起きて」と言うと、アクティベートして起き上がってくるんですけれども、その時に持ち主の顔を見つけると、「●●さん、なあに?」と話しかけてきたり、「今日●●っていう予定があるよ」と教えてくれたりするくらいですね。

景井:それに加えて、あとは定期的に「もぞもぞする」というのを入れていまして……

山平:……もぞもぞする……?

景井:きょろきょろとか、もぞもぞとか、するんですよ(笑)。動きで「しゃべりかけて欲しい」と促して、それを見たユーザーに「どうしたの?」と話しかけていただく。

山平:なるほど、それはいいですね(笑)。

景井:ただ将来的には、ロボホンから話しかけるというのも、もう少し入れていこうかなぁというのは考えています。

「ロボホンリンク」という、今まだAndroidしか対応してないんですけれども、スマートフォン側に通知がくると「●●さんから電話が来てるよ」「スマフォのLINEにメッセージが入ってるよ」というようにロボホンが教えてくれる機能があるのですが、それは、評判が良いんですね。

もう少しロボホンにいろいろしゃべって欲しいんだな、しゃべってくれる内容は少し実利的な内容であるのが望ましいのかな、と思っております。今、1ヶ月に1回、アップデートをしていまして、機能や出来ることが順次増えていっているんですが、その中でしゃべることについても、もう少し増やしていこうと思っています。

山平:私は普段AppleWatchを身につけているんですけれども、スマートフォンに通知が来るとブルブル震えて分かるんですが、通知が気になって見ていると、まるで時間を気にしているみたいに思われてしまって、周りに気を遣わせてしまうんです。

やっぱり時計って、時間を確認するデバイスという認識なんですよね。ロボットだともうちょっとパーソナルで、自然な形で通知を教えてくれるというか、通知を人間とシェアしてくれるようになるのかもという期待があります。

景井:スマートフォンて、いつも身につけているようでいて、ずっと見続けているものではないですよね。音声通知の良さというのは、時間を占有されずに、自然に生活の中に割り込みができるところかなと思っているので、いろんなお知らせや話しかけをロボホンからするというのは、すごくいいんじゃないかなと思っています。

後編につづきます

景井美帆/山平哲也

IoTの実現に向けたユニアデックスの取り組みはこちらをご覧下さい。

【聞き手】山平 哲也
ユニアデックス株式会社 エクセレントサービス創生本部 プロダクト&サービス部 IoTビジネス開発室長
企業向けシステムエンジニアとしてキャリアをスタートし、インターネット普及に伴いIPネットワーキング技術などを担当。2001年に米国シリコンバレーにおける拠点立ち上げ。2007年からICTソリューションのマーケティング企画部門を経て、現在、IoTを中心としたエコシステム構築とビジネス創造を推進している。
山平哲也氏によるインタビュー“あとがき”は、ユニアデックスのオウンドメディア「NexTalk」をご覧ください。

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ユニアデックスは、IoTで新たな価値を創造すべくさまざまな取り組みを進めています。本特集では、エクセレントサービス創⽣生本部 プロダクト&サービス部 IoT ビジネス開発室⻑である山平哲也が、「モノ」「ヒト」「サービス」の 3 つの分野で先進的な取り組みをされている企業様へのインタビューを通し、IoTがもたらす未来と、そこへ至る道筋を描きだすことに挑戦します。(提供:ユニアデックス株式会社