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ビットコインがバブルだとしたら、崩壊するのはいつなのか?

2017.10.13

Updated by Ryo Shimizu on October 13, 2017, 20:56 pm JST

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暗号通貨の高騰が止まらない。中国政府が本気で規制しようとした動きを見せた瞬間に30万円まで下げたものの、1カ月もしないうちに最高値を更新。このままでは遠からず100万円の大台に乗るのではないかというのが大方の予想である。

ビットコインはバブル状態と言われる。バブル状態とはどのような状態かというと、実態の価値よりも不当に高い価値がついている状態だ。

例えば土地バブルは、土地の値段は永遠に上がり続けると信じられ、人は借金をしてまで土地を買うことにエネルギーを注いだ。確かにこれはバブルである。買うための原資もなく投資しているわけだから。サブプライムローンの崩壊も、基本的には支払い能力のない人間にまで土地をいくつも買わせていたことが根本的な原因だった。

しかし、この瞬間のビットコインを始めとする暗号通貨をよもや借金で買う人間はおるまい。もし、そういう人間が当たり前になったら、それこそバブルである。筆者の周囲でも、暗号通貨を片っ端から買っている人間は何人かいるが、基本的には小遣いの範囲、数千円から数万円程度に留めているのが普通だ。当たればラッキー、くらいのものである。

実際、数年前に1万円相当のビットコインを買った人間は、今100万円程度の価値になっていて驚いている。

なぜ暗号通貨は値上がりを続けるのか。中国人が金の代わりに買っている、ブラックマーケットの決済手段として買われている、いろいろな仮説が考えられるが、筆者はこう考えている。「暗号通貨の価値が高いのではなく、現行通貨の価値がデフレ、という状態なのではないか」と。

現在の通貨経済は、そもそも金本位制に発している。元々、金は希少性が高く、金そのものが価値を持つために誰とでも交換可能な価値として金貨が流通した。しかし、金を持ち歩くのは重くて不便なので、金を金庫に保管し、その保管した証明書を発行することで証明書に金そのものと同じ価値があるということにした。これが紙幣であり、このような制度を金本位制といった。

実際、アメリカの連邦準備銀行の金庫には大量の金塊が収納されている。

しかしあるとき、紙幣の流通量が保管されている金よりも多くなってしまった。多くなってしまったが、すでに十分信用を得ていた紙幣で事足りるようになった。この時点で金本位制は崩壊したが、崩壊したところで困る人はあまりいなかった。

さて、紙幣そのものには額面ほどの価値はない。その紙幣の価値を裏付けるのは最初は金塊で、やがて信用という目に見えないものになった。この紙幣の信用を維持するのに専ら活躍したのが、銀行システムである。

どんな紙幣にも、その紙幣を発行した銀行の名前が書いてある。日本人が使う紙幣の正式名称は日本銀行券である。ちなみに日本銀行は、東証ジャスダック(東証JQ)に上場するれっきとした独立法人だ。日銀は政府の日本銀行法によって作られ、株式の55%を政府が保有するが、45%は政府以外が保有している。

銀行システムは、多くの場合中央政府と一体化しているのでわかりづらいが、本来は独立したものである。

銀行システムは実に巧妙だ。まず、銀行は紙幣を預かり、預金とする。しかし、この預金の大部分は、他の企業などにまた貸しされる。本来は預金者のものであるはずの現金を、他の企業に銀行の名のもとにまた貸しするのである。これを信用創造という。

また貸しされた預金は、企業などの経済活動によって利益を生み、利息として銀行に還元される。例えば日本では、わりと優秀な企業でも、銀行から資金を調達する(借りる)と、年1〜2%の金利を払わなければならない。一方、預金者が受け取る利息は、定期預金でも0.01%である。差額の0.99%は銀行の稼ぎとなる。

これがどういうことかというと、まず、あなたが100万円を銀行に預けるとする。銀行はこれを金利2%でA社に貸し出す。A社は頑張って稼いで、金利2%に相当する2万円を銀行に利息として支払う。銀行は、このうち100万円の0.01%に当たる100円をあなたに利息として払い、1万9900円を自分の懐に入れる。

しかも、A社にしろ、銀行で働く人にしろ、実際に現金をタンスに入れて保管することはほとんどない。給料は口座に振り込まれるし、店で支払った現金は、その日のうちにどこかの銀行の口座に入金される。現金がぐるぐる回っているだけで、結局は現金はどこかの銀行にあることになる。

銀行は、手持ちの現金が足りなくなると、インターバンクという銀行同士の間にある仕組みで現金を融通し合うことができる。つまり、誰かが現金を銀行に預けるならば、その現金は銀行システムという巨大な仕組みの中の単なるトークンに過ぎないのだ。

現金が循環して戻ってくれば、戻ってきた現金をまた他の誰かに貸し付けることができる。そこでまた利益を生むことができる。融資先が全て理想通りに利息と元本を払い続けてくれるのならば、これほど美味しい商売はない。もちろん、現実にはうまくいかないこともあったのだが。

考えてもみてほしい。なぜ銀行は、ただあなたのお金を預かるだけなのに立派なビルを持ち、行員に高い給料を払い、あまつさえ倒産した企業の不良債権を処理できているのか。それだけの盤石な利益構造を持っているからだ。

今の貨幣経済は、この銀行の仕組みと切っても切り離せない。仮に銀行という仕組みが存在しなかったとしたら、近代経済というのはこれほど発展しなかったに違いない。

小さな預金を大量に集め、企業に融資し、資本を回転させ、経済の心臓部になることこそ銀行の果たすべき役割であり、どんな巨大プロジェクトも銀行の協力なしには成立し得ない。

たとえ電子マネーの時代になったとしても、最終的には預金口座の間を数字が行ったり来たりするだけで仕組みは変わらない。むしろ、現金を管理する手間が減るだけ利益も大きくできる。

・・・というのがこれまでの貨幣経済だった。

しかし、暗号通貨はこうした価値観を破壊しつつある。なぜなら、暗号通貨には「預金」という概念がないからだ。お金を預ける必要が誰にもない。ただ、自分の暗号通貨ウォレットを持っていればいい。

暗号通貨ウォレットは、自分で作ることもできるしクラウド上のサービスを使うこともできる。しかし、クラウド上の暗号通貨ウォレットサービスを運営する会社が、銀行のようにウォレットの中身をまた貸しすることはできない。

ブロックチェーンの取引はすべて公開台帳に公開されており、預かっているウォレットの中身を勝手に移動させたら全世界に証拠が残ってしまうからだ。従って、暗号通貨ウォレットサービスを運営する会社はほぼ例外なく、暗号通貨取引市場とセットになっている。彼らのビジネスモデルは手数料だ。暗号通貨を日本円やドルなどの既存通貨に両替するときの手数料収入を当てにしているのである。

暗号通貨においては、従来の銀行制度のようなまた貸しによる信用創造の仕組みが使えない。すると大規模な資金調達を前提とするプロジェクトを暗号通貨単体で行うのは難しい。そこで注目されているのが暗号通貨の「ICO」(Initial Coin Offering)である。ICOは株式公開(IPO:Initial Public Offering)と似ていて、独自の暗号通貨を他のメジャーな暗号通貨と交換可能な取引所を開設する行為を指す。

ICOによって数十億という調達が簡単にできてしまう状況というのは、銀行から数十億を借りることを考えると圧倒的に手軽である。ただし、手軽であるがゆえに詐欺に使われる例が少なくない。これには当局の素早い規制が待たれるところだが、今回のテーマはICOではなく暗号通貨そのものの価値についてなのでICOについてはこれ以上の言及は避ける。

暗号通貨は信用創造ができないので銀行システムのような仕組みで利益を上げることができず、従って必然的に経済的によりコンパクトな方法によってシステムを維持しなければならない。

金塊や紙幣などを物理的に守る必要があった銀行と違い、暗号通貨の戦略は、隠すのではなく拡散させることによって盗難を不可能にするという逆転の発想である。

暗号通貨の取引は世界中の誰でもが追跡可能で、ウォレットのアドレスさえあればいつでも入出金ができる。この状況では、銀行強盗が暗号通貨を盗むことは事実上不可能である。銀行には現金や金塊があるから押入れば強奪できるが、暗号通貨は世界中にあり、しかも実体がないため盗むということができない。

暗号通貨システムは、世界中に散らばるマイナー(採掘者)によって支えられている。マイナーは、システムを維持するコストを払う代わりにマイニング(採掘)によって報酬を得ることができる。こうすることでリスクを世界中に分散し、しかもメリットも享受できるようになっている。仮にマイナーがマイニングをやめてしまったとしても、誰か1人でもマイニングを続けていれば取引は半永久的に残り続ける。これが暗号通貨を支えるブロックチェーンという技術の根幹にある考え方だ。

そう考えると、暗号通貨に比べて既存の通貨システムの維持コストはべらぼうに高い。連邦準備銀行の金庫にある金塊を守るためにアメリカ使っているコストや、銀行システムを維持するために預金者が支払うコスト、企業が支払う利息という名のコスト、さらに言えば、銀行破綻によるペイオフというリスク。こう考えると、1000万円以上の現金を銀行に預けたりタンスに預金しておくよりは、暗号通貨に換えておく方が経済的であると結論する人が続出してもおかしくない。

バブルというからには、ビットコインの「実質的な価値」が今の価格よりべらぼうに低くなければならないが、そもそも貨幣に「実質的な価値」など最初から存在していない。

第一次大戦後のドイツでは、ハイパーインフレが起こり、自国の基軸通貨の価値がものすごい勢いで下がっていった。これは、ドイツ政府が戦時賠償金を払うため、紙幣を大量に刷ったから起きたことだ。

では、暗号通貨ではどうか。暗号通貨を誰かの都合で「大量に採掘する」ことは、原理上不可能である。仮に政府が悪意を持って暗号通貨のインフレを起こそうとしても無理だ。

むしろ、今のビットコインが高騰していると考えるよりも、ビットコインに対して円や人民元やドルがデフレの状況にあると考えた方が自然である。どちらも現金そのものには絶対的な価値がないことを勘案すれば、そもそもドルや円などの既存通貨の価値を支えているのは人々の意識の中の問題であるわけで、たとえば筆者が出張先のパリから100ユーロを持ち帰ったとして、それを国内で誰かに渡しても、よほどの暇人でなければそれを通常の為替レートと同額としては扱ってくれまい。仮に両替すれば使えるとしても、両替という面倒なコストが発生するからであり、せいぜい、半額相当として受け取る人がいるくらいだろう。

実際、筆者はしばしば実験として、日本円の持ち合わせがないときに100ユーロではだめか? と交渉したことがある。100ユーロだと1万3千円ほどの値打ちがあるはずだが、だいたいは5000〜8000円くらいの値打ちとして理解されることが多い。

要は、場所が変われば貨幣の価値は簡単に何倍も変わってしまうということだ。空港や銀行にもっていって換金すればもっといいレートになるだろう。でも、その手間が嫌なのだ。

暗号通貨の場合、世界中の至る所で使われる可能性があり、一つだけ確かなのは、理由は不明だが上がり続けているということである。多少の暴落があっても、長期的に見れば上がり続けているのは間違いなく、仮にこれが暴落するとすればデマや政府の過激な政策によってしかあり得ないだろう。

しかし、おそらく世界でもっとも過激な政策が可能な中国共産党にしてさえ、ビットコインの価値をゼロにすることはできそうもないと分かった今、一体この高騰を止めることができるのはどのような政策や現象なのか、ちょっと想像するのが難しくなってくる。

もし仮に、ビットコインの価格上昇が、バブルではなくむしろ既存貨幣のデフレであると解釈するならば、次はビットコインが既存貨幣を次々と置き換えていくシナリオを想像しなければならない。

例えば、給与の一部をビットコインで払うとか、賞与をビットコインで払うとか言えば、喜ぶ人は少なくないような気がする。給料がビットコインで支払われ、家賃、光熱費、食費などがビットコインで賄えるようになるとすると、日本円を必要とする人が減っていくわけだから日本円の価値は相対的にどんどん下がる。あり得ないが、仮に日本に住んでいながら日本円を全く必要としなくなる人が大多数を占めるようになった場合、日本円の価値は今の数億分の一まで下がるだろう。もしくは、誰も日本円なんかとビットコインを交換したいと思わなくなるかもしれない。

三菱東京UFJ銀行がいち早く独自の暗号通貨の導入に踏み切ったのも、これからの銀行は暗号通貨を無視しては存在し得ない可能性が1%以上はあると考えたからだろう。銀行はむしろ積極的に既存貨幣からなる銀行システムを破壊し、暗号通貨を活用することで、これまでの銀行システムをはるかに上回る効率で高い収益を上げる可能性がある。それができない銀行は、もしかすると致命的な破綻を迎えるかもしれない。その日がいつなのかはまだ分からないが、今の暗号通貨を巡る動きが、政府の対応や銀行のスピード感では到底追いつけないほど速いことは事実だ。

そして、暗号通貨の台頭というのは、Brexitやトランプ政権誕生と根本的には同じ、地域優先化、非中央集権化(Decentralization)の文脈の中心にある。ソーシャルネットワークでのマストドンのようなサービスの登場も、それを裏付けるだろう。

我々人類は、これまで我々を庇護し、経済の発展の中心にあった銀行および中央政府というシステムから独立する時を迎えているのかもしれない。もちろん、そうなったからといって政府の必要性や銀行の必要性があることに変わりはないが、その役割はこれまでと大きく様相を変えていくだろう。

 

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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