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特集「創生する未来」とは何か

recreating the future of local

2018.01.17

Updated by WirelessWire News編集部 on January 17, 2018, 09:15 am JST

多くの市区町村で実施されている住民満足度調査の内容を精査してみると、概ね下記の項目が達成すべき目標として設定され、またその実現に苦慮していることがわかります。

1)安心して住める家がある
自然の摂理に抗うことのない建築物・居心地のよい空間で、環境に恵まれ、長期間に渡って利用可能な堅牢性があり、居住するためのコストが小さく、商店街や交通網の拠点までのアクセスが良い。また、そのような建築物が適度な距離感で複数集合している。当然、空き家などは存在していない。

2 )教育や子育てと文化に関連した施設が充実している
保育園・学校・塾・図書館などの学びと子育ての選択肢が多く、文化・芸術・スポーツ・観光・娯楽・商業施設が充実している。

3)仕事の自由度が高い
職業の多様性が実現しており、職場と住居が適度に接近し、可処分所得が高く安定的で、仕事に対する主体性が確立され、利害関係者(顧客や仕事仲間)との人間関係にさしたる問題もなく、過度に長時間働く必要もない。また伝統的な技能・工芸などが継承されている。

4)健康と食事に関する安心
ハンディキャップがある人も利用しやすい街作りが実施され、安全で治安がよく、健康と医療に関連した施設が充実しており、徒歩圏内に主治医(かかりつけ医)がいる。同時に、安全で美味しく栄養があって安上がりな食事を楽しくとれる環境である。

5)信頼関係資本の充実
プライバシーに配慮しつつも家族・地区住民・行政・議会の信頼関係が堅牢で、移住者等に対して排他的ではなく、住民のマナーレベルが高く、街が清潔で健康的である。

6)精神性と風土の継承
様々な精神的価値(神事、宗教、催事、祭り)及び風土や自然資本の維持・継承・存続に積極的な地域である。

7)時間の確保
上記(1〜6)に関して、個人レベルで時間や機会(opportunity)の希少性に自覚的であり、かつ時間に関する裁量権が確保されている。

これが過剰な要求なのか当然の権利なのかは判然としませんが、全てを実現するのはほぼ不可能であろうことも容易に想像できます。それは、この国が1000兆円を超える世界一の債務超過の国であるにもかかわらず、経時劣化した社会資本の改修と少子高齢化に伴うさらなる莫大な財政出動を余儀なくされ、かつ労働人口が減少していくことが明白な社会だからです。日本という国がその経営に失敗したことは明らかで、会社であれば経営層は全て退陣すべきところですが、退陣すべきは、ある種の制度設計や市場拡大主義のようなものも道連れで、ということが本来の筋論なのでしょう。

最適化というのは少々危険な言葉ですが(注1)、全体最適化に失敗した国に必要なのは、新しい制度による部分最適化の積み上げであり、その成功した部分最適化の集合体こそが国家なのかもしれないと考えると、特区が乱発されている状況も鑑みたときに、日本は近い将来非常に民主的な共和国(republic)になることが望まれているのかもしれません。そしてそのような未来の日本の予兆は東京や大阪のような大都市ではなく、遍在する様々な地域にこそその萌芽が観察できるのではないか、というのが「創生する未来」特集の仮説です。

地域行政において住民は顧客ではありません。プレイヤー(労働者)の一員なのです。にもかかわらず、地元がマズい状態にあるということに自覚的な住民は恐ろしく少ないのが実情です。1000兆円を超える債務は住民からの過剰なサービス要求に対応し続けてしまった行政の過ち、あるいは不完全な選挙制度の誤謬という側面があることは否定できません。

ただ、この状況は「たった一人の人物の妙な行動」をきっかけに大きく変わることがあります。その彼/彼女こそが地域コーディネーターであろうと私たちは考えます。地域コーディネータは、市区町村の首長およびそれを職業としてクレジットしている人に加え、その役所に勤務する担当者、地元の有力企業の社長、地域雑誌の編集長や新聞社、地方議会議員、地元にUターンした若者、あるいは町内会を仕切っていただけの人、等々も含まれます。共通するのはその地域をなんとか活性化したいという想いでしょう。

そして、その活性化のプロセスにおいて実行された様々な施策やアイデアにより当該地域が再浮上したのであれば、その知見を是非教えていただきたい。そして他の地域でも是非それを応用してみていただきたい。「創生する未来」が収集し公開していきたいのはそのようなノウハウ・事例であり、地域を創生していく知恵を交換するプラットフォームとしてご利用いただけるようになることを期待しています。取材対象は主に地域コーディネータであり、この特集をご覧いただきたい人たちもまた地域コーディネータであるあなたです。

なお、この特集「創生する未来」は、同名の一般社団法人「創生する未来」とWirelessWireNews編集部の共同企画です。

WirelessWireNewsでも、過去に様々なIoTの導入による地域活性化策をお伝えしてきましたが、(IoTなどの)手法の導入自体が目的化してしまった企画はやはり弱い、と感じます。逆に地域の理想形をバックキャスティング(backcasting)していくことでアクションを開始し、最終的な仕上げの部分でIoTを導入するという手順を踏むと、情報技術は実にいい仕事をします。同じ材料を使っていても順序が異なれば最終的な味が異なるという意味では調理とよく似ているのかもしれません。今回は、一般社団法人「創生する未来」の力を借りることで、効果的なIoTの導入事例などもより多くご紹介できるはず、と考えています。

竹田茂(スタイル株式会社代表取締役 / WirelessWireNews発行人)

 

(注1)一般に事象の最適化が実現した場合、競争状態が消失することでエネルギーが最小化します。エネルギーの最小化は事象自体の地盤沈下を招き、徐々に縮小均衡していきます。逆に、全く成長せず単に平衡(均衡)状態を保っているようにしか見えなくても、水面下では健全で適度な競争が行なわれているのが普通です。日本全体に求められている成長は明らかに後者による最適化であり、企業になぞらえるとしたら、売り上げ(GDP)は横ばいだがその利益率が桁違いに向上した状態、すなわち原価率や固定費が小さく、大きな付加価値がついている状態でしょう。付加価値は多くの場合“アイデア”を源泉とします。私たちにはアイデアが求められているのです。アイデアが論理的思考から創出されることは極めて稀で、「好き」という気持ちを燃料にして、身体を具体的に動かし、様々な試行錯誤を繰り返すことこそがアイデアの源泉となる事例が多いように見受けられます。「来週中にイノベーション案件を各自3つほど提出するように」と真顔で命令するあなたの上司は、単に「なんか面白い企画考えてね」と言っているに過ぎないので、あまり真面目に受け止める必要がないのは言うまでもありません。

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