「お寺」と「旅人」の新たな出会い。寺院を中心とした地域創生の可能性(未来の住職塾 × SAGOJO)
2020.01.09
Updated by SAGOJO on January 9, 2020, 08:00 am JST
2020.01.09
Updated by SAGOJO on January 9, 2020, 08:00 am JST
かつてお寺は、旅人が気軽に足を運べる場所だった。旅の小休止のためばかりでなく、一宿一飯の恩に授かる者もいたことだろう。旅人はまた、僧侶に異国の情報をもたらす存在でもあった。お寺は、“旅する者”と“彼らがもたらす情報”が交錯する場所だったのだ。しかし、いつしか、旅人は一部の観光寺院にしか訪れなくなってしまった。
旅人(ヨソ者)の持つ知識や情報を、現代のお寺も求めている。お寺に人を呼び込めるアイデアならなおさらだ。一方、「お寺という場」でクリエイティブな能力を発揮したいと考える者もいる。そんな両者が出会う機会として、この度、初めて開催されたのが「Temple Meetup(お寺アイデアソン)」だ。主催は、僧侶や寺族向けに寺院運営の学び場を設ける「未来の住職塾」と、17,000人以上のクリエイティブな旅人が登録する「すごい旅人求人サイト」を運営する株式会社SAGOJO。門戸を開放したいと考える寺院僧侶と、そのアイデアを持つクリエイターや起業家との、新たな出会いの場となった。
「Temple Meetup(お寺アイデアソン)」は、2019年7月23日、浄土真宗本願寺派光明寺(東京都港区)において開催された。
全国には7万以上の寺院があるが、そのほとんどが檀信徒や地域住民によって支えられており、旅人が訪れるお寺は限られている。未来の住職塾は、多くの人が訪れる寺院にしたいと考える僧侶を募り、SAGOJOは、お寺に人を集めるアイデアを持つクリエイターを集めた。双方をマッチングさせることがこの会の狙いだ。
参加者は、東京、山梨、静岡、富山、新潟、京都、奈良、福岡など全国各地の住職・副住職22名と、web制作やイベント主催などの一芸に秀でた旅人クリエイター約30名。
「寺院資源活用のアイデア」や「地域課題の解決方法」などについて8人が登壇し、お寺視点とクリエイター視点から忌憚のない意見が交わされた。
SAGOJOは、旅人が地域の仕事を請け負う代わりに無料で宿泊できる施設「TENJIKU」を全国展開している。同社代表の新拓也氏は「寺院の仕事を手伝う代わりに、旅人を寺院に泊めてもらえないか」と自社プロジェクトをプレゼンした。
この発表に僧侶からは、「境内の草抜きや落ち葉拾いなどの作務を手伝ってほしい」「仏器磨きを手伝ってほしい」など、すぐさま旅人が寺院でできる仕事案が上がった。宿泊拠点として協力してみたいと声を上げる僧侶もあり、さっそく双方のマッチングが成立する一幕があった。
縁側カフェ、子供の坐禅会など、自坊で数々の企画を開いてきた曹洞宗一乗寺(静岡県静岡市)の丹羽崇元住職は、「お寺の山を丸々一つデザインしてほしい!」と大胆な提案を行った。鬱蒼と草木が茂る裏山の映像を流しながら、「これまでも地域の方々に要望に沿って活動してきた。自分では思いつかないようなアイデアが出てきたら嬉しい」と期待を語った。
このプレゼンにイベント主催を専門とする参加クリエイターは、「壮大な企画になりそう。自分一人ではなく、建築家やデザイナーの知人とプロジェクトチームを組めば、面白いことができるかも」と刺激を受けたようだった。
他にも、寺院僧侶からは、「裏山の竹林でタケノコがたくさん取れる。掘って食べるところまでを行事化できないか?」「ヨガ講師をできる人を紹介してほしい」など、それぞれの寺院の状況や環境に応じたプレゼンが披露された。会の後半の相互交流の時間には、クリエイターサイドから個別にアイデアが提案されたようだ。
とはいえ、今回は初対面の段階。プロジェクトが決まるまでには至らなかった。
参加したクリエイターからは、「これまでお寺の人と知り合う機会すらなかった。本堂を使ってもいい、と考えるお寺があることを知れただけでも大きい」、「お寺が持つ資源やポテンシャルはお寺によって全然違う、という当たり前のことに気づかされた。まずは実際に足を運んでお寺の状況を詳しく知らないと何ができるか想像もつかない。ただ、ヨソ者の視点からお寺さんが気づいていない魅力を発掘できるかもしれないと思った」などの感想が聞かれた。
参加僧侶からも、「イベントや広報のアイデアには刺激をいただいた。地方ではなかなか巡り合わないプロフェッショナルに出会えたのはありがたい。自分にはないアイデアが生まれるかもしれない」との声があった。
双方とも、この会でもたらされた「縁」には手応えを覚えたようだ。
一方で参加僧侶からは、「宿泊を伴う企画を提案される方が多かった。旅人をお寺に泊めるには、消防法や民泊新法に則った設備も整えないといけないし、地域の宿泊施設と利益相反にならないかといった配慮も必要になる。お寺ならではの特殊な状況を説明する間に終わってしまった」との意見もあった。
クリエイター側が寺院の抱える前提条件を理解できていれば、また別のアイデアを生み出せるかもしれない。今後の課題の一つだろう。
SAGOJOプランナーの石田奈津子氏は「関西、北陸、九州など別の場所でも開催したい。場所が変われば出会う人もつながりも変わり、新たなアイデアが生まれるかもしれない。ぜひ、イベントを継続していきたい」と今後の豊富を語った。
光明寺の僧侶で未来の住職塾の松本紹圭塾長は、「この会のアイデアはシンプルです。何か変えたいと思っているお寺と、お寺で何かやりたい人をマッチングすればいい。ただ、こうした場はありそうでなかった。今日のご縁で生まれる企画もあると思う。2回目以降は、今回生まれた企画を話せるかもしれない」と期待を込める。
改めて強調するまでもなく、寺院は、地域の歴史や伝統、文化を継承する重要なソーシャル・キャピタル(社会関係資本)である。寺院に対する関係人口が増え、寺院関係者や地域住民が「社会資本としてのお寺」をうまく活用できれば、地域を盛り上げるきっかけになるはずだ。もちろん、旅人がお寺に訪れるようになることが一直線に地域創生につながるわけではないが、ヨソ者である彼らが持つアイデアや知識、情報をお寺が活用することは、その糸口になり得る。「Temple Meetup」は、こうした「寺院を足がかりとした地域創生」というビジョンを感じさせるものとなった。
一過性のものではなく、同会で作られた一つ一つの「縁」が、地域を盛り上げる礎となることを期待したい。
(取材・執筆 杉田 研人 企画・制作 SAGOJO)
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