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未来へ起動する装置のスイッチを押す首長(秋田県仙北市 市長 門脇光浩)- 日本を変える創生する未来「人」その1

2019.02.03

Updated by 創生する未来 on February 3, 2019, 20:08 pm JST

地域の鍵となる人物はどこで何をしていて、どうやったらつながることができるのか。特集「創生する未来」では、全国のコトを動かす地域のキーマンを紹介し、読者につながる機会を提供するため、今回から「日本を変える創生する未来『人』」の新連載をスタートする 。第1回で紹介するのは、秋田県仙北市の門脇光浩市長だ。現在、人口約26,000人の同市が抱える少子高齢化の取り組みは、地方行政が共通で考えるべき課題。その意味で、仙北市は日本の地方都市の縮図でもある。「このまま何も手を打たなければ、数十年後には故郷が消えてしまうかもしれない」そんな強い危機感から、市長3期目の同氏は、さまざまな改革の狼煙を上げ、仙北市を地方都市のロールモデルにすべく奮闘中の毎日だ。

秋田県には全部で25自治体あるが、仙北市のような取り組みは、まだどの自治体で挑戦していない。一般社団法人創生する未来 代表理事の伊嶋謙二が、これまでの仙北市の施策や現在進行中の計画、今後の方針などについて話を聞いた。

秋田県仙北市長 門脇光浩(かどわきみつひろ)氏。1960年7月26日、旧西木村(現仙北市西木町)に生まれる。秋田県立農業短期大学畜産科を卒業後、西木村役場に採用され、2003年に秋田県議会議員に当選。2009年、仙北市長に就任し、現在で三期目。

有名な観光地を抱えながら、人口減少率が著しい仙北市の危機感

まず仙北市がどこにあるのか、読者のみなさんはご存じだろうか? 即答できる人はあまり多くないかもしれない。同市は、秋田県の東部中央に位置し、農林業と観光業が盛んな一地方都市だ。秋田新幹線の開業から観光客が増加し、東北屈指の観光地にもなっている。仙北市の名前を知らなくても、観光地の名称を挙げれば、聞いたことくらいはあるだろう。

仙北市の中央に位置する田沢湖。水深423.4mは日本で最も深い。ほぼ円形の形状で直径約6km、全周約20km。夏には湖水浴も可能な美しい湖である。

たとえば、市の中央には日本で最も深い神秘的な田沢湖が鎮座している。

新幹線も停まる角館は「みちのくの小京都」と呼ばれ、風情が漂う武家屋敷や商家が残る歴史の町として人気が高い。春には見事な桜が咲き誇り、祭りも開催される。

「みちのくの小京都」と呼ばれ、風情が漂う武家屋敷や商家が残る歴史の町、角館も観光名所だ。桜が咲き誇る春にはツアーも盛んだ。

日本有数の温泉地もある。田沢湖にも温泉郷があるし、毎分1000リットルもの湯量を誇る水沢温泉郷も近い。さらに乳頭山麓には7つの湯が点在する乳頭温泉郷があり、白濁の湯が有名だ。「効きの湯」として親しまれる玉川温泉も、疾患の治癒のために昔から多くの人が訪れる、知る人ぞ知る名湯である。

仙北市は人口減少率が非常に高い。人口減少に伴って、生産人口も減少していくため、歯止めをかける有効な施策が求められている。

そんな観光地を抱える仙北市だが、日本各地の地方都市と同様、少子高齢化に伴って、深刻な人口減少に直面している。同市は13年前に3つの町村が合併して誕生したが、当時の人口は約32,000人は現在約26,000人まで減少している。13年間で6,000人も落ち込んでいるという。このペースでいくと、2030年以降には2万人を割る計算だ。

門脇氏は「人口減少率が非常に高く、早いスピードで推移しています。何とかしなければいけないと感じました。危機感がつのるなかで、とにかく仙北市らしい魅力的な街づくりをしていくための施策を模索していたのです」と当時を振り返る。

そんな折り、政府が新しい経済特別区域として「国家戦略特区」をぶち上げ、地域限定の規制緩和や税制面優遇などをスタートさせると発表。この好機を門脇氏は見逃さなかった。いち早く手を挙げたこともあり、運よく2015年3月には地方創生特区の2次指定に選ばれた。こうして「日本最北端の国家戦略特区・近未来実証特区」は誕生した。

とはいえ、その後の道のりは簡単ではなかった。門脇氏は「いちはやく特区に名乗りを上げたものの、一部の市議からの風当たりは、かなり厳しいものがありました。そもそも足元の地方行政がまだ道半ばなのに、そんなことをやっている場合ではないという声も上がっていました。そういったご意見も当時は確かにもっともなことでした」と振り返る。

しかし門脇氏はくじけなかった。というよりも、むしろ楽しむかのように周りの圧力を受け止めて、周囲を何度も説得し、市議会でも喧々諤々の議論を戦わせながら奮闘してきた。
そのような中で、ようやく同氏が矢継ぎ早に打ち出した施策がうまく回り始め、多くの支援者も現れるようになったのだ。

ドローン、自動運転。仙北市を近未来の先端技術を試せる実践フィールドに

ここ数年間で門脇氏が推進してきた取り組みについて見てみよう。地方都市としては異例と言えるほど、数多くの先進的な実証実験を支援してきた。たとえばドローンによる取り組みは代表的なもの。2016年には地元の小中学校1.2kmの距離で図書を輸送するドローン配送実験を敢行。また河川敷に咲くソメイヨシノをドローンで空撮し、観光PRに利用するなど、積極的に活用している。

ドローンに関する取り組み。図書配送の実証実験。「仙北 インターショナル ドローン フィルムフェスティバル」でも、素晴らしい映像作品が集まった。

昨年は特区プロジェクトとして「仙北 インターショナル ドローン フィルムフェスティバル」の第1回が開催され、海外からも含め、レベルの高い空撮作品が集まった。四季折々の自然をドローンならではの視点で切り取り、映像作品として昇華している。

また自動走行に関する先進的な取り組みも行っている。田沢湖畔にて、レベル4の無人運転バス行動実証実験にトライ。これはDeNAの車両(フランスEasyMile社製)を借りて行ったものだ。今後は地元の気候を生かし、路面の凍結や積雪といった厳しい環境での実証実験も進めていきたいと考えている。

自動走行に関する取り組み。東京オリンピックに向け、急ピッチで開発が進む無人化カーだが、北国では路面凍結や積雪といった課題もあり、その検証も求められている。

さらに昨年、経済産業省から地方版IoT推進ラボとして「仙北市IoT推進ラボ」が認定された。仙北市における産業づくりや市内企業が自発的に近未来産業へ参入することを促進するための事業創造計画「SEMBOKU FLIGHT PLAN」も策定され、2020年までに30超の新事業群を選定・支援していく予定だという。最新テクノロジーの実装のため「異分野の仲間が日常的に集まり、取り組んでいくリアルな場にすること」を目標に、「FoSTAR計画」の準備も始まっている。このFoSTAR計画は、仙北市を情報技術と人工知能とロボットの実証フィールドとして機能させるものだ。

門脇氏は「いま我々は仙北市を現実的なフィールドにして、IoTやAIに興味を持つ人材や企業を呼び込もうとしています。地に足が付いた地場産業まで展開できるように挑戦を始めています」と意気込みを語る。

地域活性化のアイデアも続々。田沢湖を空港にする仰天プランは実現するか

これ以外にも、仙北市を活性化させるユニークなアイデアはいくつもある。たとえば、いま秋田県には、秋田空港と大館能代空港の2つのエアポートがある。そこに第3の飛行場として田沢湖を加えようという案。「湖を飛行場に?」と不思議に思われるかもしれないが、水上飛行艇を使えば離着陸は可能だ。

「いま、ある事情で計画は一時的にストップしていますが、なんとか実現したいと思っています。第三の空港には資金は要りません。なぜなら水面が飛行場になり、そこに飛行艇を飛ばせばよいからです。瀬戸内海では同様の事例がありますが、まだ湖での国内事例は1つもありません。実現すれば、たとえば函館空港や仙台空港からダイレクトに飛行艇で田沢湖に乗り入れられるかもしれません」(門脇氏)。

たしかに、これが本当に実現できれば、地の利の良くない仙北市でも、より多くの観光客を迎え入れられるかもしれない。仙台空港は国内だけでなく、中国・香港・台湾・シンガポール・韓国・ベトナム・マレーシアなどの便が多く就航し、インバウンドを引き寄せる呼び水になるだろう。仙台に来たついでに仙北へ、という「仙仙ルート」の期待も高まる。

今年に入ってからも、仙北市はユニークな活動を積極的に進めている。この6月に同市は「SDGs未来都市」に選定されたのだ。「SDGs」は、国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の国際的目標だ。経団連がSociety 5.0の実現を通じ、SDGsの達成を柱に企業行動憲章を改定したことで、にわかに注目が集まっている。

仙北市は、この6月に同市は「SDGs未来都市」に選定されたばかり。SDGにおける17の目標が、仙北市が掲げていた行政目標に合致していたからだ。

「SDGsにおける17の目標は、我々の行政の目標に合致するものです。仙北市は、だいぶ前から同様の方向性をもつゴールを明確に設定していました。たとえば市の第二次総合政策は“小さな国際文化都市”。市民と行政が誇りある“まちづくり”を進め、産業を活性化することで、生活の豊かさを実感できる姿を目指すものです。たとえ人口減少問題が避けられないとしても、SDGsの考え方を積極的に取り入れ、経済・社会・環境面から、相乗効果を期待できる施策を実施したいですね」(門脇氏)。

たとえば、2030年に仙北市が設定する経済・社会・環境の側面からの優先的なゴールは次の通りだ。しかしKPIは数値的な目標として掲げるものの、それを旗印として、いかに行動を起こすかが重要だという。

2030年に向けて、仙北市が目標とする優先的なゴール(経済・社会・環境の側面から)。

「私自身はKPIよりも、方向性のほうが重要だと感じています。日本の現状を考えると、どこの地方都市でも人口が減るのは致し方ないことですが、それでも地域経済をしっかり維持できるようにするには一体どうしたらよいか、それを考えたほうがよいと思います。150年前の戊辰戦争のとき、秋田の人口は64万人でした。それが明治以降から増えていき、また現在、人口が減少に転じ94万人になりました。しかし、新しい日本を切り拓いた明治の日本人は、いまよりも遥かに少なかったのです。ですから人口というかたちで見える数よりも、日本を変えるんだ! という気概を持った人々がいるかどうかのほうが大切だと思うのです。」(門脇氏)。

規制のサンドボックスへの挑戦 特区を成果につなげる仕掛けとは

昨年、政府の閣議で、規制の「サンドボックス制度」が創設された。サンドボックスは砂場の意味だが、その意図は、ドローンや自動走行などの先進的な実証プロジェクトを進めるにあたり、最大限制度的な規制を取り払うことで、関係機関との調整をスムーズにしようというもの。サンドボックス=非干渉地帯(無法地帯)をフィールドとして、やる気のある企業にどんどん実証を進めてもらおうという狙いだ。仙北市ではこれを受けて、市民生活の課題解決につながる実証実験の誘致活動を継続して注力していく方針だ。

さらに「スーパーシティ」5原則という叩き台も竹中平蔵氏から提案されている。これは世界最先端の技術を実証実験するだけでなく、地域を第4次産業革命の未来社会や生活を包括的に先行実現するショーケースとすることを目指すものだ。

スーパーシティ5原則(たたき台)。域内でミニ独立政府をつくり、運営主体となって規制を変えていく。規制緩和を一層進めることで、第4次産業革命の未来社会や生活を包括的に実現するショーケースを目指す。

「この施策の凄い点は、その域内では国・自治体・企業が構成するミニ独立政府をつくり、運営主体となるという考え方です。そして、地域の規制に関する設定の権限が、ミニ独立政府と住民に委ねられるのです。こういった方向性は、仙北市でも非常に大きなエネルギーになるでしょう。ただ主体者は行政でなく、あくまで民間です。民間が規制緩和された地域を拠点に、さまざまな社会貢献や技術展開を行っていくことを狙いとするものです」(門脇氏)。

つまり、いくら規制緩和された環境が整ったしても、それを利用し、事業を起こす民間の活力がなければ施策は進まない。そこで、仙北市が用意したのが次の一手。2018年12月末に設立された、内閣府と仙北市の共同事務局だ。兵庫県養父市、東京都に次いで、仙北市に内閣府の3番目の共同事務局が置かれることになった。

「共同事務局は、国家戦略特区の事業を推進するために、国と自治体が一丸となって、組織的にまとめていくという狙いで設立したものです。特区の目標を設定し、本当に実りある成果を出そうとしています。仙北市の場合は、北国の自動走行の実証実験、雪対策の自動除雪機など、技術革新への先進的なチャレンジを盛り込んでいます」(門脇氏)。

果敢に次の一手を打ち、民間の力を呼び込むことで、地域活性化に向けて走り出している仙北市。だが本当の意味での具現化は、これからが正念場だ。最近では門脇氏のパワーと行動力に先導され、明らかに市政の空気感も変わってきているようだ。今後の同市の取り組みが、果たして地方創生のロールモデルとなるのか。未来の地方都市の行方を占う意味で1つの試金石になるだろう。

実は秋田県仙北市は、一般社団法人創生する未来が最初の支援地域として関わった街だ。本気で支援をしようと思った理由は、誰よりも地元を変えなくてはいけないと切実に思う熱い首長がいたからに他ならない。自治体行政は市役所、議会、市民という三位一体が重要であるが、思うようにいかないことばかりで、とんでもないバランス感覚を必要とされ、特に新しいことを始める際には信じられないほどの忍耐と同時に逆に思い切りが重要となる。そんな地域行政の革命児(本人はそう思っていないかもしれない)、門脇仙北市長を創生する未来「人」認定1号とする。

(インタビュアー:一般社団法人 創生する未来 伊嶋謙二 執筆:フリーライター 井上猛雄)

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