キーパーソンとベンチャーのタッグが地域の光明になる。ドローンユーザーを呼び込み、地元の人も知らない資源を発掘 − 白山市 SDGs未来都市×KITイノベーションハブ「里山エンターテイメント」
2019.08.20
Updated by SAGOJO on August 20, 2019, 20:29 pm JST Sponsored by 金沢工業大学
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「SDGs未来都市」に選出されている石川県白山市と同県の金沢工業大学の「KIT Innovation Hub(地方創生研究所イノベーションハブ)」 が連携する「里山エンターテイメント」プロジェクトの一環として、白山市鳥越地区において「白山ひまわり畑 ドローン空撮コンテスト」が開催された(2019年7月26日~8月11日)。
「里山エンターテイメント」とは、白山市の里山エリア一帯をエンターテイメントの舞台として活用しようというプロジェクトで、今回のイベントはドローンベンチャーの「株式会社Dron é motion(ドローンエモーション)」(東京都新宿区/代表:田口 厚)との共催で実現した。イベント開催のキーとなったのは、地域のキーパーソンの存在と、ドローンエモーションが提供する「そらチケ」というシステム。地域創生という難題にドローンを活用できるのか。実験的試みの現在地と未来を探る。
石川県白山市は2005年に1市2町5村が広域合併して誕生した。県内最大の面積となり、総人口は金沢市に次いで2番目に大きい自治体となったが、合併後は海辺に面した平野部のみ人口が増加。もともと1町5村が存在した中山間エリアでは、この15年でさらに人口が減少している。今回「白山ひまわり畑 ドローン空撮コンテスト」が開かれた鳥越地区(旧鳥越村)も同様。少子高齢化が加速する、いわゆる過疎地域だ。
イベントを主催する「ひまわりの集い実行委員会」の事務局長・北出立也さんは、語る。
「過疎のとこはどこも同じだと思いますが、まず、人を呼び込まないといけないという課題があります。でも単発のイベントじゃあ滞在時間も短く、一過性のものになってしまう。足止めできる方法を考えないといかんし、継続的に来てもらえないといけない。なのに、これまではイベントをするしか発想がなかったんです。特に地方は自然相手のイベントに手を出しがちで、うまくいかないこともある」
過疎地域が抱える課題は関係人口をいかに増やすかだが、起死回生のアイデアは簡単に思い付くものではない。苦し紛れのイベントにお金と人手をかけても、空振りに終わる。同じように「イベント疲れ」にある自治体は多いのではないか。しかし、もちろん、こうしたイベントを打つだけでは「関係人口」を効果的に増やすことはできない。
実は、「ひまわりの集い実行委員会」が主催するイベントも今年で3年連続3回目。「農事組合法人んな~がら上野(かみの)」より借りた集落営農地1万平米に、今年は地元の園児50人がひまわりを植えた。これまでと同様、園児や小学生を対象とした「ひまわり写生大会」も実施し、イノシシ肉や地元の米を使った「ジビエライスバーガーコンテスト」も同時開催した。しかし、これだけではいつもと同じく単発イベントに終わってしまう。
そこで今年開催する運びとなったのが、ドローンエモーションと協働した「白山ひまわり畑 ドローン空撮コンテスト」。関係人口を増やせる可能性が見えたからだ。
まず、ドローンパイロット側が期待していることと、ドローンエモーションが提供する「そらチケ」の仕組みについて簡単にまとめておきたい。
ドローンは、改正航空法による規制がかかりどこでも自由に飛ばせる訳ではない。法により規制がかかる空域(空港周辺や人口密集地)では、国道交通大臣の許可が必要となるが、それ以外の空域で飛ばす場合も地権者の許可が必要になる。ドローンパイロット側にとっては、この「地権者への許可取り」がネックとなっている。結果、多くのドローンパイロットは、仕方なく自宅室内で飛ばすか、屋外では自分の所有地で飛ばすくらいしかできないのが実情だ。
「そらチケ」は、この「地権者への許可取り」をドローンエモーションが代行するシステムだ。ドローンパイロットは「そらチケ」に登録すると、全国の地図上にマッピングされた飛行可能エリアを確認できる。そしてチケット代(一人5000円)を購入すれば、該当エリアでドローンを飛行させられる。万一の事態に備えて最大10億円の保険もかけられる。ポイントは、地権者に対してチケット代から1000円のキャッシュバックがあること。
つまり、「そらチケ」を購入する人がいれば、ドローンパイロットが現場に足を運ぶだけでなく、地権者に対しても確実に(少額とはいえ)お金が落ちるサービスなのだ。
イベントをバックアップする金沢工業大学連携推進課の中山尚武氏は語る。
「昨年の頭ごろ、研究以外のフェーズでドローンを活用して地域活性化に繋げられないかと模索している時に、ドローンエモーションの田口さんとお会いしました。何百万、何千万円とかかる地域創生のアイデアを話されるベンチャーの方はたくさんいらっしゃいますが、『そらチケ』は地権者の方が納得していただければすぐにできるアイデアです。そこに北出さんが乗っていただけて、渡りに船という感じですぐに企画が決まりました」
もとより問題意識の高い地域のキーパーソンと、優良ベンチャーの斬新なアイデアが見事にマッチングしたわけだ。
そして、実際にドローンを飛ばしてみることで分かったこともあるという。
「田口さんに白山に来てもらうと、『ここもあそこもドローンで撮影したら絶景ですよ』と教えてくれました。ここに住んでいても知らない、分からない景色がまだまだある。何気ない景色がものすごい絶景に見えるということが分かりました。ドローンには、潜在的に埋もれていた観光資源を掘り起こせる可能性があるということです。ひまわり畑も、地上から見るのと上空から見下ろすのとではずいぶん違う」(中山氏)
ドローンって何? 危険じゃないの? と訝る地権者側も、これまで見たことのないアングルでの自分の土地の姿が見えたことで、その美しさに納得したようだ。
さらに今回のイベントでは、来場者とひまわり畑をドローンで撮影するサービスも行なった。その写真を来場者にSNSで発信してもらい、反響がどれだけあるかデータ化するためだ。
「行政は、安全面や反響がよく分からないという理由から協力に足踏みしてしまいます。きちんとデータが取れれば、自治体の所有地などでも横展開できるかもしれません。最終的には、白山市全域に広がる白山手取川ジオパークを『ドローン空撮スポット』にできれば、と期待しています」(中山氏)
最終的に、ドローンで撮影するサービスを体験した人数は1週間で300人以上にのぼった。イベント後半はSNSを見て来たという人が増え、ドローンをつかったコンテンツによるプロモーションに手応えも感じたという。
ドローン飛行スポットを増やせば、誘客できるだけでなく、限界集落にお金を落とすスポット作りにもなる。資源発掘にもつながる。一石三鳥のアイデアなら、夢は広がるだろう。
今回「そらチケ」を利用して、イベントに参加したドローンパイロットは6組。東京・大阪などからの申込みもあった。参加したドローンパイロットのうちの1組、白山市の隣、小松市在住の北 裕さんは、このイベントの情報をドローンパイロットのブログで知ったという。彼女の田村正美さんと二人で来場した。
「実家が農家なので、普段は家の田んぼとか、自宅内で飛ばしています。そらチケを知ってすぐに飛びついてきました。そらチケのように事前に許可を取ってもらえるのはユーザーとしてはとても助かります。これまでもドローンの飛行許可を市役所とかに取りに行くと、『よく分からないから禁止』という反応が多い。これはドローンがどういうものなのか、まだ浸透してないからだと思う。飛行させる機会が増えてドローンの認知度が高まることが大切だと思うので、積極的にツイートして広めたいと思う。一人でも多く来てくれないと、企画がポシャっちゃうかもしれませんしね」
ドローンが飛ばせる、というだけで誘客につながる。その上、ドローンパイロットもその発信には積極的だ。ドローンの飛行を受け入れることは、今のところ地域住民とパイロット両者にとってWin–Winの関係のようだ。ドローンの利用価値を知り、「ドローンが飛行していること」に地域住民の目が慣れていくことが必要だろう。
また、北さんは「ルール作りをしっかりすることが必要だが、ドローン撮影可能地域が増えれば、違反も防げるのでは」とも進言する。実際、ドローン先進国のアメリカに比べ、日本では法整備も認知も遅れている。2018年にはマイクロドローン(航空法適用外の200g以下のドローン)の技術革新があり、わずか30gの超小型機体も発売されている。機体重量の差は安全性や危険性の問題に直結するはずだが、これに法整備は追いついていない。段階的に小型機のみOKにするなど独自ルールを敷いてもいいかもしれない。
この「白山ひまわり畑 ドローン空撮コンテスト」は、北出さんにとっても「里山エンターテイメント」プロジェクトにとっても、これから白山麓を盛り上げていく足掛かりに過ぎない。ただし、北出さんにとっては、この度ベンチャー企業と協働できたことで、多くの手応えを得たようだ。
「そらチケのシステムは渓流釣りの漁協チケットの販売に使えるんじゃないか、ブロックチェーンのシステムはライドシェアに使えるんじゃないか、とアイデアがたくさん湧いてきます。金沢工大の方々からベンチャーさんを紹介いただき、いろんな話を聞いていると楽しい未来が待っている気がする」
地域について誰より問題意識を抱えているのは、そこの住民だ。外部者にすれば、住民にきっかけさえ与えられればアイデアは住民の側からいくつも出てくる。それは「地域創生」という難題にとって近道となるアイデアであるはずだ。
それに、北出さんの地域創生にかける次の言葉も印象的だった。
「(地域を良くしたい理由は)単に好きなんやもん。それしかない。田舎だけどいいなぁ、と思っとるし、離れたくもない。ただ、この好きな土地を存続させていきたいという思いだけなんです。ビルを建てたり、リゾート地にしたい、ということでもない。このままでいいから」
これ以上の言葉は不要だろう。「地域創生」は、住民側の郷土愛なくして成り立たない。地域創生に関わるあらゆる人は、いかにこの想いを汲み取っていくか、という視点を忘れてはならない。
もちろんさらなる課題として、関係人口を増加させるだけでなく移住・定住者を増やしていく必要がある。この課題にいかに立ち向っていくか。そこにドローンがどのように関わってくるのか。今後の展開に注目したい。
(取材・執筆 杉田 研人 / 編集・写真 スガ タカシ)
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