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エンタメから交通や災害対応まで幅広い実証が進む日本の5G

2018.04.04

Updated by Naohisa Iwamoto on April 4, 2018, 11:36 am JST

2018年3月27日~28日に、“5Gを見る、知る、分かる”をテーマに掲げた「5G国際シンポジウム2018」が東京・お台場で開催された。シンポジウムでは、2017年度に総務省が開始した「5G総合実証試験」のこれまでの成果をプレゼンテーションや展示・デモで紹介するほか、国内外の有識者や専門家によるプレゼンテーション・パネルディスカッションを実施した。シンポジウムは総務省が主催、第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)、電波産業会(ARIB)が共催し、情報通信技術委員会(TTC)が後援して行われた。

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5G総合実証試験の成果は、第1部の「5Gで何ができるのか?」で紹介された。まず5GMF技術委員長で、大阪大学大学院教授の三瓶政一氏(写真上)が、「最近では毎日のように新聞で5Gの文字を見るようになった。5GMFの設立から数年を経て、5Gの時代になろうとしている。4Gまでは情報配信の時代だったが、5Gでは今まで情報通信ネットワークに接続されていなかったすべてのものがつながる。様々な業界のバーティカルセクターの中にあるIoT(Internet of Things)を実現することが5Gの本質だろう。5Gトライアルでは、単なる情報配信ではなく、バーティカルセクターや、地域、地方も巻き込んだ形で実証実験を行っている」と述べた。

具体的な5G総合実証試験の成果については、6つのグループからプレゼンテーションがあった。

8K伝送から1ミリ秒以下の超低遅延や2万台の端末接続まで実証

グループ1はNTTドコモが担当。高速大容量のアーキテクチャで、半固定的な場所や若干の移動を伴う通信を扱う。多様なアプリケーションを想定する中で、今回は3つのユースケースについて実証実験を行った。1つ目は、エンターテインメントにおける8Kマルチチャネルの高精細映像の高速通信。2つ目はスマートシティで安心安全な社会生活を送れるようにするために寄与するユースケースとして、今回は高精細なカメラ画像を使った不審者の特定などを行うセキュリティ分野の実証を行った。3つ目は医療に関する応用分野で、4K映像などを活用した遠隔診療の事例。診療所と総合病院を5Gで結び、距離を感じることなく高い水準の医療を提供できることを示した。

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グループ2は、NTTコミュニケーションズが担当したルーラル環境における5G高速移動通信の実証である。アプリケーションはエンターテインメントを想定し、自動車と鉄道への高精細映像通信を実証した。富士スピードウェイで実施した自動車の実験では、時速90kmで走る自動車に対して28GHz帯の5Gで2.241Gbpsのスループットが得られた。無線区間の遅延も8ミリ秒程度に抑えることができたという。また鉄道では東武鉄道の東武日光線に5Gの端末装置を搭載した臨時列車を走らせ、駅および駅周辺の基地局との間で高速伝送を行った。

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グループ3は、KDDIが担当し、5Gの低遅延を利用した実証実験を実施した。技術目標は、4.5GHz帯、28GHz帯のいずれの周波数帯でも、60km未満の移動速度で1m秒以下の遅延を実証すること。プロジェクトは、(1)車載カメラとサーバーの間で情報をやり取りするコネクテッドカー、(2)カメラの映像を見ながら遠隔操作を行う建設機器、(3)4K 360度カメラの映像をリアルタイムで伝送するドローン--の3つである。コネクテッドカーでは、実測でシミュレーションよりも高いスループットを得ている。遅延に対しては、コネクテッドカーではほぼ1ミリ秒を達成、建機では現状は1.6ミリ秒程度だがソフトウエアの改良で目標達成できそうだという。

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グループ4は国際電気通信基礎技術研究所(ATR)が担当した。屋内環境での高速性の評価を行う。ユースケースとしては、(1)スタジアムにおける4K映像の同時配信などのエンターテインメント、(2)駅における監視、(3)学校における大容量コンテンツを使った授業の活性化--の3種類を用意し、5Gの超高速性能を生かした利用法の有効性について実証した。スタジアムの実験は、那覇セルラースタジアムで実施。28GHz帯の5G基地局を配置。50台の5Gタブレットを客席に配置し、複数のカメラで撮影した4K映像を自由視点で選べることを実証した。

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グループ5は、5Gの能力の1つであるURLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)を実証する実験を行う。低遅延、高信頼性を目指す領域を、ソフトバンクが担当して実施した。4Gまでのモバイルブロードバンドの延長線上にあるアプリケーションではないため、5Gで新しいマーケットが広がることが期待できるという。ユースケースとしては、トラックの隊列走行を取り上げた。複数台のトラックを縦列に接近して走らせる「電子牽引」のソリューションである。ドライバー不足の解消、省エネ、物流コストの低減、道路のキャパシティの有効利用などが期待される。4.7GHz帯では、時速87km走行時に無線区間で0.58ミリ秒という低遅延の通信を実現できた。

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グループ6は、情報通信研究機構(NICT)が担当し、屋内における5Gの多数同時接続の実証を行った。災害時を想定した実験と、スマートオフィスや会議室などを想定した実験で、最大2万台の同時接続が可能なことを実証した。多数同時接続を実現するには、MUSA(Multi-user Shared Access)と呼ぶ方法を利用している。その中でもグラントフリー方式と呼ぶ事前の許可を得ずにいきなり送信する方式を使い、多くの端末からの通信を可能にした。実験では、送信を繰り返すことで、小さいデータであれば2万台でもきちんと通信が可能なことがわかった。

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いずれも、4.7GHz帯および28GHz帯の電波伝搬の測定から始まり、シミュレーションや実際のユースケースに落とし込んだ実験を行い、高速性能や低遅延性、大量端末の接続などそれぞれのテーマに沿った成果を得た。グループの実証試験の紹介を受けて三瓶氏は、「総合実証試験を通じて、バーティカルセクターの接続は2020年に向けて順調に進んでいる。2018年度は総合実証試験の2年目であり、サービスイン2年前の重要な年になる」と2018年度の活動に期待を寄せてセッションを締めくくった。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。