日本人の感度の高さは、それをコントロールする「技術」を併せ持つことで競争力に転化する - 創生する未来の舞台裏(創生する未来理事 三宅創太)
2019.01.17
Updated by 創生する未来 on January 17, 2019, 11:46 am JST
2019.01.17
Updated by 創生する未来 on January 17, 2019, 11:46 am JST
現在、日本全国でそれぞれの地域が、それぞれの勝ちパターンを模索している。これまで本特集「創生する未来」では、特定の地域事例から他の地域でも転用可能と思われる「ノウハウ」を紹介してきた。それでは、「他の地域でも転用可能」というレベルを超えて、日本全体に共通する、日本の強みというのはあるのだろうか。そしてそれはなにか。
ITコンサルティングを突破口に数々の地域創生案件をこなす三宅創太氏は、2017年に一般社団法人・創生する未来の理事に就任した。これまで見てきた日本の地域の実情とネパール滞在の体験を元に、今後の活動方針について話を聞いた。
三宅 :以前は小さなコンサル会社で通信会社向けの研修を仕事としていました。その中で新潟に頻繁に行く案件ができた頃に新潟地震(注:2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震)が起きたことが今にして思うと地方創生に着手する最初のきっかけになったように思います。現場が混乱していたということ以上にITリテラシーの低さや地方の本当の苦しさが見えてきたのです。
新潟に続いて、茨城、長野、北陸3県、東北6県、そして中国5県と、地方で毎年100社くらいの調査をやっていくと、ますます地方の苦しさみたいなものが見えてきました。下請け経済と人口減少で自社のマーケットサイズが小さくなってくる。稼ぐためには東京に行かなければいけない。ところが東京もだんだん苦しくなってきている。これはもはや個別にコンサルしてる場合じゃない、ある程度の広さの地域を巻き込んだところからスタートさせなくちゃいけない、と考えていたところ、たまたま豊田市と岡崎市の西三河地域からモバイルを活用した地域活性化プロジェクトに関わることになり、市場環境の大きな変化が起きたため、継続中のプロジェクトを請け負うために「ツクル」という会社をスタートさせることになったのです。
-- 「ツクル」を設立したときに顧客として考えていたのは、個別の会社ではなく、最初から市区町村だった?
三宅 行政からお金をもらうというよりも、官民のコンソーシアムを構想していました。しかし初仕事は、単なる基幹系システム開発です。大手ベンダーが扱っていた案件のリプレースですね。戦略策定業務に関わりました。しかし、これでは仕事が地域に広がっていかない。そこに某大手自動車メーカーの生産管理の仕事が舞い込んできた。地域的な広がりは確かにあるのだけど、これもちょっと違うな、と感じていました。
それで、2年度目は市役所とかの仕事も少しやってみて、3年度で民間と市役所の話もやろうかなと思ったら、地方創生予算がドンと出たタイミングということもあり、ちょっとしたアドバイスが審査を通過してしまい、企画だけのはずが、事業運用も請け負うことになったりしました。
という具合に試行錯誤を繰り返して来たに過ぎないのですが、最近は少し“光明”のようなものが見えつつあるというステージに来たかな、と感じています。日本全体に切実さが増して来たのだろうという見方もできるのかもしれません。
-- その切実さに対して、三宅さんはどう対応していきますか?
三宅 概念的には、ものとIT、テクノロジーとリアル、こういうものがくっついたときに、もう一回、日本の細やかさみたいなものが求められる時期が来るはずと踏んでいます。実は去年一年間、愛知県の事業で、愛知ビジョン2030の基礎調査をやりました。そこではこの仮説を立てて、実際にやってみて “ジャパンクオリティ”みたいなものがあるな、と実感しました。その“クオリティ”は何が源泉なのかといったときに、日本人にしか感じられないような空気感とか、情緒のようなものがあることを確信しました。日本人のアンテナの感度には他の国民にはない繊細さがあるように思うのです。これが実は(日本の)強さなのではないかと考えています。この強さを発揮するための“道具”を用意すればいい、ということがわかりました。
ただしその議論に行く前に、もう少し大きな法則のようなものがあるな、とも思っています。例えば「他人が何をやってるかがとても気になる」というのも、一種の“風土”ですよね。地域で脈々と受け継がれ、積み重なっているものだと思います。それがその地域の風土になっているわけですね。そこにけっこう人為的なものも入れ込まれていて、なんて言うんだろうな……、“怨念”みたいなものも同時に、風土の風とか土にもそういう思いとか、何々家と何々家の対決だとか、江戸時代とかその前からくらいからあって、ここの川がなんでここで曲がっているの、というようなことに対しても、一つ一つ何かしらの“思い”みたいな、そういうのが残滓というんですか、残っているんですね、僕らの体とか、その地域とかに。
-- 柳田國男が「地名とはその土地に住んでいる人と自然とのやりとりの結果を表現した言葉だ」と言ってました。私たちがふだん日常的に使っているもので、かつ実はかなり深い歴史のところまでリーチできるものが、実は地名じゃないかということですね。平成の大合併でぶち壊しになりましたが、魂とか残滓みたいなものは、そこに残っている可能性がある。
三宅 ありますね。けっこう、それがまさに日本人的な感覚、アンテナの感度の良さみたいなものがあって、逆に妙な雑音が入るわけですよ。本当は「未来に向かってこういうふうにしたいよね」というのがあるんだけれども、過去のこともすごく気にしながらやっていかなければいけない。感度が良すぎるがゆえに前に進めない。逆に、上京したときは人が多すぎるのでアンテナを下げる能力が必要になる(笑)。この感度の上げ下げみたいなものも、ある程度、僕ら、無意識でできていて、この感度が他の国から見ると相対的に高い。1桁とか、もしかしたら2桁くらい高い。なのですごい雑音も聞こえる、あるいはすごく過去のことも聞こえるようなやり方をしているんじゃないかなと。それが、結局、ものづくりでも何でもそうなんですけど、さっき言った“丁寧”というか、たぶんこういう感度を持っていないとできないような「ものづくり」だとか、食べ物でもそうだし、人間の関係性とかそうなんですけれども、そんなことが得意な人種だと思うんです。
三宅 先日ネパールに行ってきたのですが、現地の人は「ジャパンのクオリティはすごい。ジャパンというだけで信用だ」と言う。中国製品、例えば家電製品を買うと、買った当日は動くんだけれども、翌日、動かなくなる可能性がある。そうなったときに重要なのは、声なき声を感じ取れるアンテナがあるかどうかかなと思うわけです。このまま使っていくとまずいなというような予見ができたりするのは、声なき声をちゃんと聞くアンテナがあるからだろうと。
ネパール自体のGDPが鳥取の半分くらいしかない。それで3,000万人いる。その中の、統計がよくわからないんだけれども、130万人から600万人の間の何人かがカトマンズに集まっているらしいんです。ネパールでも日本同様に、地方には老人しか残っていなくて、若者が都会に出ます。その若者もネパールでは稼げない、限界があると言って海外に行きますという感じで流出しているんですけれども、そのネパールの中でもいろいろあるんですね、関係だとか、もっと守りたいとか、一回外に出て戻ってくるとか、日本とほぼ同じ構造が見えているんですけれども、違うなと思ったのはアンテナの感度なんです。
ネパールでは、周りに配慮して、背景なんか考えていたら、とてもじゃないけれども、前に進めなくなるというのことに5日目くらいに気づいた。日本人的な感覚で相手の思いとか、その後ろにいる背景みたいなものを考えながらやっていたら、スピードについていけない。感度を3分の1くらいに絞ったんです。一方、こちらからの発言、つまりインではなくてアウトは3倍くらいにボリュームアップする。それでちょうど良くなる。6日目くらいにちょっとやってみたんです。そうしたら、えらいうまくいきました。日本人のセンシティブさは海外に行った時に単なる萎縮になってしまうことが多いのです。このあたりは変える必要がある。
ボリュームアップしてズケズケ入ってくる中国にはうんざりしているようでした。でそれの対局にあるのが日本で、向こうでザパンと言うんですけど、ザバンという名称だけでクオリティを担保しているから、ジャパンクオリティとか、ジャパントラストという言葉が不要なんです。ジャパンという言葉があるだけで、それは信頼であり、高品質ということを意味するのです。
所詮、日本が強いのはアプリケーション層。一方プラットフォーム層は弱い。ただものづくりとITの接点みたいなところは日本の競争力になるような気がします。そしてこれに
「食」がついてくる。ネパールでは、メイドイン・ネパールは例えば水を売っていると、500mlが大体20ルピーなんですけど、メイドイン・ヨーロッパになると200ルピーになる。およそ1円1ルピーなんですけど、国内産と海外産で10倍違う。10倍違うやつが売れる。メイドイン・ジャパンもヨーロッパ価格、あるいはそれ以上で売れるはず。
そして水以上に「美味しいジュースが飲みたい」のだそうです。フルーツジュースが偽物しかない。口に入れるものについては信頼性が非常に重要にもなるので、日本製品はとてもチャンスがあると思います。
-- 日本の地方創生の鍵は、むしろ、海外の売り上げにあると。
三宅 重要な鍵の一つです。猿払(北海道)などはもはや東京を相手にしていない。海外だけでいい。東京の2倍から3倍の価格が設定できる。ただ、日本に足りない人材は海外と猿払を繋いでくれるような人です。そういう意味も含め、最近、“ソーシャルクリエイティブ”というキーワードが気に入っています。いわゆるクリエイティビティ以上に、社会的な潜在的価値をうまくデザインできるデザイナーが必要なんです。それが具体的な行為としては「つなぐ」と言うことになるんじゃないかと思うのです。
それともう一つ。そのつなぐひと、つまり地域コーディネータがその地元の出身の方がいいのではないかとよく言われますが、これについては、主・従の関係があるとすれば、コーディネータは主役ではないのですね。あくまで主従関係でいうと、主が地元、従がコーディネータです。なので、つなぐ役割の人は地元である必要はないです。地元出身ならではのメリットもないわけではないけど必要条件ではない。このあたりの法則も含め、今回ネパールに行ったことで、フラクタル構造がどのドメインでも同じという自分の仮説がそんなに間違っていなかったなとも確信しました。今年から本格稼働しますよ(笑)。
--------------------------
三宅創太(みやけ・そうた)
1977年生 環境・建築系企業、コンサルティング会社での勤務を経て、2014年3月に合同会社ツクル設立し、代表に就任。ITコーディネータ(経済産業省推進資格)、日本イノベーション融合学会(専務理事)、ビジネスモデル学会、地域医療福祉情報連携協議会、農業の専門家協議会ALFAE、士業ITアドバイザー協会等に所属。2017年に一般社団法人・創生する未来の理事に就任。街作り、地域創生に関するあらゆる企画を立案し、実行中。
近著に『ツクル論』
聞き手:竹田茂(たけだ・しげる)
1960年生 日経BPを経て2004年にスタイル株式会社を設立(代表取締役)、WirelessWireNewsプロデューサ。
近著に『会社をつくれば自由になれる』
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちら特集「創生する未来」は、同名の一般社団法人「創生する未来」とWirelessWireNews編集部の共同企画です。一般社団法人「創生する未来」の力を借りることで、効果的なIoTの導入事例などもより多くご紹介できるはず、と考えています。