タブーに踏み込んでこそ活路が見える。マイナスからスタートする地域で関係人口をどう作るか - 福島県浜通りの未来を考える〈相双フロンティア会議〉
2019.05.10
Updated by SAGOJO on May 10, 2019, 14:46 pm JST
2019.05.10
Updated by SAGOJO on May 10, 2019, 14:46 pm JST
日本各地に点在する消滅可能性都市。過疎化が進む中でひとたび地震や噴火といった自然災害が起きれば、それが地域の衰退に追い打ちをかけてしまうことは珍しくない。
なかでも、東日本大震災の原発事故は特殊だ。被害規模の大きさもさることながら、放射能による被ばくは風評被害もふくめ、通常の災害にくらべ影響が長期にわたる。分からないことの多い放射能は、いまだ一般の人が語ることすら難しく感じるテーマだろう。福島県東部の相双地方では事故を機に住民が激減*した上に、2011年の災害から8年が経った今も、地域によっては避難指示が続く。避難が長期にわたった地域ほど、避難解除後に戻ってくる住人は多くない。復興庁が廃止になる2021年3月末も近づいてきて、行政の施策も頭打ちになってきている感は否めない。
*平成27年10月1日国政調査の結果、平成22年との比較で福島県相双地方の人口は84,005人(42.9%)減。
そんななか、福島県浜通りの関係人口を増やすための実験的な施策として、2019年2月、東京・新宿にて「なんにもないところから何かがはじまる。福島県浜通りの未来を考える 〈相双フロンティア会議〉」と銘打つイベントが開催された。現状を打破し、タブーを乗り越え、関係人口を増やすための工夫が、〈相双フロンティア会議〉には施されていた。復興における考え方の一事例として、このイベントレポートを通して紹介したい。
今回のイベントの発起人は、「うつくしまふくしま未来支援センター」の島崎氏と黒田氏。これまでも、原発事故後人口が激減し、担い手が圧倒的に不足してしまっている相双地域の現状を変えるべく、地域課題解決型復興スタディツアー『SOU-SOU Re:born(リボーン)ツアー』など、関係人口を増やすための施策を仕掛けてきた。
今回のイベントは、そんな島崎氏と黒田氏が知人から、フリーランスやパラレルワーカーなど、スキルを持った「旅人」のネットワークによって企業や地域の課題を解決するサービスを展開する都内のスタートアップ 「SAGOJO」を紹介されたのをきっかけに、双方協働のもと企画した。
福島県のなかでも原発が立地し、事故の被害規模が大きいのが海沿いの相双(浜通り)地域。その各自治体職員と、“旅人” という異色の組み合わせ同士が集い、福島の未来に向けてアイディアを出し合った。
“旅人” の中にはバックパッカーもいれば、地方に関わり合いを持つ者も多く、クリエイティブ業に身を置くものや、会社経営者・フリーランスといったユニークな肩書きを持つ者も少なくない。彼らに福島の生の声を伝え、共に考える機会を持つことで、関心を持ってもらうのがイベントの目的だ。
テーマが難しかったりセンシティブであればあるほど、話し合いの場は緊張が走りやすい。気を遣って意見を言えなくなっては本末転倒だ。
そのため、「相双地域に関わりたい人を増やす」という目的に向け、運営側では、福島の原発被害の実情や問題点といった、一般にタブー視されがちな話題について、気負いなく活発に語れるような場作りを第一に考えた。
それを踏まえ、イベントのタイムテーブルを下記のように設定。
4時間の長丁場のイベントには、あちこちに工夫が施されていた。※1〜3をセクションごとに紐解いていこう。
▲各自治体で持ち寄った福島県産の地酒が参加者に振る舞われた
このイベント一番の特徴は冒頭にあると言ってもいいかもしれない。
イベントの多くは、最後に懇親会はあっても、スタート時は粛然とした空気のなかはじまるパターンがほとんどだ。互いが何者か知らないまま意見交換になるため打ち解けにくく、そのゆえ、意見も活発化しにくい。
さらに、今回は福島がテーマ。いつも以上に、リラックスした雰囲気づくりを心がける必要があった。
そのため、場所は白熱灯に照らされた会議室ではなく、カフェ風のスペースを選択。また、イベント開始前の懇親会として、各自治体が持ち寄った福島産の地酒の試飲タイムを設け、酔ってもいいという“無礼講”的要素を仕込んだ。
実際、この冒頭の時間から、町役場と旅人という異なるバックグラウンドの参加者間で自然に会話が生まれ、狙い通りフラットな雰囲気からスタートを切ることができていた。地域由来の日本酒というチョイスも、会話のネタとして最適であったように思う。
この時間は、参加者のインプットの時間として使われた。
1時間30分ある前半は、ファシリテーターを務めるSAGOJO取締役のスガタカシ氏が実際に相双地域を視察した際の写真を紹介しつつ、現地で感じた空気感をレポート。後半は、自治体職員らが各市町村の生の声をアウトプットしていった。
とりわけ福島に関しては現地と外の人たちの間で情報格差が大きく、もちろんイベント参加者の知識レベルもさまざまだ。
スガ氏が相双地域を訪れたのは2回目、しっかり地域の方と話したのはイベントに向けた今回が初めてだという。
わざわざ現地まで行きレポートを行った理由は、参加者に、現地に対して自分ごととして考えてもらうための第一歩として、追体験の機会を提供することにあった。
写真を指しつつ、地域間の生活レベルの格差や、用途のわからない施設の存在意義など、人によっては「不謹慎」と感じるかもしれないような部分も、スガ氏は躊躇なく感じたままを口にしていった。
そして、そのままの流れで自治体職員のトークセッションに突入。
自治体としての建前ではなく、現地で頑張る一個人としての本音の発言に重きが置かれた。
このセッションでは、ファシリテーターの動きがさらに重要になった。
「よそ者である自分がある日突然相双地域に行ったらこう感じた」という率直な目線でファシリテーターのスガ氏自身が語り、その上で「原発の身近で働いて自身の健康に不安はないか」「町長の方針に現場はどう感じているか」といった、行政のオフィシャルな広報では言えない職員のリアルな心の動きに踏み込む内容を自ら率先して質問することで、参加者が「聞きたいことを聞いていい」状態に導いていった。
触れづらいタブーにこそ、問題が潜在しており、転じて活路があるものだ。
実際、トークセッションやその後の参加者との質疑応答を通じて、情報発信力の弱さや、クリエイティブの“ダサさ”、費用対効果の合わない施策などさまざまなウィークポイントが明らかになっていった。
このように、現場が抱える問題を充分に掘り下げたうえで、イベントのクライマックスであるワークショップへ進んだ。
このセッションでは、トークセッションで共有した相双地域の問題を解決する方法を、ブレインストーミングを通して模索していった。
ブレストのワークショップは、ワールドカフェ形式で行われた。
ワールドカフェとは、各テーブル4〜5人で、数十分のブレストを数ラウンドおこなうもの。1回の話し合いが終わるごとに、各テーブルのリーダー1名を残し、メンバーチェンジをしていく。意見やアイディアは大きな模造紙に自由にメモしていき、都度全体で発表・共有していく。
ワールドカフェのメリットは、テーブルごとの人数が1人ひとりが発言するのに適していること、テーブルを回ることで複数のアイディアや考え方を共有できること、テーブルを分けながらも、全体で話し合う連帯感が生まれやすいことなどがある。
今回のブレストの主軸は「福島に継続的に関わる人を増やすにはどうしたらいいか」。
それを踏まえ、つぎの3ステップの副軸で話し合いを進行した。
「1.相双地域、こうなったら面白い!」で、まず、具体的なゴール設定を。
「2.その未来に向けて、どんな人に、何をしてもらいたい?」で、1で定めたゴールに向かうためにどんな業種やタイプの人間が必要で、地域のためにどう立ち回ってもらいたいかを。
「3.どうやって関わる人を増やす?」で、2のような人に協力してもらったり、巻き込んでいくためにどうするかを。
6つに分けた各テーブルに残るリーダーは、自治体職員に限らず、すでに他で地方創生に関わっている人や、地域で事業をしている人などから選出した。
▲ワールドカフェ形式でディスカッションを進める参加者ら
▲各テーブルの模造紙には、アイディアを記したメモがびっしり
事前に充分な現状把握や問題点の共有を行ったことが功を奏してか、どのテーブルでも活発なアイディア出しが行われた。
▲ディスカッションで出たアイディアをテーブルごとに発表、全体で共有
アイディアの一例を下記に紹介する。
「情報発信力の弱さやアピールセンスの面を、Youtuberやクリエイティブ業界に対価を払って委託することでまかなう」
「多拠点で活動する人が増えている時流に乗って、税金面などを整え、フリーランサーや多拠点移住者が活躍しやすいモデル都市にし、人を呼び込む」
「広大な土地が余っていることから、研究施設やレース会場といった大規模施設を誘致する」
「海外でも福島に関心を持つ人もいることから、県内で旅行会社を作り売り込んで、直接外貨を得る」
などなど。
原発事故で日常が一変してしまった福島県浜通り地域だが、望むと望まざるとにかかわらず、日本で原発事故はここでしか起こっていない。原発事故によって「FUKUSHIMA」が世界的に知名度を上げたことも事実だ。広大な無人の土地も生まれた。「他の地域との差別化」という視点で発想を変えれば、確かに原発事故は他の地域にはない強いツールとなりうるかもしれない。
未曾有の災害が起こったことは事実だが、過度に感傷的にならず、現在の状況と使える資源を把握した上で、ある意味で割り切ったビジネス的な発想をするには、外モノからの目線を取り入れたほうが見えやすいのかもしれない。また今のトレンドを踏まえたアイデアも、クリエイティブや発信に関わる業種で、普段から意識的に情報収集している人ならではのものだったと感じた。
▲参加者で記念撮影。この後懇親会へ
イベントを終え、自治体職員側からは、全体的に活発で自由な雰囲気のディスカッションが行われ、旅人というニッチな人種に触れることで発見があったという感想が。
参加者側からも、福島県浜通りのなかでも地域で全然状況が違うことを初めて知った、そこに自分のスキルが役立てられるイメージが湧いた、といった前向きな感想が見られた。
▲参加者には各地方自治体から広報グッズが配られた
また運営側でも、アイディアがそのまま使えるものかどうかは置いても、参加者がある程度自分が関わるイメージをして意見を出していたことが、「福島県相双地域に関心を持ってもらう」というイベント目的には即しており、ひとまず成功と捉えている。
ただし今回は、あくまでもブレストを通した「発散」のためのイベント。「関係人口を増やす」という目標の実現に向けた具体的なアクションに変えていくのはこれからだ。
マイナス要素を抱える地域が外から人を呼び込むには、闇雲に地域の魅力をアピールすることより、外部の人が関わりづらいと感じている現実にしっかり目を向け、その前提を払拭することから始めなければならない。
そのため、復興の未来に行き着くには、他の過疎地域より段階を踏んで丁寧に仕掛けていく必要があるだろう。
今回のイベントで出たアイディアのなかには、参加者間で実際に動き出しているものもある。アイディアがブラッシュアップされ、内の者と外の者が福島復興に向けどう協働していくか。進展があり次第、適宜この場でレポートしていきたい。
(執筆:齋藤玲乃)
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