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更に激しい貧富格差の時代がやってくる

人と技術と情報の境界面を探る #006

2017.05.29

Updated by Shinya Matsuura on 5月 29, 2017, 07:00 am JST

ここまでの考察を、今風というかネット風にまとめてみよう。

1) 技術革新が情報と物流を効率化する。
2) その結果、経済のグローバリゼーションが急速に進行する
3) 結果、国内国外、域内域外を問わず貧富の格差が拡大する
4) 経済的に取り残された地域からグローバリゼーションの恩恵を受ける地域に、人が移動する
5) 経済は高速に変化するが、人の生活習慣はそれほどの速度で変化することはできない
6) それまで、接触することがなかった異なる文化圏に属する人々の接触が急増し、摩擦が発生する
7) グローバリゼーションの恩恵を受けることなく取り残された人々に、ポピュリズムが「悪いのはやってきたあいつらだ。あいつらさえいなければお前の生活は良くなる」とささやきかけて、政権を奪取したり政策をねじ曲げたりする
8) しかしポピュリズム首班に問題解決能力はなく、ますます泥沼化する←イマココ

この流れは決して好ましいものではない。どこかで、流れを押しとどめ、よりよい未来に向かうようにしなくてはいけない。

では、どの段階で流れを変えればいいのだろうか。
 
 
前回は、歴史のエピソードを追うことで、根本にある技術革新を否定しても無意味ということを示した。

技術の問題は、基本的に技術で解決するしかない。耐圧容器の技術が不完全で、よく蒸気機関が爆発した時代、解決策は耐圧容器の技術を進歩させて爆発しないようにするということだった。白熱電球の寿命が短いという問題は、寿命を長くするためのフィラメント材質の探究に始まって、やがてまったく発光原理の異なる蛍光灯、さらにはLEDの開発へと進んだ。

技術の問題を、社会制度の側で解決するという方法もあるが、そのほとんどは急場しのぎであり、長期的には有害ですらある。前回見た、イギリスの赤旗条例は良い例だ。技術は進歩するが、社会制度は進歩しない。むしろ事態を固定することで、悪化させるのである。
 
 
つまり、1)の段階で、1)から8)に至る流れを止めることはできない。いや、それどころではない。

技術革新に関しては、今現在、さらに悲観的な事態が進行しつつある。急速な人工知能の発達だ。近年、ディープラーニングという手法によって人工知能が人間と近い認識能力を持つようになりつつある。すると次に来るのは、人間に近い作業を行うロボットの登場だ。

人間とロボットの違いは何か? ロボットは給料不要、文句も言わず、組合運動も起こさない。が、それは枝葉末節であろう。
 
 
ロボットの最大の特徴は「もの」であり所有できるということだ。奴隷制が歴史の表舞台から消えて以来、人間は人間を所有できなくなった。労働力を利用したければ雇用契約を結ぶしかない。人権という概念の発達と共に、雇用にあたっては、雇用者に対する様々な義務が法的に付帯するようになった。

しかし、ロボットは雇用するのではなく、所有するものだ。所有に対する義務は雇用と比較すれば非常に少ない。

今、世間では「ロボットが人間の仕事を奪うだろう」という予想が話題になっている。ネット媒体にも紙の雑誌にも「ロボットに奪われる仕事、生き残る仕事」といった記事が掲載されるようになった。が、それは本質的な問題ではない。本質は、ロボットの利用が進むことで、社会の貧富の格差が拡大するということである。

ロボットは所有できる。富める者はロボットを所有し、使役することで一層利益をあげて資本を蓄積することが可能になる。資本をさらにロボットへと投資すれば、より一層の利益を望むことができる。他方、貧しき者はロボットに職を奪われる。彼の持つ技能はロボットで代替できるものでしかない。そのままでは、一層貧しくなっていくしかない。

貧しき者に脱出の方法はあるのか。19世紀アメリカの神話というべきジョン・ヘンリーの敗北の後、鉄道建設労働者達が蒸気機械のある環境に適応していったように、ロボットのある社会に適応して、新たな職を得ることができるのか。
 
 
ここで貧しき者の眼前に、19世紀と21世紀との決定的な差が立ちふさがる。蒸気機械の普及は18世紀に始まり20世紀にかけて100年以上をかけて進行した。その時間を使って、人々は新しい技術のもたらす新しい社会に適応することができた。科学技術のもたらす時間と、人間のライフサイクルに由来する時間が一致していたと言ってもいいだろう。

しかし、21世紀のロボットの普及は、そんな牧歌的なものではないだろう。おそらくこれから2030年代にかけて20年ぐらいで社会が一変するほどの速度で進行するはずだ。ロボットはソフトウエアを更新することで性能向上を図ることができる。ハードウエアがソフトウエアの負荷に耐えられなくなれば、機材を更新してハードウエアを入れ替えることもできる。

ところが教育によって人間をアップデートするのは、それほど簡単なことではない。時間がかかるし、なにより人間は歳を取るほどに、新たな知識の吸収が難しくなり、新たな事態への対応力が低下する。世代交代がおきるほど長い時間スパンで起きる変化には対応できるが、個人の人生の時間内で起きる変化への対応となると、これはかなり厳しいことになる。しかも人間には人権がある。年老いたからといって機械のように破棄できるものではない。否、この問いは本末転倒だ。「年寄りを社会の外に破棄する」というような姥捨て山的事態を避けるためにこそ、我々は社会を進歩させてきたのではなかったか。
 
 
つまり3)の貧富の格差拡大という事態は、これからますます加速し、進行することになるだろう。富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなるという事態は科学技術では阻止することはできない。むしろ科学技術はこの流れを一層加速する方向に作用する。

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松浦晋也(まつうら・しんや)

「自動運転の論点」編集委員。ノンフィクション・ライター。宇宙作家クラブ会員。 1962年東京都出身。日経BP社記者を経て2000年に独立。航空宇宙分野、メカニカル・エンジニアリング、パソコン、通信・放送分野などで執筆活動を行っている。自動車1台、バイク2台、自転車7台の乗り物持ち。

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