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セキュアIoT特集とは何か

The most important thing in IoT is security

2018.01.17

Updated by WirelessWire News編集部 on January 17, 2018, 09:14 am JST

預金残高が100万円で安心できる人もいれば、それが1億円あっても不安な人もいます。このように安心とは、個人の心理的特性・経験・状況に大きく依存する感情です。一方、「航空機が非常事態により不時着した場合には90秒以内に乗客全員を降ろせ」という具合に、安全は必ず数値で表現可能です。安全は安心を実現するための道具ですが、全員の“安心”に応えようとするとコストが爆発してしまうので、妥当と思われる基準値を設定せざるを得ません。それでも安全性自体は基準値を中央に据えた上で比較可能な物理量として表現可能です。ここが安心と安全の決定的な違いです。

そもそも技術(technology)は、自然現象を制御可能な対象とみなし、効率的に収集したエネルギーを用いて、ある種の物理的または化学的なストレス(注1)を加えることで、利便性と安全性を創出し、不完全な状態でこの世に生を受ける宿命にある人間の不安感や不快を限りなく低減させようとするために存在します。ところが制御可能な自然現象の領域は極めて狭いため、安全基準も統計的な処理により経済的に妥当と思われる範囲に留めざるを得ません。統計的な処理には必ず確率変数が含まれますから、絶対安全な状態はどこにも存在しない、ということになります。

さて、情報通信(telecommunications ) の安全性(security)は、極論すれば、ネットワークの両末端にぶら下がるものが人(ヒト)しかいない状態だけをイメージしてもさほど支障はなかったのですが、これがIoTになるとそれぞれの末端にいるのがモノ(正確にはヒト以外のもの全て)ということになります。モノは、住宅内の各種設備はもとより、堤防・ダム・橋梁・道路・トンネル・水道管・建築物といった社会資本、そして交通機関、さらに自然現象及び(ヒト以外の)動植物も含みます。加えて言えば、IoTは社会資本のみならず、その社会資本を構築した背景にある制度資本(教育・行政・法律など)すらその対象とすることになります。

特に、高度成長期に構築され、その利便性を提供してくれた日本の社会資本は、50年近い年月を経て、経時劣化による悲鳴を上げ始めました。さらなる利便性の追求をことさら否定するものではありませんが、本来耳を傾けるべき、より切実なのはIoTによる安全性の実現でしょう。美味しいお米を作るためのIoTも大切ですが、稲作を安全に継続できるためのIoT がより切実に望まれているはずです。不謹慎な言い方ですが、メディアとしてはより切実なテーマのほうが面白い、と考えます。

そして、これは同時に“便利”という言葉のニュアンスが少しづつ変わっていく時代の到来を意味するのかもしれません。従来の便利は「時間の短縮、労力の低減、効率の重視」が主たる目的だったわけですが、これからは便利成分の大半を安全性が占めるようになるでしょう。この国には「トイレが空いたら教えてくれる」だの「帰宅前にエアコンが作動しているので快適」というどうでもいい便利の実現に血道を上げる余裕はないはずです。このような小手先の便利に取って変わることになるであろう安全性は本来の防衛的(defensive)なニュアンスを捨て、攻める道具として機能するはずです。直裁的にはカネと生命と関係資本の信頼性(堅牢性)を高いレベルで保障するようなものをイメージしていただければよいでしょう。

このような時期に、セキュアIoTプラットフォーム協議会という団体が結成されたことを契機に、今回WirelessWireNewsとセキュアIoTプラットフォーム協議会の合同企画により「セキュアIoT」を実施することになりました。IoT関連の様々な技術の中でも、特にセキュリティにフォーカスした報道を行ってまいります。

竹田茂(スタイル株式会社代表取締役 / WirelessWireNews発行人)

 

(注1)ストレス(stress)とは本来、物体が外力を受けたとき外力に応じて物体の内部に生ずる抵抗力のことを指す物理用語です。精神的な負担等を表す生理学の用語として使われるようになったのは比較的最近のことです。

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