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半世紀を超えて待ち望まれるトランスコピーライトの実現

Hey Xanadu, stand up again!

2017.02.22

Updated by Ryo Shimizu on 2月 22, 2017, 09:43 am JST

 昨年世間を賑わせたWelq問題のことがそろそろ忘れられようとしています。
 Welqというヘルスケアサイトに「肩こりの原因は幽霊のせい」などというデタラメな情報が掲載されたり、他のサイトから「てにをは」を変えただけの表現などで記事を剽窃し、そのまま掲載することで強引にページビューを稼ぐという手法が問題視されました。

 Welqと同様の手法を使っていた各社のサイトも軒並みクローズし、一時期あれだけ隆盛を誇った「キュレーションメディア」は一夜にして滅びました。

 世間からの評価が企業やサービスの価値を決定する評価経済らしい結末ですが、この騒動の反対側で、「ビコ太郎」のブレイクが起きていたことを単なる偶然と見るべきでしょうか。

 問題となった「キュレーションメディア」は明らかに意図的に他者の著作物を流用し、使用していたわけですが、実際にはネットを見ると、「キュレーションメディア」を攻撃している張本人が、なんらかの著作物の画像を無断引用するブログを開設していたり、何らかの著作物に登場するキャラクターのアイコンを使っていたり、無自覚的なのか自覚的なのかわかりませんが、明らかに著作権法上では黒に限りなく近いグレーな行為をしている人が少なくありません。

 ピコ太郎の「PPAP」こと「ペンパイナッポーアッポーペン」の場合、ピコ太郎のアップロードしたオリジナル動画の視聴回数は1億PV程度だったそうです。

 しかし、これに刺激された二次創作が7億PVあり、Googleはその7億PVによって得られた広告費を全てオリジナルのピコ太郎に還元するという判断を行いました。

 これはGoogleがYoutubeという閉じた世界で行っているからこそできることなのですが、著作物の有効な利用法とは本来そうあるべきではないでしょうか。

 また別の話で、「森のくまさん」のもとの歌詞を一切改変せず、節と節の間に台詞を挿入することで、原型を留めないストーリーに改変してしまうということも問題になりました。

 筆者はこの手の問題に関してはかなり微妙な立場です。
 筆者自身が書籍やゲームコンテンツなどの著作物で利益を挙げる著作者(クリエイター)でありビジネスマンである一方、キュレーションメディアのひとつにも数えられるTogetterというサービスを提供する会社の創業に関わった人間でもあり、さらに内閣府で知的財産関連の国家戦略を検討する「新たな情報財検討委員」でもあります。

 Togetterは既に筆者の手を離れたサービスですが、Togetterが特段問題になりにくかったのは、もとがTwitterのつぶやきをまとめるサービスであり、つぶやいた人(いわば原著作権者)はいつでも自分の発言をTogetterから削除したり、自分のつぶやきを一切使わないよう指定できたりするからかもしれません。いわば、「つぶやき」という著作物を作った人が配布権をコントロールできるわけです。

 Togetterは、もともと大きなイベント中につぶやかれたつぶやきを纏めるという目的で作られました。そういう目的に照らすと、非常に便利なものであり、発言者にもまとめる人にも、イベントの主催者にもメリットのあるサービスです。

 ところが次第に、有名人の失言や一般人の不用意な行為をまとめる人が出てきたり、東日本大震災の時は放射能関連のデマとそのデマに対抗する人々のつぶやきがまとめられたりと、両論併記できる点も柔軟性があったのではないかと思います。

 ただしTogetterにも限界があります。
 Twitterに内蔵されたリツイート機能を使わずに、OSレベルでコピー&ペーストしたつぶやきや写真については原著作者を特定できないのです。

 これはシステム的な不備とも考えられますが、根本的にはOS側の不備と言えます。

 本来ならば、OSが、コピー&ペーストをしたときに「このデータは誰からコピーしたものか」というトレーサビリティ情報を保持し、ペーストした際にもそのメタデータを常に保存し続けるべきなのです。

 もっと言えば、コンピュータのアーキテクチャの中で、「このデータの原著作者は誰か」ということを特定できればもっといいのです。

 荒唐無稽な話をしていると感じられるかもしれませんが、これは実際にOSのレベルでも、アーキテクチャのレベルでも可能なことです。

 たとえば、Symbolicsというコンピュータは40ビットコンピュータで、メモリ空間では通常の32ビットをデータの格納のために使い、残り8ビットでそのデータは誰のものか、どことつながっているのか、そもそも何のデータなのかといったメタ情報を格納しています。

 OSシステムレベルでの実装例もあります。
 完成に54年という歳月を投じた、Xanadu(ザナドゥ)プロジェクトの成果、OpenXanaduです。

 OpenXanaduでは全ての情報が「誰が作った情報か」「どこにあった情報か」というメタ情報を持つようになります。

スクリーンショット 2017-02-22 09.29.30

 実際にこれをWeb上で試すことができます。

http://xanadu.com/xanademos/MoeJusteOrigins.html

 操作はカーソルキーとスペースキーで行います。
 メインのドキュメントが中央に、左右はそれぞれ参照元のドキュメントが表示されます。

 こんな具合に、もとのデータがどこにあったのか常に記録しながら、また、元のデータが変更されたときには即座にもとのデータの変更がリンク先に反映される、トランスクルージョンという概念もあります。

 Xanaduプロジェクトを指揮したテッド・ネルソンによれば、Xanaduではこうした「参照元を常に辿れる仕組み」を「トランスコピーライト(転移著作権)」と呼びます。

 仮にそういう、「トランスコピーライト」が実現するとすれば、そこにはこれまで考えられなかったような素晴らしい世界が開ける可能性があります。

 たとえば、作詞者、作曲者は今まで以上に完璧に音楽著作権使用料を厳格に適用できるようになります。まあそうなると根本的にJASRACのような権利団体に著作権管理を委託する必要がなくなります。

 そして、これがもっと重要なポイントなのですが、誰でも、自由に、他者の著作物を引用または改変して、使うことが出来るようになります。

 たとえば、よくブログなどでマンガのコマを引用して面白おかしく演出する場合があります。
 これは著作権法的には限りなく黒に近いグレーですが、今のところいちいち訴えるのが面倒なので黙認されています。

 しかし、トランスコピーライトが適用されれば、こうした一コマ単位の引用であっても、きっちりとマイクロペイメントで著作権料を徴収することができます。

 すると作り手は「なんでブログを書くのにいちいちお金を払わなければならないんだ」と腹をたてるかもしれません。
 しかしそんな心配をしなくていいのがねトランスコピーライトの最大のメリットです。

 トランスコピーライトが実現した世界では、あらゆる作り手は、著作権料を払う必要がなくなります。もちろん、全ての著作物が、ひとつのトランスコピーライト世界に入ると仮定した場合ですが、それでも、それはスゴイことです。

 しかし実際にはトランスコピーライトの世界でも、著作権料は発生します。作り手はそれを貢献度に応じて平等に受け取ることが出来ます。

 どうやって?

 実は簡単です。
 収入を分配すればいいのです。

 たとえば筆者の場合、給料を除けば最大の収入源の一つは、ブログのアフィリエイト広告です。これだけで大学生アルバイトの年収くらいあります。

 今のところこれは筆者の総取りなのですが、たとえば筆者のアフィリエイト収入の一部を、引用させていただいた原著作者に分配すれば、原著作者も分け前を貰うことが出来ます。

 Amazonのアフィリエイトの話をすると、たとえばKindle本の紹介料は8%です。これは紙の印税に匹敵する高価格です。極端にいえば、紙の本を書くよりも、アフィリエイトで本を紹介するほうが効率的なのです。

 そして、私が紹介した本が売れると、原著作者は20〜40%の印税を受け取ることができます。

 これは紹介者も筆者も互いに利益がある、Win-Winの関係になります。

 こうした細かい権利行使を無数に行うべきなのです。

 今のところ、主要ブログサービスの広告収入というのは特定のブログサービスが独占していることがほとんどですが、これもトランスコピーライトの世界に開放すれば、著作者はそれまで得られなかった収入を得ることが出来、著作物を引用する人は、それまで作れなかった素敵な写真やイラストに彩られたページを作ることが出来ます。

 もちろん、著作物には著作者人格権というものがありますから、引用の仕方が原著作者にとって気に入らない場合もあるでしょう。そういう場合は、著作者が引用を拒否できるようになっていれば何の問題もないのです。

 Twitterの失言の問題は、Twitterで失言すると手のつけられない状態になってしまうからです。
 魚拓がとられ、コピーがとられ、無制限に炎上します。

 けれども、その中でも最もマシな対応が、発言自体の撤回・削除である事実を見ても、「うっかり言ってしまった」ということを取り消す権利を著作者に認めるべきです。

 どこぞのアナウンサー出身の政治家のように、頑なに主張を曲げないのならば仕方ないですが、人間はミスを侵すものですから、「ついうっかり」という事態に対応できない今のインターネットに進歩が足りないだけだと思うのです。

 そしてトランスコピーライトにはPPAPのような成功例もあります。
 ああいう仕組みを、OSレベルで、全インターネット的に広めていくことができれば、あるいはXanaduのような世界が復活することも十分有り得るのではないでしょうか。

 

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清水 亮(しみず・りょう)

1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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